前号(「学生協だより」No15)でもお知らせしたように木造建築である有朋寮(築後約50年)の老朽化が進行し、特に大学は、地震発生時の倒壊や、火災発生時の焼失、なによりもこれに伴う入寮者の身体?生命の危険を懸念しています。
例えば、政府の地震調査委員会は10年後までに宮城県沖を震源とするマグニチュード7~8程度の地震発生の確率を約30%と見積もっています。ちなみに平成7年12月の学生部長会見の場で当時の学生部長は、阪神大震災によって「新寮問題」が緊急の課題となったと表明しています。(資料参照)
また、同じく老朽木造建築であった昭和舎の場合、幸運にも死傷者は出なかったとはいえ、消防車10台等による消火活動にも拘わらず、きわめて短時間のうちに全焼してしまいました。
大学は、このような老朽寮の危険性を十分認識し、平成6年6月、補導協議会に「老朽寮問題を考えるワーキンググループ」を設け、同年12月に「新寮建設計画案」を作成し、平成7年以降今日に至るまで、毎年の概算要求に新寮建設を盛り込んでいます。
それにも拘わらず、早期に老朽寮にかわる新寮を建てることができなかった最大の原因は、いわゆる新寮建設のための4条件と、東北大学学生寮自治会連合(寮連)等が大学と合意するための必須の条件だと主張してきたいわゆる「大衆団交」、すなわち学生部長会見における暴力的な実態との2点です。
前号でもお知らせしたように寮連等は一貫して、4条件を「新寮問題」における大学との間の、争点としてきました。この4条件について以下に説明します。
昭和55年「国立大学における厚生補導施設の改善充実について」と題する、「厚生補導施設改善充実に関する調査研究会」の報告が、文部省に対してなされました。この報告のうち「学寮の在り方」においては、(1)「設置の形態」として「現在の我が国の居住環境、学生の志向等からみて、学寮の新改築に当たっては、いわゆる新規格寮方式(個室、寮外食堂利用、光熱水料等の個室メーター設置)を採ることが適当」としています。(2)「管理運営」については、「学寮は、大学が設置し運営するものであり、管理上の権限と責任が大学当局にあることは言うまでもない」とし、「大学は入寮選考及び入退寮許可、経費の負担区分、使用に当たって順守すべき条件など必要な事項を学寮管理規則等で規定し、明確にする必要がある」としています。(3)「経費の負担区分」については、「市民社会における自明の原則として寮生の日常生活に必要な経費即ち私生活に係る経費は寮生が支弁すべきもの」としています。
この報告にみえる「個室(1)」、「寮管理規程(2)」、「私生活費自己負担」および「寮外食堂の利用(寮内食堂の不設置)(1)」が、いわゆる4条件です。従って国立大学である限り、今後新寮を建設しようとすれば、昭和56年度以降に現在の寮舎が建てられた、明善?松風?如春寮のように、4条件の具備が必須です。4条件を満足しない限り、大学は概算要求を行っても、文部科学省と、交渉に入ることすらできません。従来この4条件を拒否してきた寮連等は、そのことによって徒らに新寮の建設を遅延させ、今日の有朋寮の老朽化を招いたといえるでしょう。
私生活自己負担の原則については、すでに「電気料是正問題」の際に多くの議論があり、ここに改めて述べる必要はないでしょう。この報告によれば、すでに昭和55年の時点で入寮希望者の85%が個室を希望しています。それから20年後の今日では、この志向は、強まっていることはあっても、衰えていることはないはずです。またとりわけ公務員全般にわたる人員削減の社会的要求が顕著な現在では、公務員調理師?炊夫を常設する寮内食堂を、新規に要求することは、それだけで、新寮実現の可能性を事実上無くしてしまいます。
さらに、これら寮管理規程をふくむ4条件を満たしている新規格寮:明善?松風?如春寮などは、寮生の自主的な管理がなされ、又、使用料も他の民間住宅に比べ安く、学生間の共同生活によって得られる様々な効果や利点は何ら損なわれていません。
大学では、女子学生、大学院生、留学生の増加に対応するためにも、可能な限り新寮を建設していきたいと考えます。
平成8年12月、寮連は、当時の学生部長に宛て、「有朋寮?昭和舎建て替えに関する第二次計画案」(「二次案」)を提出しました。二寮についての要求はともに7項目からなり、第1項建て替え地、第2項入寮資格、第5項定員の計3項目以外の内容はほぼ共通します。いま有朋寮についての要求の概略を紹介すれば以下のとおりです。
第3項は「公務員炊フによる寮食堂を有するものとする」第4項は「全額国庫負担とする」第6項は「有朋寮の運営に関しては、建て替えに際して何等変わらない」というものです。
第7項「設備について」の「居室」に関わる部分は、「形態」として「全室2人部屋」を、「面積」として「12畳/1室」を要求しています。第3、4、6、7項のすべてが前述の四条件に明らかに抵触しています。
第3項は前述の「調査研究会報告」における「寮外食堂の利用」、第4項は同じく「私生活に係る経費は寮生が支弁」、第6項は同じく「必要な事項を学寮管理規則等で規定」、第7項は同じく「個室」の条件を、全く満足していません。
また、この「二次案」と同時に寮連は、「有朋寮?昭和舎の建て替えに際し、『寮管規』の適用を一切認めず、建て替え後も自主管理自主運営を貫いていく」旨の「宣言」を提出し、上記第6項を補強しています。
平成12年2月の「電気料是正問題」の解決によって「私生活に係る経費」については、実質的にほぼ問題は解決していますが、今日なお繰返される寮連等の「学寮は厚生施設」という主張からすれば、第4項「全額国庫負担」という主張は、依然として撤回されたわけではありません。
また平成8年から9年にかけて、計5回いずれも長時間にわたって行われた学生部長会見において、「二次案」からの寮連側の譲歩は一切ありませんでした。その点は寮連等のビラにみる限り、「全額国庫負担」以外の3点についても、現在においても全く変化はありません。
新寮建設に向けて寮連及び寮生との合意を形成するために、平成7年12月20日から平成9年6月11日まで5回にわたり学生部長会見(いわゆる「団交」)が行われました。これらの会見では、寮連側は、先に述べた二次案にあるように有朋寮や昭和舎(平成12年9月に焼失)と同じ条件で現在の場所に新寮を建てることを要求したのに対し、大学側は、今の時代に即した新しい寮の提案(留学生や女子を含む混住寮とすること、4条件を認めること、場所を三条地区とすることなど)を主張しました。
平成7年12月20日、片平キャンパス学生部(現学務部)大会議室において行われた寮連と学生部長との第1回の会見は、夕方6時頃から始まり翌未明4時過ぎに及ぶというもので、150名にも及ぶ寮生出席者のヤジが飛び交う騒然とした雰囲気の中で行われましたが、10名にも満たない大学側出席者の面前でフラッシュをたく、足をけるという威嚇?暴力行為があり、学生部長の体調不良によるドクターストップをもって終了しました。
また平成8年3月5日に行われた第2回会見においても、同じように寮生の怒号、罵声が会見に臨んだ大学側出席者に浴びせられました。しかも深夜1時頃には再び学生部長が「疲労困憊、脈拍も通常の倍近く、しかも時々抜け、直ちに安静、治療が必要」との医師の診断を受けてドクターストップとなり、その後ただちに入院するという事態が起きています。
その後、平成8年6月5日、12月4日、平成9年6月11日と新寮建設問題について3回の会見が行われました。それらの会見は全て夕方6時頃から5~6時間の長時間に及ぶというもので、学生部長の発言が「ナンセンス」などのヤジや罵声に遮られたり、大学側出席者に対し「おまえ」「てめえら」などと呼ばわり、乱暴な言葉使いで侮辱するなど、最初から騒然とした雰囲気のなかでの会見となり、理性的で冷静な話し合いの場とはとても言えない状態でした。
このような会見を5回にわたって積み重ねたにも拘わらず、結局、大学及び寮連ともに、新しい寮を早急に建てる必要があると認識している、ということを確認できただけでした。
上に述べたように、新寮建設問題をめぐって、寮連と大学との間に行われてきた学生部長会見(寮連のいういわゆる「団交」)の実態は、とても彼らの言う「正常な会見」とは呼べないものでした。平成10年の副総長制への移行に伴い、大学側はこのような脅迫的な「団交」の在り方と訣別することとし、平成11年「副総長制下における会見の在り方」をまとめ、学内に周知しました。この中で、大学は今後全ての学生団体(寮連を含む)と「代表者会見」の原則に従って、一定のルールを以て話し合いに臨むことを述べています。(資料参照)
しかし、寮連等は以下の論拠を以て、従来の「団交」を正常な会見形態とし、新寮建設問題の解決に当たっても「団交」による会見をその後も求めています。すなわち、代表者会見は「ボス交(ボス交渉)」であり認められない、寮生は全員が代表であるから大学側は希望者全員と会うべきだ、寮に関することは全て寮生と大学側の「団交」における合意によって決めるという原則がある、会見に関するこれまでの「慣行」を重視すべきである、大学側が代表者会見に固執するのは団体交渉権の侵害である、代表者会見は少数の者による密室での会見であり公開性がない、としています。以下にこれらの指摘に対する大学の見解を述べます。
まずに対しては、代表者会見が彼らの言うボス交になるかどうかは、それに出席する代表者の資質の問題と考えます。少なくとも一方の代表者が拒めばボス交は不可能です。自治寮の寮生は「ボス交」を行わないような代表者を選ぶことができるはずです。
次にについては、代表をもてないような組織?団体に自治を主張する権利はないと考えます。全員が代表であるならば寮生の意見はどのように統一できるのでしょうか、そして大学はどの意見を聞けばいいのでしょうか。意見を統一できるのならば、例えば寮委員会なり寮連がそれを代表できるはずです。
について、このような原則は寮生が一方的に主張しているもので、大学は認めたことがありません。事実、平成12年の電気料問題の解決は、その相手である日就寮、有朋寮および寮連との合意により導かれたものですが、それは「団交」で得られたものではありません。この点からも、このような原則が存在しないことは明白です。
について、しばしばドクターストップがかかるほど長時間に及ぶ会見を「慣行」と呼べるのでしょうか。このような異常な会見は大学側が合意したものではありません。会見の形態について予備折衝で合意した事項が守られず、学生達の強要で押し切られた結果、このような望まざる形のいわゆる「団交」が続いてきたわけですが、寮連等はそれを実績と勘違いしてこのような主張をしてきたものと考えられます。大学がなぜそれでも会見を続けてきたかというと、それは粘り強く話し合えば分かってもらえるのではないかという望みを捨てなかったからに過ぎません。しかし、このようにして行われた会見を通じて、寮連等はこのような大学の立場を全く理解しようとしませんでした。だから「副総長制下における会見の在り方」を以て基本的原則に立ち返ることにしました。
についてはどうでしょうか。そもそも憲法に保障された団体交渉権というのは、労働者の権利として認められているものです。これは労働者の代表が使用者と交渉する権利のことを言うのであって、そうでない学生に適用できるものではありません。この権利が持つ最大の意味は、まず使用者が個別に労働者と交渉することを禁じ、労働者も団結してその代表を選出して交渉権をその代表にゆだねることで、また使用者はこの代表と交渉することは拒めないため、使用者側からの労働者に対する個別分断攻撃を防止することにあります。従って、ある組織が衆を頼んで経営者などに強制、圧迫を加えることでは決してありません。
最後にですが、これもと同じです。学生の代表者は会見の模様を伝えられるはずです。だから寮生達に会見の内容を正確に伝えられるかどうかは、やはりその代表者の資質にかかっているのです。
以上、大学は、「新寮問題」に関して平成7~9年にかけて行われた学生部長会見の実態を決して正常なものとは考えていませんし、今後これを繰り返すことはしません。前号で既にお知らせしましたように、有朋寮の老朽化が見過ごせないものになった今、この問題の解決は待ったなしという状態になっています。
東北大学には現在7つの学寮がありますが、それぞれの寮費(寄宿料)は他の国立学校も含め以下のように規定されています。
○国立学校における授業料その他の費用に関する省令(抜粋)
(寄宿料の額及び徴収方法)
第11条 寄宿料の額は、次の表のとおりとする。
区 分
|
収容定員一人あたり又は収容世帯一世帯当たりの建物(共有部分を含む。)の面積 |
寄 宿 料
|
居室が単身用の場合 |
18平方メートル以上20平方メートル未満 |
月 額 3,000円※1
|
20平方メートル以上25平方メートル未満 |
月 額 3,300円
|
|
25平方メートル以上 |
月 額 4,100円
|
2 |
前項の規定にかかわらず、昭和34年4月1日以後昭和50年3月31日以前に建築された寄宿舎(木造のもの及び昭和48年4月1日以後に建築され、又は昭和52年5月1日以後に模様替えされた居室一室当たりの収容定員が一人であるものを除く。)にあっては月額700円(※2)とし、木造の寄宿舎及び昭和34年3月31日以前に建築された寄宿舎にあっては月額400円(※3)とする。 |
3 |
前二項の規定にかかわらず、高等専門学校の寄宿舎にあっては居室一室当たりの収容定員が一人であるものは月額800円とし、その他のものは月額700円とする。 |
4 | 寄宿料は、寄宿舎に入舎した日の属する月から退舎する日の属する月まで毎月その月の分を徴収するものとする。ただし、休業期間中の分は、休業期間前に徴収するものとする。 |
5 | 前項の規定にかかわらず、学生又は生徒の申し出又は承諾があったときは、当該年度内に徴収する寄宿料の額の総額の範囲内で、その申し出又は承諾に係る額を、その際徴収することができるものとする。 |
※1 以文、霽風、如春、明善、松風の5寮が該当(月額3,000円)
※2 日就寮が該当(月額700円)
※3 有朋寮が該当(月額400円)
資料 地震調査委員会「宮城県沖地震の長期評価」添付グラフ
図a 10年後までに宮城県沖地震が発生する確率の時間推移
図b 宮城県沖地震の集積確率の時間推移
平成12年11月27日に地震調査研究推進本部地震調査委員会が発表した「宮城県沖地震の長期評価」は次のように述べている。
「試算値によると、次の宮城県沖地震の発生の危険率(1年あたりの発生確率)は、ポアソン過程と仮定した場合の危険率を、2005年末頃までには超える。また、2001年から20年以内に発生する確率は、約80%となる。さらに、10年以内に発生する確率は、今後年々急速に高まっていき2010年には約70%(2010年までに発生しなかったという条件の下での2010年から2020年の間に発生する確率)となる。集積確率についても、2005年頃から年々急速に高まっていく。
これらを踏まえ、地震発生の可能性は、年々高まっており、今後20年程度以内(2020年頃まで)に次の地震が起こる可能性が高いと考えた。」
ここで想定されている地震の規模は、マグニチュード7.5前後から8.0前後であり、添付のグラフから読みとると、現時点(2001年)から10年以内の発生確率は約30%である。
資料
平成11年3月26日
学生生活協議会
1 .会見に関する基本的考え方
本学では、平成10年4月から副総長制が施行され、それに伴い学生生活協議会の組織にも幾つかの変更がありました。学務等担当副総長の職務は広報第179号に記したように、以前の組織における学生部長の職務を基本的に継承していますが、一方において、副総長は、総長の職務を補佐する重要な役割を負っています。
そこで、学生部長制から副総長制への移行を契機として、学生生活協議会は学生に対する会見の在り方を見直し、今後にむけて望ましい会見の在り方を検討してきました。
もとより、学生生活上の諸問題及び学内諸施設の管理?運営の改善を図る上で、学生から提起される要望や意見を適切な方法によって聴取することは大変重要なことで、本学はこれまで誠意をもってその実現に努めてきました。
しかし、従来、その実現を志向した学生部長会見の実態は、理性的で正常な話し合いとは異なる性質のものでした。本学は、話し合いの場を「代表者会見」と捉えてきましたが、その実体は脅迫的で、不本意ながらいわゆる「大衆団交」を強いられてきました。
今後の会見は、従来の脅迫的な「大衆団交」の在り方と訣別することとし、元来、大学が主張している「代表者会見」の在り方に立ち返り、かつ、副総長制下において必要とされる若干の変更を加え、以下のような会見の在り方を決定しました。
(1) | 会見は、学生の提起する要望や意見をその代表者が表明し、それを大学側が聴取するとともに、大学側の見解を説明する場と捉えます。これを「代表者会見」と呼びます。 |
(2) | 会見は、学生側から申請を受けて、あるいは大学側の要請により、学生生活協議会の議を経て、開催するものとします。 |
(3) | 大学側の代表者として、通常は、関係する委員会委員長ほか委員数名が出席します。必要に応じて、事務官が出席することもあります。 |
(4) | 学生側の出席者は、学生団体を代表する者10名以下とし、その氏名?学部?学年?所属団体等における代表者としての役割を書面に記し、事前に提出します。オブザーバーの参加は認めません。 |
(5) | 会見の時間は、2時間以内とします。 |
(6) | 会見の開催日時?場所の設定及び会見の進行は、学生との事前打合せを経て、大学側が行うこととします。 |
(7) | 副総長が会見にあたる場合は、会見のテーマが全学的な広がりを有し、学生生活協議会が特にその必要性を認めた場合に限ります。副総長の会見も、上記(1)から(6)の原則によるものとします。 |
(8) | 事前打合せについても、上記(1)から(6)の原則によるものとします。 |
|