総長メッセージ
2025年4月 入学式祝辞

東北大学に入学された皆さん、おめでとうございます。本日ここに、学部生2,509名、大学院生2,548名の皆さんをこの東北大学に迎えることができました。私たちの大きな喜びです。東北大学を代表して、皆さんの入学を心から歓迎します。また、これまで勉学や生活をさまざまな形で支え、励ましてこられたご家族、そして関係者の皆さまに、心よりお喜びを申し上げます。
東北大学の現在の姿
さて、皆さんが今日からその一員となる東北大学について紹介します。東北大学は日本を代表する国立総合研究大学であり、10の学部と15の大学院研究科、3つの専門職大学院、6つの附置研究所と国内最大規模の国立大学病院、附属図書館をはじめ教育研究に携わる多くの機構やセンターを有しています。仙台市街地の片平、星陵、川内、青葉山地区の優れた環境の中に、5つのキャンパスがあり、世界94ヵ国からの2,000名を超える留学生を含む、17,000名を超える学生が学んでいます。海外に24の拠点を持ち、海外渡航する教職員は年間延べ4,300名を超え、外国人研究者の受け入れも年間延べ1,700名を超えています。
国際卓越研究大学
ご存知の通り、東北大学は昨年、多くの有力大学も申請を行った中で、唯一、最初に「国際卓越研究大学」に認定されました。「国際卓越研究大学」とは、政府がスタートした全く新しいプログラムであり、研究力低下が危惧されるわが国にあって、研究大学の枠組を大きく変革するプロジェクトです。世界最高水準の研究大学を育成することを目的に、最長25年間にわたり、数校程度の研究大学を対象に、類例のない財政支援を行います。本学は、1年9カ月に及ぶ審査を経て、昨年12月にその第一号として認定?認可されました。選定にあたっては、研究力向上のための優れた体制強化計画に加えて、東北大学の歴史に培われた実績が評価されたものです。
東北大学の歴史
東北大学は、1907年に、日本で3番目の国立大学として創設され、以来「研究第一」、「門戸開放」、「実学尊重」の理念を掲げ、世界に開かれた大学として、社会の発展に貢献してきました。
研究第一
「研究第一」とは、大学なら当然だと思われるかもしれません。しかし創建当時の帝国大学は、「国家の枢要」、つまり西洋の学問を学び取り入れる、人材を養成することが求められていました。東北大学では草創期から、知を取り入れるだけではなく、「世界に劣らざる」研究をするという確固たる志をもっていました。そして実際に、新進気鋭の理論物理学者であったアルベルト?アインシュタイン博士を破格の待遇で招聘することを提案しました。この構想は実現しませんでしたが、ノーベル賞を受賞した翌年、東北大学を訪問したアインシュタイン博士は、「ほんとうに学問にはいい處だ、私は仙台に来ることに特別の興味を持つてゐた」と記者に語り、当時から国際的に水準の高かった理論物理学や金属材料の研究を熱心に視察し、意見交換を行ったといいます。
門戸開放
また本学は、性別、国籍、学歴に拠らず、「多彩な人材」を受けいれ、「多様性を力」としてきました。「門戸開放」の理念であります。1913年には、社会的圧力に屈することなく、日本で初めての女子大学生3名を受け入れ、これが日本の高等教育における女性への門戸開放の幕開けとなりました。また中国の文豪魯迅をはじめ、早くから海外からの留学生を受け入れるなど、本学は創建時からダイバーシティを推進してきたと言えます。2022年には、東北大学DEI(ダイバーシティ?エクイティ&インクルージョン)推進宣言を発出し、翌年には、佳子内親王殿下ご臨席のもと記念式典を挙行しました。
実学尊重と社会共創
一方、「実学尊重」とは、研究により生み出された知的価値を社会に実装する、いわば社会価値の創造であります。東北大学は、社会との共創の中で、様々な社会価値を世に送り出してきました。一例をあげると、岩崎俊一博士が発明された垂直磁気記録方式は、現在のハードディスクの基本となる技術であり、デジタル社会の進化と発展に大きく貢献しています。また中川善之助博士は、わが国の家族法を支える基本概念の確立に貢献し、本学は本邦の大学で唯一、国際司法裁判所、国際海洋法裁判所、国際刑事裁判所すべてに、裁判官を輩出しています。
更に社会との共創という観点では、青葉山新キャンパス内に建設された次世代放射光施設ナノテラスを活用した国際放射光イノベーション?スマート研究センター、持続可能社会を目指すグリーン未来創造機構、文理融合の学際性と実践から世界の防災?減災に挑む災害科学国際研究所、15万人の健常人コホートをもつ未来型医療創成センター、国際研究拠点に認定されている変動海洋エコシステム高等研究機構や材料科学高等研究所、省電力半導体を目指す国際集積エレクトロニクス研究開発センターや先端スピントロニクス研究開発センター、国内最大規模の言語AI研究センター、文化財とデジタル社会を繋ぐ統合日本学センター、そして199に及ぶ東北大学発スターアップ企業などが、世界が直面する様々な課題の解決に取り組んでいます。
変革を価値として
これら3つの理念に通底するのは、創設期から変化を恐れず挑戦する東北大学の姿です。新たな知を世界に発信していくことに価値を求めた先人達、そのために、門戸を開いて有為な人材を求めていく姿勢、国の力だけに頼らず民間の財も取り入れて、社会との共創の中に新しい価値を生み出す実学を尊重するあり方、1世紀以上にわたる我々の理念は、変革を価値とし挑戦するマインドを育んできました。この度の国際卓越研究大学選定は、このアイデンティティが社会に認められたと言っても過言ではありません。
東北大学がとして目指すもの
さて、私たちは今、東北大学の新たな歴史の扉を開こうとしています。これまでの伝統と実績を基盤に、更に新たな知識経営体として機能を拡張し、国際的に卓越した研究大学として世界の高みを目指ざさなければなりません。我々は計画の中で3つの公約、Impact、Talent、Changeを掲げています。Impactとは、未来を変革する社会価値の創造であり、学術的インパクト、社会的インパクトのある研究を展開することを意味します。Talentは、多彩な才能を開花させ未来を拓くものであり、世界の研究者を惹きつける研究環境を整備し、世界に挑戦する学びを創造します。そしてChangeは、変革と挑戦を加速するガバナンスをめざし、全方位の国際化をはかり、機動的で責任ある経営とガバナンスを確立します。これら3つの公約に基づき、教育、研究、ガバナンスすべてで変革をはかり、これまでにない新たな国立大学として飛躍することを目指しています。
MOVER AND SHAKERとして
さらに私たちは、その行動指針として、「MOVE AND SHAKE.」「知の加速が、世を動かす。」と言うスローガンを掲げました。これは英語で、人を動かし人の心を熱くする人、秀でたアイディアをもとにリーダーシップを発揮する人を意味するMOVER AND SHAKERに倣ったものです。世界中からMOVERs AND SHAKERsが集い、育ち、活躍する場を創造していくこと。日本の大学改革を先導し、日本が世界と並ぶ成長戦略を描くための変革の結節点となり、東北大学自身がMOVER AND SHAKERとして世界に貢献していくこと。これが私たちの大学が、これから目指す方向です。皆さんは、東北大学が国際卓越研究大学第一号に認定され、25年にわたる挑戦の初年度に入学しました。世界に挑戦する東北大学の一員であり、その誇りをもって、皆さん一人ひとりが、MOVER AND SHAKERとなって成長していくことを期待しています。
学友会活動
もちろん、大学での生活は、勉強や研究がすべてではありません。本学では、学友会の体育部や文化部などの活動も活発で、素晴らしい成果を上げています。「全国七大学総合体育大会」(いわゆる「七大戦」)では、2019年まで、2度の三連覇を果たし、2022年にも総合優勝を果たしました。学友会人力飛行部「Windnauts」が琵琶湖で行われる「鳥人間コンテスト」で優勝し、学友会準加盟団体「ストリートダンスサークル WHO」も全国で準優勝に輝くなど、本学の学生はさまざまな分野で元気に活躍しています。新入生の皆さんも、是非充実した学生生活を送っていただければと願っています。
萩友会と大学基金
また、東北大学では、学生やその保護者、卒業生?修了生、教職員など繋ぐコミュニティとして全学組織の「萩友会」があり、日本全国や海外にも支部が設けられて活動を展開しています。また、皆さんの教育研究活動を支援するための「東北大学基金」も設けられています。これらは、本学を支援する多くの方々、いわば「東北大学コミュニティ」の皆様からのご支援やご寄附で成り立っています。皆さんは、本学に入学した本日から「東北大学コミュニティ」の一員です。これから東北大学基金や萩友会からの支援を受ける機会があるかもしれませんが、その際には本学をご支援していただいている「東北大学コミュニティ」の方々への感謝を忘れずに、そして、将来いつの日か、今度は皆さんが母校の後輩たちを支援し励ましていただければと願っています。
最後に、東北大学は、皆さんが目指す未来に寄り添い、そしてすべての可能性を提供します。これからの日々が、実り豊かなものとなること、そして皆さんが一層大きく成長されることを心から期待して、私のお祝いの言葉といたします。
2025年4月3日
東北大学総長
これまでのメッセージ
- 2025年3月 東北大学学位記授与式告辞(2025.3.25)
- 2025年 東北大学総長 年頭所感(2025.1.6)
- 2024年9月 東北大学学位記授与式告辞(2024.9.25)
- 2024年4月 東北大学入学式祝辞(2024.4.3)
- 東北大学第23代総長就任メッセージ(2024.4.5)