大野英男第22代東北大学総長のインタビューシリーズ。本学のこれから、東北地域から日本、世界へと飛躍するビジョンを語ります。今回は3回目。若手の研究者、学生の活性化が主なテーマです。
聞き手は、本学経営協議会委員であり日本経済新聞社参与の長田公平氏です。
第22代東北大学総長 大野英男
聞き手|日本経済新聞社参与
長田公平(東北大学経営協議会委員)
10兆円ファンドの第一号に東北大学のみが認定候補に選ばれました。大野総長の目指す大学改革のスタート台に立てたと言うことですね。
このインタビューの1回目にもお話ししましたが、今回の申請に際し「世界に冠たる研究大学」として自らのありたい姿、あるべき姿を検討しました。これからの日本の研究大学のモデルとなる東北大学のビジョンを明確にし、その実現に向けた改革の道筋や具体的なシナリオを描き出し、そこに至る方策を示しました。その結果が、今回の認定候補選定につながったと思います。
参照:https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2023/09/news20230901-koho.html
東北大学が創立時から取り組んできた卓越した研究、それを基盤とした社会価値の創造、さらにこれまでの継続した営みの中でおこなってきた指導的人材の育成が提案の基盤となっています。大きな支援を受けるに値する高い目標を掲げると同時に、社会との継続的対話を織りこんだ組織形態を提示しました。世界が大きく変化しているいま、時間はあまりありません。改革のスピードを一段と加速していかねばならないと気が引き締まる思いです。
文科省からは、体制強化の方策、外部資金の導入のシナリオなどがまだ不十分と指摘がありましたね。
運転免許で言うと、仮免許(認定候補)に合格したという段階ですね。実行計画をさらに練り上げ、実現の可能性を一段と高めて、アドバイザリーボードとの対話を進めます。一方で、すぐに着手できるものはいまから着手しなければなりません。
今回は、「自ら成長する大学」というテーマでお話しを伺います。東北大学は学生の教育で高い評価を得ていますね(下図参照)。教育の面で、今後の変革の方向、重点はなんですか。
学生や若い人たちが、思う存分、創造性を発揮し、新しいテーマに挑戦していける環境を作ることです。現代の諸課題に対応したり新たな社会価値を創造したりするには、深い専門はもとより専門を横断することもできなければいけません。そのために大学院や学部の改革を進めます。
また研究のユニットも、教授、准教授、その下に若手研究者がいるという従来の講座制から、卓越した研究者が独立して自ら設定した研究テーマを追究していくプリンシパルインベスティゲーター(PI)制に変えていきます。共同で進める研究はPI達の合意で進めることになります。この体制が機能するには、研究者が研究や教育に専念できる環境の実現が鍵になります。このため、支援体制を抜本的に見直し充実させることとしています。
具体的にはどのような施策を始めますか。
優秀な若手研究者の育成を図る総合的な施策として、「東北大学若手躍進イニシアティブ」を進めています。大学院生の支援だけでも年間33億円ほどの予算を組んでいます。
もう一つ、若手研究者に、独立した研究環境を提供する「学際科学フロンティア研究所」があります。若手研究者50人に対し、年間最大250万円、総額4億円強を支援しています。この研究環境のもとで着実に成果が上がっています。これらの施策もあって、本学の若手研究者はとても活発です。皆さんとの対話の機会を設けていますが、わくわくする成果を聞かせてもらっています。(下図参照)。
研究開発では、論文数を10年後には、2倍に増やすなど、具体的な数値目標を立てていますが、若手の育成でも、目標値はありますか。
若手研究者が発表した論文で引用数が上位10%に入る若手Top10%論文数について、10年後に現在のおよそ3倍を目指します。
能力のある若手が存分に活躍できる研究体制の確立、研究者の挑戦を促す人事システム、研究支援体制の整備、さらには海外長期滞在などグローバルな研究経験なども支援し、若手の研究力を一段と強化していきます。
若い研究者の育成という意味では、大学からスピンアウトして起業する、あるいは、新しいビジネスチャンスを発掘し、社会や地域に貢献する事業を創造すると言う大きな流れが起きています。東北大学は、少し出遅れていませんか。
実は、2011年の東日本大震災からの復興に向けて、大学として、地域との連携に全力をあげてきました。一方で、スタートアップの育成、新しい起業家のサポートという側面は、立ち遅れていました。挽回するために種々の取り組みを進めてきており、いまではトップレベルになったと言って良いと思います。2020年10月には「東北大学スタートアップ?ユニバーシティー宣言」を行い、社会変革の原動力となるスタートアップの創出とアントレプレナーシップ育成をさらに加速しています。自治体や産業界との連携も進んでいます。
東北大学発のスタートアップを増やし、そこに出資し、株式公開に繋げていきたいですね。
その通りです。現在、本学発のスタートアップ企業は179社と全国の大学のトップクラスになっています。IPOやM& Aのエグジットに至ったスタートアップが4%と全国平均の倍です。さらにこれを加速し、10年後にはおよそ3倍まで増やしたい。アントレプレナー教育から事業性検証、本学のベンチャーキャピタルであるTHVPによる投資までのシームレスな体制を整えています。加えて、東北地域の大学と連携してギャップファンドを提供するなど、地域全体を見据えた活動も加速しています。
この6月には、学生を対象としたクラウドファンディングを使った新規事業のアイデアコンテストを募集しましたね。
採択事業には、最大50万円を助成します。学生のころから、起業家精神、チャレンジする志を養ってもらいたいです。
世界で認められる学生や若手研究者の育成には、やはり、国際性に富んだ環境が必要ですね。
国際性は極めて重要です。教育環境の国際化という側面では、我々は進んでいます。例えば学生寮は、海外からの留学生がほぼ半分を占めます。国際混住型寄宿舎「ユニバーシティーハウス」と呼んでいますが、定員1720人のうち日本人は921人、外国人799人です。もちろん、普段、使う言葉は、英語です。
さらに、日本人学生と同数の留学生が在籍する環境のもと国際共修を主眼とする学部教育改革を進めます。
学生の選抜方法の見直しも必要かと。
多様な能力、才能を持った人材を世界から集めていきたい。一般選抜を見直し、あるいは廃止し、総合型選抜の入学者選抜(学力だけでは測れない個性や能力を評価する選抜)を全面展開していきます。挑戦心に溢れた人材を国内外から集める。そのための、戦略的な広報活動、海外在住の同窓生や関係者に助けていただいて、世界から優秀な留学生をリクルートしてこようと考えています。
お話を伺っていると、学生や若い研究者の皆さんに自らの成長を自主的に切り拓いてほしい。「学ぶ」大学から「自ら成長する大学へ」変わろうと言う強い意志を感じますね。
はい、学生や研究者だけでなく、大学の職員、経営スタッフの皆さんにも、新しい試みに思い切ってチャレンジしてもらいたいですね。
次回は地域との共生について伺います。
ビジネス情報番組「賢者の選択」と番組タイアップ記事である日経ビジネスで本学の取り組みが様々な角度から紹介されました。