2024年 | プレスリリース?研究成果
3Dプリンターを用いたマルチマテリアル技術を開発 鉄鋼材料とアルミ合金の界面の接合強度を飛躍的に改善、自動車の車体軽量化に期待
【本学研究者情報】
〇金属材料研究所 准教授 山中謙太
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 金属3Dプリンター(注1)を用いて鉄鋼材料とアルミ合金を組み合わせたマルチマテリアル構造(注2)を製造するための基盤技術を確立しました。
- 課題であった異材接合界面における脆化相の抑制効果を実証し、接合強度を飛躍的に改善しました。
- 本成果を基にトポロジー最適化(注3)を用いて設計された実物大の自動車部材の試作に成功し、車体軽量化が期待されます。
【概要】
金属3Dプリンターは、金属を積層して造形を行う装置です。近年、金属3Dプリンターによる組織制御(注4)に基づく高機能材料や異なる材料を適材適所で組み合わせたマルチマテリアル構造の創製に注目が集まっています。
マルチマテリアル構造は自動車や航空機を軽量化することができ、カーボンニュートラルの実現や省資源化において重要です。しかし金属材料の組み合わせによっては異材接合界面に脆い金属間化合物(注5)が形成され、接合強度が著しく低下することが実用化の課題となっていました。
東北大学金属材料研究所の山中謙太准教授と同大学未来科学技術共同研究センターの千葉晶彦特任教授の研究グループは、金属を対象とした代表的な3Dプリンティング技術の一つであるレーザー粉末床溶融結合法(注6)を用いて、鉄鋼材料とアルミ合金の接合界面において非平衡凝固(注7)が得られることを見出し、金属間化合物の形成が著しく抑制されることで強固な接合界面が得られることを実証しました。また、本成果を基に世界初となる実物大の自動車用マルチマテリアル部材(サスペンションタワー)の試作に成功しました。
本成果は2024年11月19日、積層造形技術に関する専門誌Additive Manufacturingに掲載されました。
図1. L-PBF法により作製した炭素鋼/Al合金界面付近の組織観察結果
【用語解説】
注1. 金属3Dプリンター
金属材料を対象とした3Dプリンター。材料を積層して3次元構造体を作製する点は一般的な樹脂を対象とした3Dプリンターと同様ですが、金属3Dプリンターでは金属の粉末やワイヤーを溶かしたり、高温に保持して焼結することで造形を行います。
注2. マルチマテリアル構造
異なる特性を持つ複数の材料を組み合わせて作製した構造体。軽量化や強度、耐熱性、耐食性などの特性面で単一材料では実現できない複雑な要求に応えることができ、自動車、航空、医療などの分野で期待されています。3Dプリンティング技術の発展により複雑なマルチマテリアル構造の製造が可能になりつつあります。
注3. トポロジー最適化
強度や剛性を維持しながら軽量化や性能向上を図るための設計手法で、シミュレーションを用いて力学的な負荷に応じた最適構造を決定します。従来の設計方法では困難だった軽量かつ効率的な部品設計が可能になり、それを実現するための手法として3Dプリンティング技術に期待が集まっています。
注4. 組織制御
金属材料は一般に結晶組織を有しており、材料内部の結晶粒の結晶構造やサイズ、形状、配向(結晶方位)などを適切に制御することで強度や耐食性などの材料特性を改善する技術です。組織制御は組成や製造工程に基づいて行われます。
注5. 金属間化合物
金属材料は一般に複数の元素からなる合金ですが、特定の組成(元素の割合)や温度において異なる元素が周期的に配置した複雑な結晶構造(規則構造)を形成します。これらは金属間化合物と呼ばれ、一般的に高強度である反面、変形しにくく、材料を脆くする原因となります。
注6. レーザー粉末床溶融結合法
金属粉末に高エネルギーのレーザーを照射することで溶融?凝固し、それを繰り返すことで3次元構造体を造形する手法であり、最も一般的な金属3Dプリンターの一つです。
注7. 非平衡凝固
溶融金属が熱力学的な平衡状態に到達しない状態で凝固すること。鋳造や溶接と比べてL-PBF法では極めて大きな冷却速度の下で高速凝固が起こるため、非平衡組織を形成することが可能です。
【論文情報】
タイトル:Multi-material additive manufacturing of steel/Al alloy by controlling the liquid/solid interface in laser beam powder bed fusion
著者: Yujie Cui, Jiaxiang. Li, Seungkyun Yim*, Kenta Yamanaka*, Kenta Aoyagi, Hao Wang, Akihiko Chiba
*責任著者:東北大学金属材料研究所准教授 山中謙太、東北大学未来科学技術共同研究センター特任助教 Seungkyun Yim
掲載誌:Additive Manufacturing
DOI:10.1016/j.addma.2024.104529
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学金属材料研究所
准教授 山中謙太
TEL: 022-215-2115
Email: kenta.yamanaka.c5*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学金属材料研究所
情報企画室広報班
TEL: 022-215-2144
Email: press.imr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています