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表面コーティング材として知られるクロム窒化物に高速な相変化機能を発見 ─IoTやAIに不可欠な相変化メモリの新材料として期待─

【本学研究者情報】

〇材料科学高等研究所 助教 双逸
大学院工学研究科 教授 須藤祐司
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 希少金属で毒性を持つテルル(Te)をベースとした構造も複雑なカルコゲナイド(注1系相変化材料(PCM)の枠を超え、身近で構造が単純なクロム窒化物(CrN)が高速な相変化により大きな電気抵抗変化を示すことを発見しました。
  • 105以上の電気抵抗比と30ナノ秒(ns)の高速動作の相変化をクロム窒化物で実現しました。この高速かつ大きな電気抵抗変化は情報記録材料として有用な特性です。
  • CrN型相変化メモリ素子は、窒素原子の僅かな移動と結晶構造変化により動作するため、従来PCMより動作電力を低減できることを確認しました。

【概要】

近年、モノのインターネット(IoT)、人工知能(AI)、およびビッグデータ解析の発展に伴い、高速かつ大容量な不揮発性メモリ(NVM)2の需要が急増しています。このニーズに応えるべく、素子構造が単純な相変化メモリ(PCRAM)3が注目されています。既存のPCRAMの情報記録層には、カルコゲン元素であるテルル(Te)をベースとした相変化材料(PCM)が用いられていますが、PCMのアモルファス相化に大きな熱エネルギーを必要とするため動作電力が高いといった課題があります。

東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)の双逸助教、同大学大学院工学研究科の須藤祐司教授(兼材料科学高等研究所)、慶應義塾大学理工学部のポール フォンス教授らの研究グループは、クロム窒化物(CrN)が高速ジュール加熱により、ナノ秒での相変化が誘起され、電気抵抗が大きく変化(5桁以上変化)することを発見しました。このCrN系PCMは商用のゲルマニウム?アンチモン?テルル(Ge-Sb-Te(GST))(注4系PCMと同様に高速で動作し、動作エネルギーを1桁低減できます。切削工具用の硬質被膜としても知られるCrNは化学的に安定しており、カルコゲナイド系PCMよりも環境に優しく、新たなグリーンメモリ材料として期待できます。

本成果は、米国化学会誌ACS Nanoに 2024年8月1日(現地時間)付で掲載されました。

図1. (a)本研究で作製した記録素子の動作特性(30nsの電圧パルスを用いて徐々に電圧を印加したところ、1.1V付近にて低抵抗状態(セット)から高抵抗状態(リセット)へと変化し、1.4V付近で再び低抵抗化するという、ナノ秒レベルの高速かつ不揮発な抵抗スイッチング挙動を示すことを発見した)。(b)本研究のCrNメモリの動作エネルギーと動作ウィンドウのベンチマークプロット、および他の代表的な次世代不揮発性メモリとの比較(注:ReRAM:抵抗変化型メモリ;CBRAM:導電性ブリッジメモリ;PCH:相変化ヘテロ構造メモリ材料; iPCM(界面相変化材料))。

【用語解説】

注1. カルコゲナイド
周期表の酸素と同じ族に位置する元素(硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)など)からなる化合物。特に、遷移金属を含むものを遷移金属カルコゲナイドといいます。

注2. 不揮発性メモリ(NVM)
コンピュータの電源を切ってもデータ(情報)を記録保持しているメモリ。

注3. 相変化メモリ(PCRAM)
外場によ って生じる相の変化により大きな物性変化(電気特性や光学特性)を示す相変化材料を用いた不揮発性メモリを指します。一般的に、PCRAM に用いられる相変化材料は、アモルファス相と結晶相の間での相変化が利用されます。アモルファス/結晶相変化は、電気パルスによるジュール加熱により行い、通常、電気抵抗が高いアモルファス相をリセット「0」、電気抵抗が低い結晶相をセット「1」として情報を記録します。PCRAM メモリセルは、相変化材料の上下を電極で挟みこんだ単純な構造を有するため、他の次世代メモリに比較して、製造コストや集積度の面で有利とされています。最近では、DRAM とフラッシュメモリのアクセス時間の差を埋めるストレージクラスメモリとして実用化されています。

注4. ゲルマニウム?アンチモン?テルル(Ge-Sb-Te (GST) )
GST は、アモルファス相と結晶相間の相変化に伴って大きな光学反射率変化を示すため、PCRAMに先立って光記録ディスクとして実用化されました。GST は、相変化に伴い大きな電気抵抗変化も示すため、PCRAM 用材料としても使用されています。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学材料科学高等研究所 (WPI-AIMR)
助教 双 逸
TEL: 022-795-7339
Email: shuang.yi.e3*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学大学院工学研究科
教授 須藤 祐司
TEL: 022-795-7338
Email: ysutou*material.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
広報戦略室
TEL: 022-217-6146
Email: aimr-outreach*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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