令和3年4月 東北大学に入学される皆さんへ(2021.4.2)
【はじめに】
東北大学に入学された皆さん、誠におめでとうございます。本日ここに学部生2,450名、大学院生2,407名、合計4,857名の学生諸君を本学に迎えることができたことは、私たちの大きな喜びです。東北大学を代表して、皆さんの入学を心より歓迎いたします。
また、この間、皆さんが晴れてこの日を迎えることを心待ちにし、皆さんをさまざまな形で支え、また励まし続けてこられたご両親、ご家族、そして関係者の皆様に、心より祝意を表します。
4月2日に開催を予定していた本年度の東北大学入学式は、宮城県及び仙台市に新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言が発出されたことを受け、開催を延期することといたしました。今後適切な時期に開催することを考えています。どうかご理解をお願いいたします。
【東北大学の理念と伝統】
東北大学は、今から114年前の1907年に、この「杜の都」仙台の地に、東京大学と京都大学に次ぐ第三の総合大学として創設されました。その後、本学は「研究第一」「門戸開放」「実学尊重」の理念の下で、世界をリードする研究成果を上げるとともに、多くの指導的人材を世界に輩出してきました
東北大学は、現在、10の学部と15の大学院研究科、3つの専門職大学院、6つの附置研究所、病院、附属図書館をはじめとして、教育研究に携わる多くの機構やセンターを有する日本を代表する総合研究大学として発展を遂げています。
「研究第一」の理念に関しては、本学は創設当時からわが国の俊英を集めるとともに、世界からも広く優秀な人材を集めています。実現はしませんでしたが、本学の初代総長であった澤柳政太郎は、新設された東北帝国大学理科大学教授として当時新進気鋭の理論物理学者であったアルベルト?アインシュタインを破格の待遇で招聘することを提案しました。アインシュタインがノーベル物理学賞を受賞した直後の1922年に来日した際には、わざわざ仙台に足を運んで本学を訪問し、愛知敬一や本多光太郎など当時の本学を代表する教授たちと面談しています。
「門戸開放」の理念に関しては、1913年に本学は我が国の当時の帝国大学として初めて、3名の女子学生の入学を認めました。また、本学は設立当初から、当時の他の帝国大学とは異なり、旧制高校以外の当時の旧制高等工業学校や高等師範学校などの卒業生にもその門戸を開いてきました。さらに、中国の文豪である魯迅が本学医学部の前身である仙台医学専門学校に留学生として学んでいたことは広く知られています。性別や出身校、国籍等にとらわれず幅広く優秀な人材を世界から受け入れる本学の「門戸開放」の理念は、今日の言葉でいえば「ダイバーシティー」を意味するものです。本学は「ダイバーシティー」を建学の理念として1世紀以上の長きにわたり実践してきたのです。
「実学尊重」は、基礎研究から応用研究まで、研究成果を広い意味でのイノベーションにつなげてきた伝統を意味しています。社会を変革する駆動力が大学に期待されている今日、ますます重要な理念となってきています。
東北大学の初代総長を務めた澤柳政太郎が本学の創設に際して目指したものは、大学の総合制に基づく「総合知」を涵養する教育でした。東北大学は、設立当初まず理科大学から出発しましたが、そこに一般教養にあたる「普通教育」を設け、その中に例えば「科学概論」という講義科目を開設しました。この「科学概論」という講義は、現在で言えば「科学哲学」にあたるもので、本学はその設立当初から進取の気風をもって「総合知」をはぐくむ教育を目指したのです。
現在、本学では、すべての学生が、AI?数理?データ科学を学ぶこととしています。なぜなら、それらは、皆さんが、未来を切り拓き、よりよい社会を創造するための強力な道具となるからです。この道具が社会に与える影響は極めて大きく、アメリカの数学者でデータサイエンティストのキャシー?オニールが、その著書で指摘しているように、ビッグデータ社会とAIの発達が人々の間に格差や分断を生じさせ、新たな社会課題を顕在化させることもあります。この新たな道具を学ぶことは、現代において自分が何をすべきか深く考えるきっかけになるに違いありません。そのとき皆さんの羅針盤となるのは、狭い専門知識を越えた、人文?社会科学から自然科学までを横断する総合的な知識、深い考察、そして知恵を結びつけた「総合知」です。本学がその創設当時から重きを置いてきた「総合知」の重要性は、今日、ますます高まっています。
【東北大学の最近の話題】
本学にかかわるトピックスを3つ紹介しましょう。
第一は、「指定国立大学法人」への指定です。現在、日本を代表する研究大学には、世界の主要大学と伍してグローバルな視点からさらなる発展を遂げることが求められています。2017年に文部科学省は、国立大学法人の中から、世界の主要大学と伍して競う大学を「指定国立大学法人」として指定する制度を開始しました。本学は、2017年に、その第一陣となる最初の3つの指定国立大学法人の1つとして指定を受けています。
第二は、イギリスの高等教育専門誌THE(Times Higher Education)による「世界大学ランキング日本版」における東北大学の躍進です。この3月に発表になった2021年版で本学は2年連続の1位となりました。大学ランキングは、大学のもつ価値を一つの側面から評価したものに過ぎませんが、2年連続で1位を獲得したことは、本学における最近の教育、研究、社会貢献、国際化などの取組が、総合的に高く評価されていることを示していると言えましょう。皆さんが在学中にさまざまな挑戦を通して大きく成長する理想的な環境を整えています。
最後に、全国の主要国立7大学が持ち回りで開催する「全国七大学総合体育大会」(いわゆる「七大戦」)における先輩の活躍にも触れておきます。これまで、本学の学友会体育部の各部が目覚ましい活躍を続けており、2019年までに総合優勝を3回連続で成し遂げています。本学は、その前にも3連覇をしており、通算で最多の総合優勝回数を誇ります。コロナ禍のため、昨年と今年は残念ながら中止となりましたが、七大戦史上初の4連覇を目指して、学生諸君のますますの活躍を期待しているところです。七大戦に限らず、本学は課外活動が盛んです。皆さんも文武両道に挑戦してみてはいかがでしょうか。
【新型コロナウイルス下での教育?研究と学生生活】
さて、世界的規模での新型コロナウイルス感染症の拡大は、われわれ東北大学での教育、研究、日常生活などに大きな影響を与えています。残念なことに、皆さんの入学式についても延期せざるを得ませんでした。
本学では、すべての構成員の安全?安心を確保するため、本学の活動レベルを規定するBCP(Business Continuity Plan)を定めて、ホームページなどで公開しています。本学では、厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」に参画している専門家教員のアドバイスを受けながら、感染状況に応じて「新型コロナウイルス感染症対策本部会議」で全学的な対応を決定しています。皆さんも大学、そして所属学部のホームページで最新の情報を確認して授業等に臨んでください。大学生活をスタートする際に重要となるガイダンスなどは、感染状況の許す限り対面で行う予定です。さらに、新入生に対して上級生が支援や助言を行う「ピア?サポータ制度」も設けています。
これまで1年以上にわたり蓄積してきた科学的知見と経験を最大限に活用し、これからも皆さんの安全安心を確保しながら、最大限の教育研究活動が実施できるよう、全学を挙げて取り組んでいきます。
今後、コロナ禍でのさまざまな制約が予想されますが、この「杜の都」仙台の地において、東北大学での学業と研鑽が実り豊かなものとなり、皆さんを大きく成長させるものと確信しています。
【東日本大震災から一〇年:未来へ向けて ――グリーン未来創造機構の設立】
昨月、われわれは東日本第大震災から10年を迎えました。東北大学は、東日本大震災の被災地の中心にある総合大学として、大震災からの復興を先導し日本再生のさきがけとなるべく、震災発生直後の2011年4月にいち早く東北大学災害復興新生研究機構を創設し、10年にわたり8つの大型研究プロジェクトや復興アクション100プラスなど、数多くの取組を推進してきました。東北大学にとってこの10年は、「社会とともにある大学」というアイデンティティを確立した期間でもあります。このような社会課題に向き合う本学の成果を、持続可能でレジリエントなグリーン未来社会の構築に向けて生かすため、今月新たにグリーン未来創造機構を創設しました。東日本大震災の記憶を忘れず、さまざまな取り組みを進化させ、さらに進んだ未来社会の構築に向けて、一丸となって取組んでいきます。
【東北大学コミュニティの一員として ――萩友会、東北大学基金、学友会】
最後に、東北大学では、学生や保護者の皆様と同窓生、教職員をはじめとする東北大学コミュニティをつなぐ全学組織として「萩友会(しゅうゆうかい)」が設立され、日本全国や海外にもその支部が設けられて、活発な活動を展開しています。また、学生の皆さんの教育研究活動を支援するための「東北大学基金」も設けられており、さらに学生の課外活動を支援する「学友会」が体育部や文化部などのさまざまな活動を支援しています。
新入生の皆さんには、是非これらの活動にも積極的に参加し、またご協力をいただければ幸いです。
【留学生諸君に】
さて、今年も、本学には海外から多くの留学生が入学しました。東北大学は、建学当初から世界に開かれたグローバルな大学であり、本学の学部と大学院では、日本各地はもとより、世界100カ国近くの国や地域からの留学生が学んでいます。ここで、海外から本学に入学した留学生のために、英語でお祝いの言葉を述べたいと思います。
I would like to take this opportunity to address our new international students. Welcome to Tohoku University.
I hope, despite the unconventional start necessitated by the on-going COVID-19 pandemic, you will feel welcomed here in Sendai, settled and excited for the new experiences ahead.
Since its founding in 1907, Tohoku University has been a research-centered, practice-oriented institution that values innovation and diversity. We were Japan's first university to accept female students; and we continue to place great emphasis on an international curriculum that focuses on helping students develop a more global mindset, in an open and diverse environment.
Through our strong academic and industry network, you will not only gain knowledge of the subjects you choose here, but will also get the chance to interact with - and learn from - students around the world.
To prepare you for a rapidly changing world increasingly influenced by data science and AI technology, we have established an AI, Math & Data Science Program as part of our liberal arts education for all students. Data science is a very powerful tool, and at Tohoku University, our collective responsibility is to couple that power with scientific knowledge and wisdom, to try to improve communities around the world.
I'm confident that your time with us will be intellectually stimulating and emotionally fulfilling. You will meet people from many backgrounds and cultures, hear things from different perspectives, and develop an awareness that will make you all better people.
During the next few weeks, you are going to be confronted with a lot of new information, experiences, and maybe even challenges. Some of it might be overwhelming. But just remember that all of us - faculty members, staff and students - are here to help and support you.
Welcome to the family. Welcome to Tohoku University.
【結びの言葉】
今後も新型コロナウイルス感染症に注意しなければならない状況が続きます。いわゆるLong COVIDと呼ばれる後遺症の正体もわかっていません。是非、皆さん一人一人が、この感染症の拡大防止に注意を払いながら、充実した有意義な学生生活を送ってください。
改めて、東北大学は、次世代の有為な人材に対する深い愛情と敬意をもって皆さんを歓迎します。皆さんが、私たちを大きく越えて成長されることを心より願っています。
令和3年4月吉日
東北大学総長