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平成27年3月東北大学学位記授与式

本日ここに、晴れて学士の学位を授与された2,407名の皆さん、修士の学位を授与された1,679名の皆さん、専門職の学位を授与された91名の皆さん、そして博士の学位を授与された471名の皆さん、おめでとうございます。東北大学を代表して、心よりお祝いを申し上げます。また、ここに至るまでの皆さんを支えてこられたご両親、ご家族、関係者の皆様にも、心よりお慶び申し上げます。

さて、私たちに耐え難い別離と悲しみをもたらした東日本大震災から4年余の歳月が流れました。その後も地球上では絶え間なく大規模災害が多発し、信じられない数の命が奪われ続けています。振り返れば、皆さんが学生生活を過ごした時期は、皆さんにとっても、東北大学にとっても、大震災に直面して衝撃を受け、あるいはその復旧?復興の途上で奮励努力を求められた時期でした。今回学士の学位を授与される皆さんの大半は、通常の入学式が行えない震災直後の混乱期であったにもかかわらず、それを乗り越え、本学への入学を決意してくれました。また、本日お集まりの皆さんは、プレハブなど不自由な施設?設備での学習や研究を行ってきたと思います。中には貴重な研究資源が消失し、そのために研究期間を延長せざるを得なかった方もおります。この4年間、皆さんは被災地の中心にあった本学の学生として、被災地訪問やボランティア活動などを通してこの悲劇と真正面から向き合い、人の命のはかなさ、愛おしさ、自然の力の大きさと非情さ、科学技術の限界、学ぶことの意味、人と人との結びつきなど、様々な思いを抱きながら今日の日を迎えていることと思います。この悲劇的な惨禍を体験して生き延びることができた私たちは、「なぜ生かされているのか」を問い掛けながら、「今の困難」を乗り越え、「より良き未来」を創造していくことで、復興、日本新生、そして地球社会の持続的成長に向けて、力を注ぐ義務があると思います。先ごろ開かれた国連防災世界会議で仙台を訪れた潘基文(パン?ギムン)国連事務総長は、悲劇的な体験をした福島の高校生が、その悲劇を乗り越えて、「世界から同様の悲劇をなくすために自分は何をすべきか」と問い掛けたことに心を動かされ、グローバルな世代が確実に育っていることと、若い世代にこのような連帯の気持ちが溢れていることに、人類の未来への明るい希望を感じたと話されました。そして、本学の学生からの質問に応える形で、大震災後に本学で学び巣立っていく皆さんにも前途への大きな期待を込めて、未来を切り開く先駆者としての役割を託しております。
 本日この場に、新しい時代の先駆者として活躍が期待される、また期待に応えなければならない皆さんが一同に結集していることに、私は歴史の必然の不思議さを感ぜずにはおられません。
 これから皆さんがどのような道を進むにしても、そして社会?世界がどのように変化しようとも、皆さんには皆さんが感じた様々な思いを抱き続け、そしてそのことを考え続けながら、本学で学び修練した人間力を基盤とする専門的知識を実践の場で駆使し、新しい可能性を切り拓くことを切に願っております。

私は今日ここで、皆さんが修得された専門的知識と社会との関わりについて話をしたいと思います。あらかじめ誤解がないように言えば、皆さんの専門的知識の更なる追究については語りません。それは皆さんにとって余りに当然の態度であり、改めて言及する必要がないと考えるからです。皆さんには、その前途への大きな期待を込めて、是非ともその専門的知識と社会との接点の追求を各人の課題として求めたいと思います。

現代社会は、科学技術文明という「知」を原動力とする社会形態の下にあります。科学は科学のための科学であった時代から、科学の持つ有用性が認識されるにつれて社会のための科学として、国家を最大のスポンサーとしながら発展してきました。そして、科学技術という知的活動が社会において認知されたこの2世紀余を振り返ると、知識は現実を理解する道具であるだけではなく、現実そのものを次々と変え、新しい現実を創造するという人為が及ぶ領域の拡大に力を発揮してきました。まさに「知識は力なり」です。しかしながら、科学技術がもたらした便利で豊かなはずである社会に起こっている危機的事象を見るとき、人としての本当の幸せとは何であるかを考える上で、「知識の社会的責任」を今一度問い直す声が高まってきました。
 大学は、知的探究心を基本に組織化されてきました。人間が知りたいと思う好奇心にかられた研究が行われることで、意図しない学問の進歩が偶然生まれるケースも多いことから、知的探究心に基づく活動には寛容であり、いささか通俗的な言い方ですが、「役に立つ」ことを問わないという信条が広く容認されてきました。いわゆる「象牙之塔」の世界です。したがって、大学で専門的知識と社会との接点を追求するのは、知的探究心にとって阻害にこそなれ有益ではないという認識が出てくるのには、こうした事情があるからです。私たちが専門的知識そのものの探究に興味があり、その社会的意味を考えることには興味がないとすることは、社会と没交渉な「象牙之塔」の世界では通用するかもしれません。しかし、皆さん一人ひとりがその構成員となっている社会の中で本当に通用するかは疑問です。
 そもそも全ての専門的知識は、私たちが現実をどう捉え、どう観るかという視点に関わっています。そして前にも述べたように、この2世紀余を振り返ると、専門的知識が現実を解釈する道具であるだけではなく、新たな知識が現実と衝突し、やがて知的世界の変革を飛び越えて社会そのものの変化のトリガ─になって新たな現実を創造するという巨大な力を発揮してきたことは、誰しもが認識するところです。
 それ故に、専門的知識と社会との接点は何かという問い掛けを無視して、知的探究心の殻に閉じ籠もり、その社会的意味を考えることには興味がないとすることは、社会の側からみると、知識の持つ強大な力や負の側面をあえて隠蔽する甚だ不誠実(アンフェア)な態度となるのです。
 このような事情を念頭に置くとき、専門的知識の社会的意味について社会の側からの問い掛けには尤もな理由があることが理解できると思います。
 この問い掛けにどう応答するかを考えるのは、皆さん自らが専門的知識を社会問題に取り組むために活かすという覚悟に大きく依存しています。つまり、「専門家のための専門的知識」や「専門バカ」のレベルから脱却して、皆さんがこの課題を直視し、自らの専門的知識の意味について真摯に考え、賢明な説明を試みることこそが、これからの新しい時代を担っていかねばならない皆さんの重要な責務なのであり、専門的知識と社会との新たな関係を継続的に模索する道ともなるのです。このことを的確に表したのが、社会への"integrity"と称する概念です。知識が単に社会に役立つか役立たないかで判断するのではなく、知識の持つ意味を総体として真摯に考え、良き面も負の側面も、誠実にかつ公明正大に明らかにすることを重視し、この様な社会との付き合い方に最高の価値を見出すとする考え方です。この"integrity"は、今、社会との付き合いにおける最高の褒め言葉として定着しています。
 皆さんには、今後ますます専門的知識の探究に磨きをかけ続けるとともに、あわせて、自らの専門的知識の意味と社会との関係性の在り方について"integrity"の態度を持って自分の言葉で語り、それぞれの天与の「道」を歩んでいただきたいと思います。
 東北大学は、そうした皆さんを誇りにし、これからも未来を切り拓くことを託された皆さんと一緒に、人類の新しい可能性を探究するワールドクラスの大学として確固たる地位を占めていく決意でおります。

皆さんは、東北大学から旅立っても、東北大学のコミュニティの一員です。皆さんは全学同窓会である東北大学萩友会の一員でもあります。大学は、ずっとお互いに関わり続けていける関係性を築きたいと考えて、毎年秋にはホームカミングデーを開催しています。皆さんが折に触れ母校を訪ね、この緑豊かなキャンパスで培った師弟の絆と学友との友情を更に深めてくださることを願っています。

東北大学は、世界各国からの学生が学ぶ大学です。本日は、30か国、252名の外国人留学生の皆さんが学位を取得しました。この高い国際性は、東北大学がワールドクラスへ飛躍する研究中心大学として活動していることの証であると考えます。ここで「国際学士コース」について一言ふれたいと思います。東北大学は文部科学省の「グローバル30事業」に採択された大学の一つとして、英語で学位が取得できる「フューチャー?グローバル?リーダーシップ?プログラム」(FGL)を平成23年秋に開始しました。このFGLでは、2年後に日本人を対象とした英語コースを開設する準備を進めています。この度、そのうちの一つである「国際機械工学コース」(IMAC-U(アイマック ユー))から、初めての卒業生を輩出することになりました。ここで簡単に英語で祝福の言葉を述べたいと思います。

Congratulations to you, the first graduates of the IMAC-U Course. You entered Tohoku University in fall 2011, six months after the Great East Japan Earthquake. You have overcome many challenges and difficulties, and have accomplished your goals. The skills and relationships you have built here will help you for the rest of your life.

本日学位を授与された留学生の皆さんには、日本を、そしてこの東北大学を第2のふるさととして、母国と日本、そして地球社会の発展に貢献していただきたいと思います。本日の学位記授与式には多くの留学生の皆さんが出席されていますので、最後に英語により送別の言葉を述べ、私からのお祝いの言葉といたします。

Now, I would like to switch from Japanese to English, because many of you are international students. I would like to talk directly to you in English.

It is my great pleasure to hold this 2015 Spring Commencement Ceremony of Tohoku University together with the Academic and Executive Staff Members. I am delighted to express my sincere congratulations on your successful completion of your courses in the Undergraduate and Graduate schools.

Many intractable problems, including the global environment, disaster risks, energy, low birth rates, and financial and employment issues, challenge the world today. In an effort to negotiate a solution to such problems, the world is struggling to attain new growth through innovation in all areas.

Against this background, you are expected to make use of your skills globally. But I also ask you to aim to become global-leaders in new areas.

In this age of progressive globalization, it is imperative that you all acquire not only the basic skills and knowledge necessary to survive as global citizens, but also the ability to understand various cultures and the diversity of societies.

The diplomas conferred on you today certify that you have acquired both a degree of expertise and a broad perspective. They also certify your ability to address the important issues that confront our society.

To the graduates: I hope that you will continue to foster the alumni networks you have established at Tohoku University, further enhance the skills and knowledge you have acquired here, and venture decisively into addressing policy challenges around the world.

Finally, I sincerely hope that today will be the first step toward a successful future for each one of you.

本日は誠におめでとうございます。Congratulations again!

平成27年3月25日

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東北大学総長

(於:仙台市体育館)  

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