本文へ
ここから本文です

平成26年3月東北大学学位記授与式

本日ここに、晴れて学士の学位を授与された2,442名の皆さん、修士の学位を授与された1,689名の皆さん、専門職の学位を授与された107名の皆さん、そして博士の学位を授与された479名の皆さん、おめでとうございます。東北大学を代表して、心よりお祝いを申し上げます。また、ここに至るまでの皆さんを支えてこられたご両親、ご家族、関係者の皆様にも、心よりお喜びを申し上げます。

今日のよき日は皆さんにとって人生の門出、新しい人生が始まることを意味しております。職業人としての第一歩を踏み出す人は、これから仕事を通して様々な問題を解決していかねばなりません。研究に従事し研究の更なる進展を目指す人は、非常な努力と真摯な研鑽が求められます。また、皆さんの中には祖国に戻り、祖国の発展や成長のために働く方もいると思います。本日学位を授与されるすべての皆さんが、それぞれの分野で、それぞれの場所で一層の奮励努力をされることを願ってやみません。

さて、東日本大震災から、早いものでもう3年が過ぎました。千年に一度といわれる今回の大震災では、大地震とその後の津波、原発事故が重なり、多くの人命が失われ、そこで暮らす人々の生活の基盤そのものが破壊されてしまいました。いまだに多くの方々が行方不明のままですし、生き残った家族が離れ離れで生活していることも稀ではありません。

今回の災害では、本学においても3名の学生が津波の犠牲となりました。また、多くの建物や設備が壊れ、貴重な研究資源や材料も失われました。本日学士の学位を授与される皆さんのほとんどは、一年生の春休みに震災を体験し、大学生活の大半を、震災後の混乱の中で過ごしたことになります。また、修士や博士の学位を授与される皆さんの中には、大切な研究成果が消失し、実験のやり直しやデータの再整理のために、卒業の時期を延ばした方もいると聞いています。皆さんは大学での生活を振り返りながら、様々な思いを胸に今日の日を迎えていることと思います。

震災後3年が経った今、冬季オリンピックやパラリンピックが平和裏に終わり、経済の活性化や2020年のオリンピックの東京開催が決まるなど明るいニュースも多く、仙台の地で生活していると、震災の爪痕を感じないほどに復興は進みました。しかしながら津波の被害の大きかった沿岸部は瓦礫の処理にやっと目処がついたものの、復旧?復興はまさにこれからであり、解決すべき問題が山積していることを忘れてはなりません。震災後の3月31日にある新聞に掲載された、両親と妹を亡くした4歳の女の子の2行の詩、「ままへ、おげんきですか、いきているといいね。」この2行の中には生と死を分けた運命とその不条理、人の強さや弱さ、生きることの悲しさや美しさ、自然の脅威と科学技術の限界など、さまざまな思いが凝集しているように感じるのは私だけではないと思います。この子には悲しみを乗り越えてとはとても言えませんが、それでもやはり生き抜いてほしいと思います。そして、この悲惨な惨禍を体験し生き延びることができた我々には、「今の困難」を乗り越え、「より良き未来」を創造していく義務があると思います。

社会の混乱した時、特に大規模な自然災害発生時には、様々な人間模様が繰り広げられ、人間性の本質や社会の抱える問題の実相が明らかになるといわれています。もちろん悪い面ばかりでもありません。私は3年前の震災時には東北大学の病院長でしたが、いくつかの貴重な体験をさせてもらいました。食料や医薬品の乏しい状況を救ってくれたのは、全国の大学病院や学会の関係者でした。また、沿岸部の医療機関が壊滅的な被害を受け、医療崩壊の危機に瀕した際には、実に多くの医療人が全国各地から、我が身の危険を顧みず駆けつけてくれました。情報や通信が制限された中でも、我々は決して孤立していないという不思議な安心感を覚えたことを今でも思い出します。病院の職員も患者さんも一緒になって、被災地の医療を守るために何ができるかを真剣に考え実行してくれました。辛いことも多かった時期でしたが、関係者が自己のためではなく、他人のために何ができるかを考えて行動することで、充実感と一体感を実感できた幸せな一時であったと思います。激烈な災害時に起こりやすい、医療の崩壊を契機とした社会システム全体の崩壊を防ぎ得たのは、国内外から多くの支援を得たおかげであるとともに、このような目に見えない場所で懸命に支えてくれた、多くの国民の総合的な力があったからだと思います。

学生諸君もごく当たり前のようにボランティアとして被災地に出向き、目を覆いたくなるような惨事にもひるむことなく活動したと聞いています。義務でも仕事でもなく、人としてその時にやるべきと思ったことに忠実に従った結果だと思います。自分の出来ることに真摯に取り組み、現在も活動を継続している多くの学生諸君には改めて敬意と感謝の念を表したいと思います。

大学での教育はどうあるべきか、は古くて新しい問題です。いくつもの議論が繰り返されてきました。ただ、大学教育論で有名なセント?アンドルーズ大学名誉学長であったJ.S.ミル(ジョン?ステュアート?ミル)が述べたように、大学での教育の目的が?この世界を自分が生まれた時よりも少しでもよいものにしてこの世を去りたい?という高貴な思いを持たせることにあるとするならば、東北大学は皆さんを、そのようなことを確かに学んだ卒業生として、誇りを持って世に送り出すことができると考えています。震災とその後の数年を本学で過ごした貴重な体験は、皆さんにとって大きな財産となり、これからの人生を生き抜く力になると信じています。

一方で、今回の震災では、これからの世界が直面する共通の課題が顕在化しました。

国内を見るとGDP200%に達する公的債務の削減、少子高齢化のもとでの社会保障の抜本的改革、エネルギーや食糧の自給など切羽詰まった問題があります。目を世界に転ずると、経済危機をはじめ、地球温暖化や環境汚染、食糧問題、パンデミックなど空前のスケールで展開する深刻な課題に直面しています。そしてこれらのことは今回の大震災を契機としてより緊急を要する課題となってきました。

本学は今回の震災で大きな被害を受けましたが、震災直後の四月には東北大学災害復興新生研究機構を立ち上げ、8大プロジェクトと100を超えるアクションプランを実施しています。災害科学を総合的に研究する災害科学国際研究所の設立、医療情報と遺伝子情報を組み合わせることで、近代的な医療を構築する東北メディカルメガバンク構想、災害に強い情報通信技術の開発や、環境?エネルギー問題への対処、豊かな海を取り戻すマリンサイエンス、原発事故後の放射能汚染対策、産業を興す人材の養成や、新規の産学連携を促すことで、被災地に新たな雇用を生み出す方策などです。これらの多くは我が国や被災地が現在直面している問題であると同時に、将来はすべての国で問題になる課題でもあります。そして、これまでのように欧米諸国の歩んできた道を手本として答えを見つけることはできず、我々自身が英知を集めて答えを見つけ出さねばならない難しい課題でもあります。それでも誰かが答えを見つけ出さねばなりません。歴史は偶然に左右されながら動いているようで、後から振り返るとある種の必然を持って動いたとしか言いようのないことが数多く起こっています。わが国においても、いくつかのパラダイムシフトの時期に、時と所を得た人物たちが現れ、世の中を転換し社会を発展させてきました。皆さんがこの時期に東北大学で学んだということは、歴史が皆さんにある種の負託をしたと考えていいのかもしれません。今回の課題の解決には、社会の仕組みそのものを変えるような大きな変化が必要になります。皆さんにはこのような困難な時にこそ「社会の負託に応える」真のエリートとしての矜持を持ち続けてほしいと思います。

被災地の仙台や東北にも明るい話題がたくさんありました。昨年のプロ野球、東北楽天イーグルスの日本一、そして今年のソチオリンピック フィギュアスケートの羽生結弦選手の金メダル獲得には東北中が湧きました。こうした選手の活躍は被災された方々へ大きな勇気や希望を与え、少しずつではありますが活気がよみがえってきたように感じます。

本学は全国七大学総合体育大会で主管校の大阪大学を破って総合優勝しました。体育施設も損壊し練習も不十分な中での優勝です。文化部も活発に活動しています。学生が元気だと教職員もみんな元気になります。困難な時期に後輩を叱咤激励して育ててくれた皆さんに感謝したいと思います。

もう一つうれしいお知らせです。本学の同窓生である小田和正さんが、新しい校友歌を作ってくれました。東北大学が好きになるよい歌です。この後の授賞式の最後で一緒に歌いたいと思います。卒業後も折に触れて大学や仙台のことを思い出しながら歌ってください。また、毎年10月にはホームカミングデーを開催しています。皆さんが社会で活躍する姿は後輩にとってよき刺激であり、大学にとって誇りであります。是非元気な姿でお集まりいただき、交流の輪を広げていただければと思います。

東北大学は世界各地からの学生が学ぶ大学です。本日学位を授与された外国人留学生は227名、学位記授与者のおよそ5%を占めます。留学生の皆さんにはいろいろな面で自国とは異なる我が国の文化に触れ、戸惑ったことも多かったのではないかと思います。東北大学で学んだことを誇りに思うとともに、皆さんが感じた我が国の本当の姿を皆さんの国に伝えて、できるならばこの日本を、そしてこの東北大学を第二の故郷として、母国と日本、そして地球社会の発展に貢献していただきたいと思います。

最後になりますが、今後、皆さんが幸せな人生を歩むことを祈念して、私からのお祝いの言葉といたします。卒業おめでとう。

 

平成26年3月26日   東北大学総長 里 見   進  

(於:仙台市体育館)   

このページの先頭へ