2025年 | プレスリリース?研究成果
東北大学と富士通、「NanoTerasu(ナノテラス)」の測定データに因果発見AIを適用し、超伝導発現メカニズム解明に繋がる因果関係を自動抽出 地球環境問題を解決する新規機能性材料の研究開発を加速
【本学研究者情報】
〇材料科学高等研究所/理学研究科 教授 佐藤宇史
理学研究科 助教 中山耕輔
研究室ウェブサイト
【概要】
国立大学法人東北大学(注1)(以下、東北大学)と富士通株式会社(注2)(以下、富士通)は、「3GeV高輝度放射光施設NanoTerasu(以下、ナノテラス)(注3)」の測定データに因果関係を自動抽出するAI技術を適用し、物性発現メカニズムの全容解明が期待されるカゴメ格子超伝導材料(注4)において、超伝導発現メカニズムの解明に繋がる新しい知見の導出に成功しました。本成果は2025年12月22日付けで科学誌Scientific Reportsに掲載されました。
両者は、富士通のAIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi」のコア技術である因果発見技術をベースに、信頼性が高い因果関係を網羅的かつ簡潔に推定できる発見知能技術(以下、本技術)を新たに開発しました。さらに本技術を、東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)との協働のもと、カゴメ格子超伝導材料を試料として、物性研究で用いられる実験手法である角度分解光電子分光法(ARPES)(注5)により計測したデータに適用したところ、カゴメ格子超伝導物質の超伝導発現メカニズムの解明につながる新たな知見を発見しました。環境?エネルギー、創薬?医療や電子デバイスなど様々な業界の材料研究においても、本技術を適用することで研究開発を加速し、革新的な材料の発見によるイノベーション加速が期待できます。
富士通は、2026年3月に、本技術のトライアル環境の提供を開始します。今後、両者は、「ナノテラス」の世界最高レベルの高い空間分解能(注6)と本技術をさらに活用し、物質の微小領域で起こっている現象の因果関係を計測データから自動で明らかにしていくことで、新物質の物性発現メカニズムの全容解明、および高温超伝導や次世代低消費電力デバイスなど、富士通のマテリアリティの1つである地球環境問題を解決する新しい機能性材料の研究開発に貢献していきます。また、本技術を様々な分野の計測?実験データに適用を拡大し、科学研究プロセス自動化の推進に役立てていきます。
図1: ARPES測定からの因果発見
【用語解説】
注1 国立大学法人東北大学:
本部:宮城県仙台市、総長:冨永悌二
注2 富士通株式会社:
本店:神奈川県川崎市、代表取締役社長:時田 隆仁
注3 3GeV高輝度放射光施設 NanoTerasu:
東北大学青葉山新キャンパスに建設された、世界最高水準の分析能力をもつ次世代放射光施設で、国の主体機関である量子科学技術研究開発機構(QST)と地域パートナーの代表機関である光科学イノベーションセンター(PhoSIC)による官民地域パートナーシップという新しい枠組みによって整備?運営されている。最新の円型加速器設計を国内で初めて採用した第4世代放射光施設で、従来の100倍の高輝度化と高コヒーレント化を実現することで、物質構造の解析に加え、機能に影響を与える「電子状態」、「ダイナミクス」などの詳細な解析が可能である。なお、放射光とは、円形の加速器内を周回運動する3 GeV(ギガ電子ボルト)の高いエネルギーを持つ電子が、磁場によって軌道を曲げられたときに発生する指向性の高い電磁波のこと。赤外線から可視光(人が見ることのできる光、動物種によって見ることの出来る光の波長は異なる)、紫外線、X線、γ線に至るまでの、幅広い波長の電磁波が加速器から発生されるため、放射光の用途も広く、材料科学、デバイス開発、環境科学、医学、生物学、考古学、科学鑑定など多くの分野で、物質、材料、化学物質、生物、食物などについて、原子や分子の構造や元素の状態の精密な分析が行われている。
注4 カゴメ格子超伝導材料:
カゴメ格子とは、竹籠の編み目状に原子が配列した結晶構造のこと。超伝導とは電気抵抗が低温でゼロになる現象を指す。多くの物質で超伝導が発見されているが、カゴメ格子における超伝導は電子と格子の相互作用だけでは説明できない可能性が指摘されており、詳細なメカニズムの解明が重要な課題となっている。
注5 角度分解光電子分光法(ARPES):
結晶の表面に紫外線を照射して、外部光電効果により結晶外に放出される電子のエネルギーと運動量を同時に測定することで、物質中での電子の状態を観測する実験手法。近年、ARPES手法の高度化が進み、ミクロン径以下に集光した紫外線を照射することで、電子構造の実空間分布の決定も可能に。これにより、物質の電子構造が空間的に変化する様子を観察できるようになった。
注6 空間分解能:
どれだけ小さいものまで測定できるかを示す能力。
【論文情報】
タイトル:Extracting causality from spectroscopy
著者:Kei Fujita, Kosuke Nakayama, Yuka Fujiki, Takemi Kato, Hiroshi Suito, Hiroyuki Higuchi*, and Takafumi Sato*
責任著者:富士通コンピューティング研究所 樋口博之、東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR) 佐藤宇史
掲載誌:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-025-29687-8
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
教授 佐藤 宇史
電話 022-217-6169
E-mail t-sato*arpes.phys.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学大学院理学研究科
助教 中山 耕輔
電話 022-217-6169
E-mail k.nakayama*arpes.phys.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること) 東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
広報戦略室
電話 022-217-6146
E-mail aimr-outreach*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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