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働く酵素の姿をミリ秒で捉える ―SACLAが拓く新しい時分割タンパク質構造決定法の可能性―

【本学研究者情報】

〇多元物質科学研究所 教授 南後恵理子
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 酵素の反応過程をミリ秒レベルで可視化することに成功
  • 独自の二液混合装置による時間分解結晶構造解析で,酵素が構造を変化させる仕組みを解明
  • 新しい時分割タンパク質構造決定法として,生命科学研究の可能性を大きく広げると期待

【概要】

大阪医科薬科大学,大阪大学,東北大学,龍谷大学,大阪公立大学,量子科学技術研究開発機構,神戸大学,理化学研究所,高輝度光科学研究センター,京都大学,兵庫県立大学などから構成される研究グループは,X線自由電子レーザー(XFEL)※1施設「SACLA※2」を用いた連続フェムト秒結晶構造解析(SFX)※3により,銅含有アミン酸化酵素の触媒過程の可視化に成功しました。本研究では,SACLAが開発を主導した二液混合装置※4が提供されました。本装置を用いることにより,酵素と基質が反応を開始してから数十から数百ミリ秒経過後の,反応時間軸に沿った様々な中間体の構造を決定しました。得られた構造情報から,本酵素が触媒過程を進行させる際に自身の構造を変化させるメカニズムが明らかとなりました。二液混合法によるSFXは汎用性が高く,酵素に加え各種の重要タンパク質が働く際の速い構造変化の追跡にも応用可能です。本成果は,生命科学研究の可能性を大きく広げる画期的なものといえます。

本研究は英国科学誌「Nature Communications」に12月18日(木)19時(日本時間)に公開されました。

図1 触媒過程での補酵素TPQの構造変化

【用語解説】

※1 X線自由電子レーザー(XFEL,X-ray Free Electron Laser)
X線領域におけるレーザーのことであり,近年の加速器技術の発展によって実現した。大型放射光施設SPring-8(スプリングエイト)などの従来の放射光源と比較して,10億倍もの高輝度のX線がフェムト秒(1,000兆分の1秒)の時間幅を持つパルス光として出射される。この高い輝度を活かし,数マイクロメートル程度の小さな結晶を用いたタンパク質の原子分解能の構造解析に利用されている。また,フェムト秒パルスの特性を活かし,X線照射による試料損傷が顕在化する前の構造を解析することが可能であり,鉄原子を含む酵素など,損傷が顕著な試料の構造解析に利用されている。

※2 SACLA(SPring-8 Angstrom Compact free electron LAser)
理化学研究所と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本ではじめてのXFEL施設。2011年3月に施設が完成しSACLA(サクラ)と命名された。大きさが諸外国の同様の施設と比べて数分の1とコンパクトであるにもかかわらず,0.1 nm以下という世界最短クラスの波長のレーザー生成能力を持つ。高い空間コヒーレンス,短いパルス幅,高いピーク輝度を備えたX線領域のレーザーを発生させる。

※3 連続フェムト秒結晶構造解析(SFX,Serial Femtosecond Crystallography)
多数の微結晶を含む液体などをインジェクター(試料輸送装置)から噴出しながら,X線レーザーを照射し結晶の構造を解析する手法。配向の異なる多数の微結晶からの回折イメージを連続的に収集する。結晶中の分子の微細な動きを高い時間?空間分解能で観察することが可能となる。本研究では,数万枚のイメージデータからタンパク質の立体構造を決定し,反応中間体のスナップショットを構築した。

【論文情報】

タイトル:"Real-time capture of domain movements during copper amine oxidase catalysis by mix-and-inject serial crystallography"
著者名:Takeshi Murakawa*, Mamoru Suzuki, Kenji Fukui, Tetsuya Masuda, Eiichi Mizohata, Ikuko Miyahara, Ikuya Kurauchi, Taiki Murakami, Himawari Matsunaga, Yoshiki Montawa, Norie Nakajima,Toshinori Oozeki, Katsuki Sakai, Teikoku Son, Takehiro Higuchi, Tomoko Sunami, Tetsunari Kimura, Kensuke Tono, Tomoyuki Tanaka, Michihiro Sugahara, Toshi Arima, Luo Fangjia, Jungmin Kang, Rie Tanaka, So Iwata, Eriko Nango*, Takehiko Tosha, Takato Yano, Katsuyuki Tanizawa, and Toshihide Okajima*
*は責任著者
DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-025-67230-5

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(SACLAでのSFXについて)
東北大学 多元物質科学研究所
教授 南後恵理子(なんご えりこ)
E-mail: eriko.nango.c4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(広報担当)
東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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