2025年 | プレスリリース?研究成果
小児腸管不全関連肝障害に対する未承認薬の医師主導治験を終了-希少疾病用医薬品の国内承認に向けた大きな一歩-
【本学研究者情報】
〇東北大学大学院医学系研究科
小児外科学分野
教授 和田基
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 小児の腸管不全に伴う重篤な肝障害(腸管不全関連肝障害:IFALD(注1))における栄養(必須脂肪酸)補給を目的とした未承認薬「魚油由来静注用脂肪乳剤(Omegaven?)(注2)(以下、本剤)」の安全性と有効性を検証する医師主導治験において、目標症例数20例の登録および治験薬投与を終了しました。
- 本剤は、2025年5月の「医療上の必要性の高い未承認薬?適応外薬検討会議」において、開発の必要性が特に高い医薬品として評価されました。
- 本治験の終了により、国内承認および保険適用に向けた動きが加速し、小児腸管不全患者の生命予後およびQOL(生活の質)の改善が期待されます。
【概要】
小児の腸管不全では静脈栄養が必要ですが、従来の大豆油由来脂肪乳剤(注3)はIFALDの原因となります。また、本剤はIFALD の予防?改善に有効とされ海外35カ国以上で承認されていますが、国内では未承認のため、患者は従来の治療を続けざるを得ませんでした(図1)。
東北大学大学院医学系研究科小児外科学分野の和田 基教授と東北大学病院総合外科?小児外科グループは、小児のIFALDに対するOmegaven?の医師主導治験(第III相試験)を実施しました。2025年12月11日に目標とする20例の症例登録および治験薬投与を完了し、治験を終了しました。また、本剤は、2025年5月9日開催の厚生労働省「医療上の必要性の高い未承認薬?適応外薬検討会議」において、医療上の必要性が高いと評価されています。
本治験の成果は、国内での薬事承認申請のための重要なデータとなり、日本の小児医療におけるアンメット?メディカル?ニーズ(未だ満たされていない医療ニーズ)の解消に寄与するものです。
図1. 魚油由来静注用脂肪乳剤と腸管不全関連肝障害
短腸症候群などの「腸管不全」の小児患者は、腸から栄養を吸収できないため、「静脈栄養(点滴)」によって糖質?アミノ酸?ビタミン等を補給し、生命を維持しています。中でも「静注用脂肪乳剤」は、効率的なエネルギー源であると同時に、体内で合成できない必須脂肪酸を補給するために不可欠な薬剤です。
従来使用されてきた「大豆脂肪乳剤」は、炎症を引き起こす物質の原料となるオメガ6系脂肪酸が多く、また植物ステロールを含んでいます。これらは、小児の静脈栄養における致死的な合併症「腸管不全関連肝障害(IFALD/静脈栄養関連胆汁うっ滞)」の主要な原因であると指摘されています。
対して、本治験で使用した「魚油脂肪乳剤(Omegaven?)」は、炎症を抑制するオメガ3系脂肪酸を豊富に含み、肝障害の原因となる植物ステロールを含みません。さらに、オメガ6系脂肪酸であるアラキドン酸も適量含んでいるため、単独投与でも必須脂肪酸欠乏を来たさないと考えられています。
本治験は、魚油脂肪乳剤を用いることで、重篤な肝障害(IFALD)を抱える患児に対しても、肝臓への負担を回避しつつ安全に栄養(必須脂肪酸)補給が可能であることを証明するものです。
【用語解説】
注1. 腸管不全関連肝障害(IFALD)
静脈栄養を長期に行うことで発症する胆汁うっ滞や肝機能障害。進行すると肝不全に至る重篤な合併症。
注2. 魚油由来静注用脂肪乳剤(Omegaven?)
純魚油を原材料としてミセル化(乳化)し、静脈投与を可能とした注射薬。EPAやDHAなどのオメガ3系脂肪酸を豊富に含む。オメガ6系脂肪酸の含有量は少ないが、アラキドン酸などは適量含むため、単独投与でも必須脂肪酸欠乏をおこしにくいと報告されている。欧州などでは古くから主に大豆脂肪乳剤などと併用し、オメガ3系脂肪酸を補うことを目的に承認されていたが、小児の適応は有さず、腸管不全関連肝障害に対する適応もなかった。2000年代後半よりボストン小児病院などで小児の静脈栄養関連胆汁うっ滞(腸管不全関連肝障害のうち胆汁うっ滞を伴う病態)に対し使用されるようになり、2018年に米国FDAにおいて、小児静脈栄養関連胆汁うっ滞における栄養補給を適応として承認された。
注3. 大豆油由来脂肪乳剤
大豆油を原材料とする静注用脂肪乳剤。日本国内で静注用脂肪乳剤として承認されているのは、現状この脂肪乳剤のみである。オメガ6系脂肪酸を豊富に含むが、オメガ3系脂肪酸はほとんど含まず、胆汁うっ滞などの肝機能障害の原因となる植物ステロールを含むことなどから、腸管不全関連肝障害の主な原因とされている。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科
小児外科学分野
教授 和田 基(わだ もとし)
TEL: 022-717-7235
Email: motoshi.wada.d5*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科?医学部広報室
東北大学病院 広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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