2025年 | プレスリリース?研究成果
テトラゼンラジカルカチオン塩の単離と構造決定に成功 ―安定ラジカルを触媒とする持続可能な酸化反応技術の創出―
【本学研究者情報】
〇薬学研究科合成制御化学分野 准教授 笹野裕介
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- これまで単離(注1)例のなかった「テトラゼンラジカルカチオン塩(注2)」の初の単離と構造決定に成功しました。
- 非芳香族(注3)構造でありながら空気中で安定な窒素ラジカルカチオンを実現し、その安定化要因を解明しました。
- 本化合物を触媒量用いることで、アルコールの酸化反応を穏和な条件下で高効率に達成しました。
【概要】
2-テトラゼンは、窒素原子が4つ直線的に連なった構造をもつ化合物群で、エネルギー材料などの用途が研究されています。しかし、その一電子酸化(注4)で生じるテトラゼンラジカルカチオンは、これまで分光学(注5)的な手法で存在が確認されるのみで、単離や構造決定には至っていませんでした。
東北大学大学院薬学研究科の岩渕好治 教授、笹野裕介 准教授、大城彩里 大学院生らの研究グループは、アダマンタン(注6)骨格を導入した新規2-テトラゼンを設計し、そのラジカルカチオン塩の単離と構造決定に世界で初めて成功しました。この化合物は室温?空気中で長期間安定であり、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(注7)による精製も可能です。従来の窒素ラジカルカチオンは、ベンゼン環など芳香族骨格による電子の非局在化(注8)によって安定化されてきました。本研究で得られた化合物は、非芳香族構造でありながら極めて安定という特徴をもちます。さらに、この安定ラジカルカチオン塩を触媒量用いることで、アルコールの酸化反応(注9)を穏和な条件下で効率的に進行させることに成功しました。
本研究は、安定ラジカルの新たな分子設計指針を提示し、持続可能な酸化反応技術を提案するものです。
本研究成果は2025年12月15日付で米国化学会誌Journal of the American Chemical Societyにオンライン掲載されました。
図1. (A) 代表的な窒素含有安定ラジカルカチオン塩. (B) 2-テトラゼンと対応するラジカルカチオン.
【用語解説】
注1. 単離:混ざり合った化合物の中から、目的の化合物だけを純粋な状態で取り出すこと。
注2. ラジカルカチオン塩:一般的な分子は電気的に中性であり、全ての電子がペアになっているが、ここから1つの電子を取り去ると正の電荷(カチオン)と不対電子(ラジカル)を併せもつ化学種(ラジカルカチオン)が生じる。このラジカルカチオンが、電荷のバランスを取るために負のイオン(対アニオン)と組み合わさったものがラジカルカチオン塩である。
注3. 芳香族:ベンゼンのように、原子が特定の大きさの環を作り、その中で電子が均一に動き回っていて(=電子が非局在化していて)特に安定な構造をもつ化合物群。
注4. 一電子酸化:分子から電子を1個だけ取り除く反応。
注5. 分光学:光(電磁波)を使って物質の性質を調べる学問。
注6. アダマンタン:ダイヤモンドのように堅固な立体構造をもつ炭化水素。
注7. シリカゲルカラムクロマトグラフィー:粉末状のシリカゲル(ケイ酸)を詰めた筒(カラム)を通して、化合物を溶媒で流し分ける精製方法。電気的に中性な分子を分離?精製するための最も一般的な手法であるが、イオンを含む化合物をこの方法で分離できる例はまれである。したがって、本研究でラジカルカチオン塩をこの方法で精製できたことは、この化合物が非常に安定であることを示している。
注8. 非局在化:電子が特定の原子に固定されず、分子全体に広く分布して安定化する状態。
【論文情報】
タイトル:Air-Stable Tetrazene Radical Cation Salts: Structural Requirements and Oxidation Catalysts
著者:Ayari Oshiro, Yusuke Sasano,* Shu Saito, Yasuyuki Araki, Soichiro Sugiyama, Eunsang Kwon, Shinji Kajimoto, Yuse Kuriyama, Shohei Yoshinaga, Masaya Takahashi, Katsuhiko Sato, Naoki Shida, Yusuke Ishigaki, Mahito Atobe, and Yoshiharu Iwabuchi*
*責任著者:東北大学大学院薬学研究科 教授 岩渕好治、東北大学大学院薬学研究科 准教授 笹野裕介
掲載誌:Journal of the American Chemical Society
DOI:10.1021/jacs.5c15272
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学大学院薬学研究科
教授 岩渕好治
TEL: 022-795-6846
Email: y-iwabuchi*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
准教授 笹野裕介
TEL: 022-795-6848
Email: ysasano*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科?薬学部
総務係
TEL: 022-795-6801
Email: ph-som*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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