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材料に潜む「欠陥」を予測する新AI技術を開発 ―新材料探索の新たな基盤技術として期待―

【本学研究者情報】

〇金属材料研究所 教授 熊谷悠
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 実材料で重要な役割を担う「欠陥」のエネルギーを、人工知能(AI)で予測する手法を提案し、酸素空孔において世界最高の予測精度を実現しました。
  • 開発したAIモデルを用いて有望な32種類のp型酸化物を提案しました。
  • 本手法により、エネルギー変換デバイスや次世代エレクトロニクス材料の効率的な探索が期待されます。

【概要】

物質中に必ず存在する点欠陥(注1)は、材料特性を大きく左右する重要な要素であり、新材料の発見においてその特性の把握は不可欠です。しかし、欠陥形成エネルギーの評価には多大な計算資源が求められる量子力学計算(注2)が必要であり、実用材料探索の大きな障壁となっていました。

東北大学大学院工学研究科の澁井千紗大学院生(研究当時)、同大学金属材料研究所の清原 慎講師、Soungmin Bae助教、熊谷 悠教授らは、結晶をグラフとして扱うグラフニューラルネットワーク(GNN)(注3)を活用し、半導体や絶縁体中の欠陥がとり得る複数の電荷状態の形成エネルギーを単一モデルで同時に予測できる新しい枠組みを構築しました。これをもとに、酸素空孔の形成エネルギーを予測するAIモデルを構築し、世界最高精度の予測精度を実現しました。さらにこのモデルを用いておよそ2,000種類の酸化物材料を評価し、BaGaSbO をはじめとする有望な32種類のp型酸化物を提案しました。本成果は、これまで計算負荷の大きさから困難だった「欠陥を含む現実の材料の高速スクリーニング」を可能にするものであり、AI を活用した次世代材料開発の基盤技術として大きく貢献することが期待されます。

本研究成果は、2025年12月11日(現地時間)付で物理学分野を代表する国際学術誌Physical Review Letters にオンライン掲載されました

図1. 900酸化物中の酸素空孔形成エネルギー予測値で、横軸は、量子力学計算による値で、縦軸は機械学習による予測値を示しています。右下には、各電荷とそれらを合わせた際の平均絶対誤差をeVの単位で示しています。

【用語解説】

注1. 点欠陥
結晶中で原子が本来あるべき位置から欠ける(空孔)、別の原子に置き換わる(置換欠陥)、余分な原子が入り込む(格子間欠陥)などによって生じる、原子スケールの局所的な乱れである。ごく微量であっても電気伝導、光吸収、ドーピングの可否、材料の安定性などの物性を大きく左右するため、材料の性能を決定する重要因子となる。

注2. 量子力学計算
固体中の電子の振る舞いを量子力学に基づいて求める計算手法。特に固体材料では密度汎関数理論(DFT)が広く使われ、材料の安定性、電子構造、バンドギャップ、点欠陥形成エネルギーなどを原理的に評価できる。精度が高い一方で、計算コストが大きく、大規模材料探索には時間と計算資源が必要となる。

注3. グラフニューラルネットワーク(GNN)
物質や分子などを「グラフ(点と線のつながり)」として扱い、その構造情報を学習する人工知能モデル。原子を"点(ノード)"、原子間の結合や距離を"線(エッジ)"として入力し、構造の特徴を自動的に抽出できるため、結晶構造を扱う材料科学の分野で広く利用されている。

【論文情報】

タイトル:Machine-Learning Prediction of Charged-Defect Formation Energies from Crystal Structures
著者: Shin Kiyohara, Chisa Shibui, Soungmin Bae and Yu Kumagai*
*責任著者:東北大学金属材料研究所 教授 熊谷 悠
掲載誌:Physical Review Letters
DOI:10.1103/h66h-y5k6

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学 金属材料研究所
教授 熊谷 悠
TEL:022-215-2106
Email:yukumagai*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学金属材料研究所
情報企画室広報班
TEL:022-215-2144
Email:press.imr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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