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硝酸イオンからアンモニアを80%の選択率で合成 ―微粒子触媒における活性サイトの1原子精度制御によって達成―

【本学研究者情報】

〇多元物質科学研究所 教授 根岸雄一
多元物質科学研究所 准教授 川脇徳久
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 原子精度でサイズが正確な金属ナノクラスター(金属NC)(注1)の配位子を制御することで、触媒の活性点(触媒反応が進行する原子)となる露出した銅(Cu)サイトを有するCu14 NCの創製に成功しました。
  • 露出Cuサイトを有するCu14 NCは、露出Cuサイトを持たないCu14 NCおよび一般的なCuナノ粒子触媒と比較して、電気化学的硝酸イオン還元反応(eNO3-RR)(注2)において硝酸イオンから著しく優先的にアンモニアを選択して合成しました(~80%)。
  • 理論計算により、触媒反応が効率的に進行した理由は、NO3-が露出Cuサイトへ容易に接近できたこと、さらにこの露出CuサイトはNO3-中間体が吸着しやすい電子状態を持っていたためであることを明らかにしました。

【概要】

銅ナノクラスター(Cu NC)は、原子レベルで構造が決定されたナノ物質であり、量子化された電子状態に起因する独自の触媒特性を示します。しかし、多くのNCでは、その表面は配位子によって完全に覆われ、活性点となる金属原子表面が露出していないため、さらなる高機能化が困難でした。

東北大学 多元物質科学研究所の根岸雄一 教授、川脇徳久准教授らの研究グループは、ほぼ同一の幾何構造を有するCu14 NCにおいて、用いるチオラート配位子の違いのみでCuサイトの露出を制御できることを見出しました。その結果、たった1つの露出したCuサイトを有するCu14 NCが電気化学硝酸イオン還元反応に対して、著しく高いアンモニア(NH3)選択性(~80%)および生成速度を示すことを明らかにしました。

これらの知見は、NC触媒全体の幾何構造だけでなく、反応活性点の原子精度制御が高選択高活性な触媒反応に重要であることを明らかにし、今後様々な金属NC触媒の創製に大きく役立つと期待されます。

本研究成果は、2025年12月9日公開の学術誌ACS Catalysisに掲載されました。

図1. 電気化学的硝酸イオン還元反応(eNO3-RR)の反応スキーム。水を電子源およびプロトン源として、工業?農業排水中の硝酸イオンを窒素源として、再生可能エネルギー由来の電力によって、常温?常圧の穏やかな条件下で、基礎化学品であるアンモニアを合成することが可能となる。

【用語解説】

注1. 金属ナノクラスター(金属 NC):数個から100個以下程度の金属原子が直接的、または配位子を介して集まり、特定の骨格構造を持った微小な集合体のこと。

注2. 電気化学的硝酸イオン還元反応(eNO3-RR):硝酸イオンがアンモニアに完全に還元される電気化学還元反応は、常温?常圧の穏やかな条件下で進行するため、高温?高圧のエネルギー多消費型である従来のハーバー?ボッシュ法に代わる、環境に優しいアンモニア合成法として期待されている。しかし、8電子移動反応であり、副反応や競合する水素生成反応を抑えることが課題となっている

【論文情報】

タイトル:Exposure of Active Metal Sites on Cu14 Nanoclusters for Highly Selective Electrocatalytic Nitrate Reduction .
著者:富張志保,1神山真帆,1 Harpriya Minhas,2川脇徳久,*1,3竹前花南,3 新行内大和,3 Ziyi Chen,4 Biswarup Pathak,*2根岸雄一*1-3(1. 東北大学多元物質科学研究所、2. インド工科大学インドール校、3. 東京理科大学カーボンバリュー研究拠点、4. ダルハウジー大学)
*責任著者:東北大学 多元物質科学研究所教授 根岸雄一
東北大学 多元物質科学研究所 准教授 川脇徳久
インド工科大学インドール校 教授 Biswarup Pathak
掲載誌:ACS Catalysis
DOI:10.1021/acscatal.5c04431

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
教授 根岸雄一
TEL: 022-217-5604
Email: yuichi.negishi.a8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学多元物質科学研究所
准教授 川脇徳久
TEL: 022-217-5606
Email: tokuhisa.kawawaki.d8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
Email: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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