本文へ ナビゲーションへ
ここから本文です

AI計算を高効率に処理可能な確率論的コンピューターの大規模化に向けて新技術の動作実証に成功 -アナログ回路不要確率ビットを提案しスピントロニクス技術で実証-

【本学研究者情報】

〇電気通信研究所 教授 深見俊輔
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • AI計算の高効率処理などを可能とする、物理状態の確率的なゆらぎをハードウェアレベルで利用する確率論的コンピューター(注1が注目されています。
  • 当技術の大規模化に適した、アナログ回路(DAC(注2)が不要な新回路を提案し、確率動作スピントロニクス(注3素子を用いて動作実証しました。
  • 大規模かつ省エネ性に優れ、AI推論や組合せ最適化などを高効率に処理するハードウェアの実現に向けた重要な成果です。

【概要】

AI社会の進展に伴い、複雑なAI計算を省エネで処理するコンピューターの実現への期待が高まっています。物理状態の確率的なゆらぎをハードウェアレベルで利用する確率論的コンピューターはその選択肢として有望視されます。入力信号に応じて0または1をランダムに出力する確率ビット(Pビット)は確率論的コンピューターの最重要構成要素です。従来の確率ビットではDACと呼ばれるデジタル信号をアナログ信号に変換するアナログ回路が不可欠でした。このDACは一般に回路面積や消費電力が大きく、確率論的コンピューターの大規模化を図るうえでの弱点でした。

今回、東北大学とカリフォルニア大学サンタバーバラ校の研究チームはDACを不要とする確率ビット回路を提案し、熱で磁化方向が確率的にゆらぐスピントロニクス素子を用いてその動作を実証しました。提案技術のポイントは、デジタル遅延回路を用い、遅延時間を調整することで実質的にDACと等価な機能を実現する点にあります。研究チームは確立した技術を用いて組合せ最適化をオンチップで解くなどして、その有用性を実証しました。本成果は大規模?省エネAI計算機の実現に向けた重要な基盤を提供するものです。

本成果は2025年12月6-10日(米国時間)に米サンフランシスコで開催される学術会議International Electron Devices Meeting: IEDMで発表されました。

図1. 従来型確率ビット(a)と本研究で提案したDAC不要確率ビットの回路構成の模式図。Xは状態が確率的にゆらぐデバイスを表し、本研究では熱で磁化方向が確率的にゆらぐスピントロニクス素子を用いて実現された。従来型確率ビット(a)ではデジタル入力信号をアナログ入力信号に変換するためのアナログ回路であるDACが必要であったのに対して、本研究で提案された確率ビット(b)は遅延回路などのデジタル回路のみで構築することができ、確率論的コンピューターの大規模化が容易となる。

【用語解説】

注1. 確率ビット、確率論的コンピューター
確率ビット(Pビット)とは、短時間で0と1の信号を確率的に出力し、かつ各ビットを電気的に相関させられる情報処理の基本単位。確率論的コンピューターは確率ビットを用いて演算を行うコンピューター。 確率ビットは0と1の重ね合わせ状態を持ち、かつビット間でもつれあい(相関状態)を形成できる量子ビットとは本質的に異なるが一定の類似性があり、確率論的コンピューターは量子コンピューターと並んで新概念コンピューターの一つとして注目されている。1981年にリチャード?ファインマンが行った講演において、量子コンピューターと並んで、確率的な現象を効率的に計算する仕組みとして紹介されている。

注2. DAC
コンピューターが扱う0と1のデジタル信号を、0から1までの連続したアナログ信号に変換する装置や回路。音楽プレーヤーで音をスピーカーに出す、工場設備を細かく制御するなど、デジタル情報を現実世界の動作に変える役割を担っている。必要な回路点数は要求されるアナログ信号の精度に依存し、低分解能のDACでは数10~数100個のトランジスタ、中~高分解能のDACでは数100~数1000個のトランジスタが必要となる。

注3. スピントロニクス
物質中の電子が持つ、電気的な性質(電荷)と磁気的な性質(スピン)の両者が介在することで発現する物理現象を理解し、工学的な応用を目指す学術分野。磁性体のN極/S極の向きをデジタル情報の(0,1)の担い手として電気的に制御する、磁気抵抗ランダムアクセスメモリ(MRAM)や、磁場を電気信号に変換する磁気センサー等への応用が代表的。

【論文情報】

タイトル:DAC-Free p-bits: Asynchronous Self-Coloring and On-Chip Annealing
著者:Kemal Selcuk, Navid Anjum Aadit, Corentin Delacour, Jared Quintana Silva, Nihal Sanjay Singh, Haruna Kaneko, Shun Kanai, Yu-Jui Wu, Yi-Hsuan Chen, Yu-Sheng Chen, Yi Ching Ong, Kuo-Ching Huang, Harry Chuang, Hideo Ohno, Shunsuke Fukami* and Kerem Y. Camsari* *責任著者
国際会議:71st Annual IEEE International Electron Devices Meeting (IEDM 2025)
URL:https://iedm25.mapyourshow.com/8_0/sessions/session-details.cfm?scheduleid=141

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学電気通信研究所
教授 深見 俊輔
TEL: 022-217-5555
Email: s-fukami*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(兼)東北大学大学院工学研究科電子工学専攻
(兼)東北大学先端スピントロニクス研究開発センター (CSIS)
(兼)東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター (CIES)
(兼)東北大学材料科学高等研究所 (WPI-AIMR)
(兼)公益財団法人稲盛科学研究機構 (InaRIS)

(報道に関すること)
東北大学電気通信研究所 総務係
TEL: 022-217-5420
Email: riec-somu*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

sdgs_logo

sdgs09 sdgs11 sdgs13

東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています