2025年 | プレスリリース?研究成果
なぜM9級カムチャツカ巨大地震は73年で繰り返し発生したのか
【本学研究者情報】
〇災害科学国際研究所陸域地震学?火山学研究分野 教授 遠田晋次
研究室ウェブサイト
【概要】
1952年にマグニチュード(M)9級の超巨大地震が起きたカムチャツカ半島沖で今年7月、再びM9級の地震が発生しました。地震学の常識を覆す発生間隔の短さの謎を解明するため、その破壊過程を精密に解析し、巨大地震が古典的な地震サイクルモデルでは説明が困難な挙動をしていることを示しました。
2025年7月、ロシア?カムチャツカ半島沖でマグニチュード(M)8.8?8.9の超巨大地震が発生しました。この地震は、1952年に起きたM9.0級巨大地震とほぼ同じ場所を再び破壊したにもかかわらず、その発生間隔はわずか73年と異例の短さであり、地震学の常識を大きく揺るがすものでした。
本研究では、筑波大学が独自に開発した「Potency Density Tensor Inversion(PDTI)」という解析手法を用い、2025年カムチャツカ地震の破壊過程を推定しました。
その結果、73年間で蓄積されたすべり遅れ(約6 m)を大きく超える9?12 mの大すべりが広い範囲で発生していたこと、さらに大すべり域の内部で断層すべりが2度加速していたことが明らかになりました。この2度の加速が生じた領域では、地震後にプレート収束方向とは逆向きの低角正断層型の余震が、プレート境界付近に集中して発生していることもわかりました。これは、本震時にオーバーシュート(断層すべりの行き過ぎ)が発生し、断層をずらす力が反転する現象が発生したことを示唆します。これらから本研究チームは、1952年の地震で解消されずに残った古いひずみに、1952年以降のひずみが加わって蓄積され、それが2025年の地震でほぼ解放されたと結論づけました。
本研究は、破壊物理の違いなどにより、巨大地震後に残留するひずみの量には大きな違いが生じ、結果として巨大地震の周期が乱れ、再来間隔が規則的でなくなることを明らかにしました。現実の巨大地震は、古典的な地震サイクルモデルでは説明が難しい複雑な挙動を示すということであり、南海トラフを含む世界の沈み込み帯で実施されている長期地震予測モデルに重大な示唆を与えるものです。
図1 1952年と2025年にカムチャツカ沖で起きた二つのM9級巨大地震が、どれほど似た場所で起きたのかを示した。
余震の分布(a)(b):ピンクの丸はそれぞれの地震の後に起きた余震の震央とその規模を表す。黒枠の星は本震の震央、灰色枠の星はもう一方の地震の震央。1952年と2025年の地震はほぼ同じ長さ約500kmの領域を破壊していたことがわかる。
断層すべり分布(c)(d):どこがどれだけ大きくずれ動いたのか(すべり量)を示した図。1952年のすべり分布は、津波の浸水記録を解析した研究から推定されたもの(MacInnes et al. 2010, BSSA)。赤い部分は9m以上の大きなすべりがあった場所。2025年のモデルは本研究による結果で、こちらでも南西側の広い範囲で9m以上の大すべりが発生していたことが示されている。
沿岸の潮位計の場所と津波記録(e)(f):津波を記録した沿岸の観測点(潮位計)の位置を示した図と、1952年と2025年の津波記録の比較。黒線が1952年、赤線が2025年の津波の波形である。潮汐の影響を取り除いて比較すると、二つの地震は初期の津波波形が非常によく似ていることがわかる。
【論文情報】
題名:Breaking the Cycle: Short Recurrence and Overshoot of an M9-class Kamchatka Earthquake
(巨大地震サイクルの破れ:カムチャツカM9級地震の短い再来間隔とオーバーシュート)
著者名:Y. Yagi, Y. Fukahata, R. Okuwaki, T. Takagawa and S. Toda
掲載誌:Seismica
掲載日:2025年11月30日
DOI:10.26443/seismica.v4i2.2012
問い合わせ先
(報道に関すること)
東北大学災害科学国際研究所 広報室
TEL: 022-752-2049
E-mail: irides-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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