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ひずみ状態が逆でも同じ磁気特性 ―成長誘導磁気異方性が支配する新しい磁性材料作製法を確立―

【本学研究者情報】

〇電気通信研究所 准教授 後藤太一
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 多くの磁気光学デバイスへの応用が期待されているセリウム置換イットリウム鉄ガーネット(Ce:YIG)(注1膜において、基板の結晶構造の特性(格子定数)に依存しない垂直磁気異方性(注2の実現に成功しました。
  • 磁化されやすさの方向の特性である磁気異方性の起源が成長誘導磁気異方性(注3であることを定量的に解明し、その寄与が従来重視されていた弾性磁気異方性を大きく上回ることを実証しました。
  • 本成果により、基板選択の制約を超えた磁気光学材料設計が可能となり、光通信デバイスや次世代磁気デバイスの開発加速が期待されます。

【概要】

磁性ガーネット薄膜、特にセリウム置換イットリウム鉄ガーネット(Ce:YIG)は、優れた磁気光学効果を示すため、情報通信?処理デバイスへの応用が期待されています。これらのデバイスでは、膜面に垂直な磁化配向(垂直磁気異方性)が重要です。従来、Ce:YIG薄膜の垂直磁気異方性は、基板と薄膜の格子定数差によって生じる格子ひずみ(弾性磁気異方性)で制御されると考えられ、基板選択が材料設計の自由度を制約していました。

東北大学、豊橋技術科学大学、信越化学工業株式会社、マサチューセッツ工科大学による国際共同研究グループは、イオンビームスパッタ法を用いて、格子定数の異なる2種類のガーネット基板上にCe:YIG膜を成膜しました。両薄膜は逆符号の格子ひずみ状態にあるにもかかわらず、いずれも明瞭な垂直磁気異方性を示しました。詳細な解析の結果、成長誘導磁気異方性の寄与が弾性磁気異方性の寄与を1桁上回ることが明らかになりました。X線回折測定により、セリウムとイットリウムの原子配列に規則性があることを確認し、これが成長誘導磁気異方性の起源であることを実証しました。

本成果は11月25日(現地時間)、米国化学学会が発行する国際専門誌ACS Applied Optical Materialsに掲載されました。

図1. 基板ひずみの符号が逆でも同じ垂直磁気異方性を実現
(a) Ce:YIG/GGG、(b) Ce:YIG/SGGGの磁化曲線。赤線は面直方向、黒線は面内方向の磁化を示す。Ce:YIG/GGGは面直引張ひずみ(格子ミスマッチ+0.38%)、Ce:YIG/SGGGは面内引張ひずみ(格子ミスマッチ?0.12%)と、逆符号のひずみ状態にあるにもかかわらず、両薄膜ともに明瞭な垂直磁気異方性を示している。これは、磁気異方性が基板ひずみによる弾性磁気異方性ではなく、成長誘導磁気異方性(マグネトタキシャル異方性)によって主に決定されていることを示す決定的な証拠である。飽和磁場は約70 mTで、従来報告値(140~240 mT)よりも大幅に小さく、実用デバイスへの応用に適している。

【用語解説】

注1. セリウム置換イットリウム鉄ガーネット(Ce:YIG):本論文では、Ce0.9Y2.1Fe5O12の化学組成を持つ磁性ガーネット。ガーネット構造(化学式R3Fe5O12)において、希土類Rのサイトの一部をセリウムで置換した材料。セリウムイオンの4f-5d電子遷移により、近赤外領域で大きなファラデー回転角(本研究では1064 nm波長で-1.05°/mm)を示す。光通信用アイソレータ、Qスイッチレーザー、スピントロニクス素子などへの実用化が検討されている。垂直磁気異方性と優れた磁気光学効果を併せ持つことが特徴。

注2. 垂直磁気異方性(PMA):磁性材料において、磁化が薄膜面に垂直な方向を向きやすい性質。磁気異方性エネルギーが正の値を持つとき、垂直磁化が安定となる。微細な磁区構造の形成に必要不可欠な特性であり、磁気光学デバイスや磁気記録デバイスの高性能化に重要。

注3. 成長誘導磁気異方性(マグネトタキシャル異方性):薄膜成長過程において、特定の結晶サイト(本研究では12面体サイト)を占める原子(セリウムとイットリウム)の配列に規則性が生じることで発現する磁気異方性。結晶成長の方向性に依存し、格子ひずみとは独立した異方性寄与を与える。本研究では、この異方性が最大約30 kJ/m3に達し、弾性磁気異方性を大きく上回ることを発見した。

【論文情報】

タイトル:Magnetotaxial Perpendicular Magnetic Anisotropy and Enhanced Faraday Rotation in Ion Beam Sputtered Cerium-Substituted Yttrium Iron Garnet
著者:Taichi Goto*, Takumi Koguchi, Yuki Yoshihara, Hibiki Miyashita, Kanta Mori, Toshiaki Watanabe, Allison C. Kaczmarek, Pang Boey Lim, Mitsuteru Inoue, Caroline A. Ross, Kazushi Ishiyama
*責任著者:東北大学電気通信研究所 准教授 後藤太一
掲載誌:ACS Applied Optical Materials
DOI:10.1021/acsaom.5c00496

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学電気通信研究所
准教授 後藤太一
TEL: 022-217-5489
Email: taichi.goto.a6*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学電気通信研究所総務係
TEL: 022-217-5420
Email: riec-somu*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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