2025年 | プレスリリース?研究成果
ビニグロールの生合成に関与する新しいタイプのテルペン環化酵素の機能を解明 ―実験と理論の協奏により詳細な反応機構を提唱-
【本学研究者情報】
〇薬学研究科医薬資源化学分野 教授 浅井禎吾
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 抗がん剤の元(シード)などとして期待される天然有機化合物、ビニグロールの生合成機構を明らかにしました。
- 新たなタイプのテルペン環化酵素(注1)がビニグロールの骨格を作る仕組みを、実験科学と計算科学の協奏によって詳細に明らかにしました。
【概要】
ビニグロールはジテルペン(注2)と呼ばれる化合物群の一種で、抗腫瘍活性や血小板の凝集抑制など様々な生物活性を示すことから、創薬のシードとして期待されています。また、ビニグロールがもつ化学構造には他の天然有機化合物には見られない特徴があることから注目されてきました。これまでにビニグロールの有機合成が多くの研究グループによって検討されてきましたが、本化合物が生体内で作られる仕組みについてはほとんどわかっていませんでした。
東北大学大学院薬学研究科の浅井禎吾教授の研究グループは、ビニグロールを生産する糸状菌のゲノム配列から、ビニグロールの生合成に必要な3種の遺伝子を見出し、それらの機能を詳細に解析することで、ビニグロールの炭素骨格を構築するテルペン環化酵素VigBの機能を明らかにしました。VigBは、これまでに知られるテルペン合成酵素とは異なる構造をもつ新しいタイプのテルペン合成酵素だと考えられます。研究グループは、東京大学のグループと共同で本酵素によってビニグロールの炭素骨格が作られる仕組みについて計算科学の手法を用いて解析を進め、計算科学により提案された反応経路を実験科学により検証することで、複雑な反応経路の全容を明らかにしました。これにより、ビニグロールの炭素骨格が、様々なジテルペンの骨格に変換可能なユニークな特性をもつことがわかりました。
本研究成果は、合成生物学によるビニグロールの供給や新規ジテルペンの創出につながるものです。
本成果は2025年11月27日付で科学誌Journal of the American Chemical Societyにオンライン掲載されました。
図1. ビニグロールの生合成遺伝子と生合成経路
【用語解説】
注1. テルペン環化酵素:鎖状のゲラニルゲラニル二リン酸などの化合物を環化することで、テルペノイドの炭素骨格をつくる酵素の総称。多段階の環化反応により複雑な環状構造を一挙につくることができるため、様々なテルペン環化酵素の機能解析が盛んに進められている。
注2. ジテルペン:炭素数5のイソプレンを基本単位として作られるテルペノイドのうち、炭素数20(4つのイソプレンに相当する)の化合物の総称。パクリタキセルの他にも有用な化合物が多く知られている。
【論文情報】
タイトル:Vinigrol tricyclic scaffold biosynthesis employs an atypical terpene cyclase and a multipotent cyclization cascade
著者:Kento Tsukada, Fumito Sato, Taro Matsuyama, Ryo Matsuda, Taro Ozaki, Yohei Morishita, Sho Furumura, Yuto Homma, Hikaru Sekiya, Akihiro Sugawara, Masataka Kubota, Takaaki Mitsuhashi, Yoko Yasuno, Tetsuro Shinada, Ryuhei Nagata, Tomohisa Kuzuyama, Tohru Taniguchi, Makoto Fujita, Masanobu Uchiyama and Teigo Asai
*責任著者:東北大学大学院薬学研究科 教授 浅井 禎吾、准教授 尾﨑太郎、東京大学大学院薬学系研究科 教授 内山真伸
掲載誌:Journal of the American Chemical Society
DOI: 10.1021/jacs.5c14400
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
教授 浅井禎吾
TEL:022-795-6822
Email:teigo.asai.c8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
総務係
TEL:022-795-6801
Email:ph-som*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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