2025年 | プレスリリース?研究成果
慢性膵炎で膵がんリスク6倍に -定期的な検査により生存率向上の可能性-
【本学研究者情報】
〇大学院医学系研究科消化器病態学分野 教授 正宗淳
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 慢性膵炎(注1)患者では、一般集団に比べ、がんの発症リスクが約6倍、膵がんは約6.4倍高いことを明らかにしました。
- アルコール関連慢性膵炎(注2)では一般集団に比べ、死亡率の上昇を認めましたが、アルコール非関連例では上昇がみられませんでした。
- 膵がんが慢性膵炎における死亡の最大のリスクですが、定期受診していて診断された患者では生存率が有意に高いことを明らかにしました。
- 本研究は、慢性膵炎患者に対する膵がん検査の重要性を示すものであり、医療現場や診療ガイドラインへの反映が期待されます。
【概要】
慢性膵炎の診療は近年大きく変化していますが、死亡率やがんリスクに関する最新の全国的データは報告がありませんでした。
本研究では、東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野の松本 諒太郎非常勤講師、菊田 和宏非常勤講師、正宗 淳教授らが主導した全国28施設が参加する多機関共同研究により、慢性膵炎患者の長期予後を明らかにしました。
2011年に治療を受けた1,110例を対象に解析した結果、慢性膵炎患者ではがんの発生率が一般集団の約1.6倍、膵がんは約6.4倍高いことが示されました。一般集団に比べ、アルコール関連慢性膵炎では死亡率が上昇していた一方で、アルコール非関連例では上昇がみられませんでした。また、定期的な検査を受けていて膵がんが診断された患者では、膵がん診断後の生存率が有意に高いことが明らかになりました。
本研究成果は、慢性膵炎患者に対する膵がんの定期的検査の重要性を示すものであり、医療現場や診療ガイドラインへの反映が期待されます。
本研究成果は、2025年11月18日にJournal of Gastroenterology誌に掲載されました。
図1. 膵がん診断前の定期検査頻度と膵がん診断後の全生存率
膵がん診断前に"3か月に1回以上"の頻度で定期検査を受けていた患者では、定期検査の頻度がそれより少ない慢性膵炎患者に比べ、膵がん診断後の全生存率が有意に高かった。
【用語解説】
注1.慢性膵炎:膵臓に長期間炎症が持続し、その結果として膵臓の機能が徐々に低下していく病気です。難治性の上腹部痛や背部痛を生じることが多く、病気が進行すると膵臓の機能は元に戻らなくなります。そのため、食べ物を消化?吸収する働き(膵外分泌機能)の低下や、糖尿病の発症(膵内分泌機能の低下)につながります。
注2.アルコール関連慢性膵炎:長期間にわたり大量の飲酒を続けることで生じる慢性膵炎です。日本では慢性膵炎の原因の約7割を占めており、最も頻度の高い成因です。飲酒量が多いほど発症リスクが高まることが知られています。
【論文情報】
タイトル:Mortality and Cancer Risk in Patients with Chronic Pancreatitis in Japan: Insights into the Importance of Surveillance for Pancreatic Cancer
著者: Ryotaro Matsumoto, Kazuhiro Kikuta, Tetsuya Takikawa, Yousuke Nakai, Mamoru Takenaka, Kentaro Oki, Eizaburo Ohno, Ken Ito, Nao Fujimori, Akio Katanuma, Atsuhiro Masuda, Yasuki Hori, Tsukasa Ikeura, Rei Suzuki, Satoshi Yamamoto, Yoshio Sogame, Hiroki Kawashima, Tetsuhide Ito, Kosuke Okuwaki, Takao Itoi, Yukiko Takayama, Akira Nakamura, Shuji Terai, Kazuyuki Matsumoto, Masaki Kuwatani, Masashi Kishiwada, Minoru Shigekawa, Tomoaki Matsumori, Osamu Inatomi, Waku Hatta, Atsushi Irisawa, Michiaki Unno, Yoshifumi Takeyama and Atsushi Masamune*; Japan Pancreatitis Study Group for Chronic Pancreatitis
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野 教授 正宗淳
掲載誌:Journal of Gastroenterology
DOI:10.1007/s00535-025-02321-0
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科
消化器病態学分野
教授 正宗 淳(まさむね あつし)
TEL: 022-717-7171
Email: atsushi.masamune.d2*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科?医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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