2025年 | プレスリリース?研究成果
銀ナノクラスターにおける「1原子の違い」で室温発光効率が77倍向上 高効率発光材料の開発に道
【本学研究者情報】
〇多元物質科学研究所 教授 根岸雄一
多元物質科学研究所 助教 Sourav Biswas
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 高核数銀ナノクラスター(Ag NC)の合成に成功し、その精緻な構造を解明しました。
- 骨格はほぼ同一であるにもかかわらず、外殻の銀原子が1つ多いだけで、室温における発光量子収率(PL QY)(注1)が77倍向上することを発見しました。
- この効率向上は、1原子の違いにより生じた対称性低下が放射失活(注2)を促進するとともに、それと並行して生じたリガンド環境の変化が非放射失活(注3)を抑制した結果であることが明らかになりました。
【概要】
銀ナノクラスター(Ag NC)は原子レベルで構造が決定されたナノ物質であり、量子化された電子状態に起因する独自の光学特性を示します。特に発光特性(フォトルミネッセンス、PL)は、センサーや光デバイス応用への展開が期待されますが、室温での発光効率が低いことが大きな課題となっていました。
東北大学 多元物質科学研究所の根岸雄一 教授、Biswas Sourav 助教、自然科学研究機構 計算科学研究センター/総合研究大学院大学の江原正博 教授、東京理科大学 理学部第一部の湯浅順平教授らの研究グループは、アニオン鋳型合成法(注4)を用いて、原子数78と79の2種類の高核数Ag NC(Ag78およびAg79)の合成に成功しました。両者はほぼ同一の骨格を持つにもかかわらず、外殻に銀原子が1つ多いAg79は、Ag78に比べて室温での発光量子収率が77倍に達することを明らかにしました。
この発光効率の劇的な向上は、対称性の低下による放射遷移の強化と、リガンド環境の変化による構造揺らぎの抑制という2つの効果が同時に作用した結果であることが、実験と理論計算の両面から示されました。
本成果は、「わずか1原子の違いが発光特性を大きく変える」という新たな知見を提示し、高効率発光材料や光デバイス設計に向けた重要な指針を提供するものです。
本研究成果は、2025年9月30日公開の学術誌 Journal of the American Chemical Society に掲載されました。

図1.(a)Ag78と(b)Ag79の構造比較。Ag78では外殻に60個のAg原子があり、C3対称性を形成。Ag79では外殻に61個のAg原子があり、C3対称性が崩壊。
【用語解説】
注1. 発光量子収率(PL QY):吸収した光に対して、発光として放出される光の割合。値が高いほど効率的に光る。
注2. 放射失活:光励起状態から光子を放出して基底状態に戻る過程。
注3. 非放射失活:励起エネルギーが熱や振動として失われ、光として放出されない過程。
注4. アニオン鋳型合成法:特定の陰イオンを鋳型として利用し、その周囲に金属原子を組織的に配置させてクラスターを形成する手法。
【論文情報】
タイトル:Triggering Photoluminescence in High-Nuclear Silver Nanoclusters via Extra Silver Atom Incorporation
著者:秋山葵, 1 Sakiat Hossain,2 Sourav Biswas,*3 Takafumi Shiraogawa,4 Pei Zhao,4 中本真奈,1 緒方大二,1 川脇徳久,3 新堀佳紀,2 湯浅順平,1 江原正博,*4 根岸雄一*1-3(1. 東京理科大学理学部第一部、2. 東京理科大学研究推進機構総合研究院、3. 東北大学多元物質科学研究所、4. 自然科学研究機構計算科学研究センター)
*責任著者:東北大学 多元物質科学研究所 教授 根岸雄一
東北大学 多元物質科学研究所 助教 Sourav Biswas
自然科学研究機構計算科学研究センター/総合研究大学院大学 教授 江原正博
掲載誌:Journal of the American Chemical Society
DOI:10.1021/jacs.5c10289
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
教授 根岸雄一
TEL: 022-217-5604
Email: yuichi.negishi.a8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
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Email: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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