2025年 | プレスリリース?研究成果
人工神経ネットワークを超低消費電力で実現 ?超省電力の対話型人工知能実現に期待?
【本学研究者情報】
〇電気通信研究所 特任助教 守谷哲
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 人の脳のように動作する「スパイキングニューラルネットワーク(注1)」を、アナログCMOS回路(注2)で実現しました。
- 音声を聞き分ける処理に必要な電力は、スマートフォンの約100万分の1と極めて小さく、微弱なエネルギーでも十分に動作します。
- 本成果は将来的に、電池が不要なウェアラブル音声認識デバイスや、超省電力の対話型インターフェースなど、エネルギー制約の厳しい環境下でも動作する人工知能(AI)チップの実現につながることが期待されます。
【概要】
生物の脳神経ネットワークに着想を得たスパイキングニューラルネットワーク(SNN)は、情報を発火信号(スパイク)の時系列として表現します。スパイクが発生していないときには情報処理が行われない特性(イベントドリブン性)を持つため、消費電力を極限まで抑えることができます。この特性は、限られた電力で高度な情報処理を実行する必要のあるエッジコンピューティング(注3)において特に有効です。
東北大学電気通信研究所の守谷哲特任助教と佐藤茂雄教授らの研究グループは、サブスレッショルド領域(注4)で動作するアナログCMOS回路を用いることで、SNNの動作をスマホの100万分の1という超低消費電力で実現しました。ニューロン回路のスパイクあたりのエネルギー消費は22.7 フェムトジュール(fJ :フェムトは1000兆分の1)で、デジタル回路を用いた従来のSNN実装と比較して 2 ~ 3 桁低い消費電力です。また、リザバー計算(注5)の枠組みを用いることで、本回路が音声信号認識課題に応用できることを示しました。更に、アナログ回路の応用上特に問題となる製造ばらつきや温度変化を許容した情報処理が可能であることを示しました。
本成果は2025年3月24日に科学誌IEEE Transactions on Circuits and Systems I: Regular Papers に掲載されました。

図1. アナログスパイキングニューロン回路(左)とアナログスパイキングニューラルネットワーク回路(右)の顕微鏡写真。Rohm 0.18 ?mプロセスを用いて設計?製作した。
【用語解説】
注1. スパイキングニューラルネットワーク 生物の神経細胞の発火を模倣し、神経細胞の内部状態である膜電位が一定のしきい値を超えたときのみスパイクを発生?伝送することで情報表現?情報処理を行う。
注2. アナログCMOS (Complementary Metal Oxide Semiconductor:相補型金属酸化膜半導体)回路 電子が抜けた孔(ホール)が電気を運ぶp型と電子が運ぶn型の電界効果型MOSトランジスタを相補的に利用し、連続的に変化する電気信号を取り扱う回路方式。
注3. エッジコンピューティング 従来はデータセンタやクラウドで行っていた処理を、データを収集する端末(エッジ)や端末の近くに配置したコンピュータなど、データの発生源の近くで処理すること。
注4. サブスレッショルド領域 MOSトランジスタのゲート電圧がしきい値電圧以下の領域のこと。電流がゲート電圧に対し指数関数的に変化する。
注5. リザバー計算 時系列信号処理に適したニューラルネットワークの一種。少ないデータ量で学習が可能で、また学習のコストが低いという特徴をもつ。
【論文情報】
タイトル:Analog VLSI implementation of subthreshold spiking neural networks and its application to reservoir computing
著者: Satoshi Moriya*, Masaya Ishikawa, Satoshi Ono, Hideaki Yamamoto, Yasushi Yuminaka, Yoshihiko Horio, Jordi Madrenas, and Shigeo Sato
*責任著者:東北大学電気通信研究所 特任助教 守谷哲
掲載誌: IEEE Transactions on Circuits and Systems I: Regular Papers
DOI:10.1109/TCSI.2025.3550876
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学電気通信研究所
特任助教 守谷哲
TEL: 022-217-6102
Email: satoshi.moriya.e6*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学電気通信研究所
総務係
TEL: 022-217-5420
Email: riec-somu*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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