2025年 | プレスリリース?研究成果
反強磁性準結晶の存在を初めて明らかに! ~周期を持たない長距離反強磁性秩序を発見~
【本学研究者情報】
〇多元物質科学研究所 教授 佐藤卓
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- これまで、長距離反強磁性秩序を有する準結晶の存在自体が疑問視されており、長年解明されていない謎となっていました。
- 本研究では、正二十面体準結晶Au56In5Eu15.5が反強磁性を示すことを実証しました。
- 本研究成果は、準周期的磁気秩序の本質的な特性を明らかにするだけでなく、その特異な磁気応答を利用した、スピントロニクス分野における革新的な応用研究への波及が期待されます。
【概要】
東京理科大学 先進工学部 マテリアル創成工学科の田村 隆治教授、同大学大学院 先進工学研究科 マテリアル創成工学専攻の阿部 宇希氏(2024年度 修士課程2年)、東北大学 多元物質科学研究所の佐藤 卓教授、Australian Nuclear Science and Technology Organisation (ANSTO)のMaxim Avdeev教授らの共同研究グループは、正二十面体準結晶Au56In28.5Eu15.5が反強磁性を示すことを実証しました。
準結晶内では原子が規則的に配列した構造を形成していますが、その配列には周期性がないことが特徴です。1984年に準結晶が発見されて以来、準結晶における長距離磁気秩序の報告はまったくありませんでした。2021年には、本研究グループが強磁性準結晶の合成に成功し、世界に大きな影響を与えました。しかし、反強磁性準結晶については、理論的にもその存在が可能か否か不明であり、長年の謎となっていました。そこで、本研究グループは反強磁性準結晶の存在を明らかにすべく、約半世紀にわたる難題に挑戦しました。
本研究では、粉末X線解析(*1)によりAu56In28.5Eu15.5がTsai型の正二十面体準結晶であることを明らかにしました。また、Au56In28.5Eu15.5の磁化測定の結果、ネール温度(*2)6.5K(読み方はケルビン、6.5Kはマイナス266.65℃)で鋭いカスプ(極大)が観察され、ネール温度以下ではメタ磁性転移(*3)が見られたことから、反強磁性転移が生じていることが示唆されました。さらに、粉末中性子回折により、ネール温度以下で磁気ブラッグ反射(*4)が観察され、反強磁性秩序の存在が立証されました。本研究成果は、物性物理学において反強磁性準結晶という新たな研究分野を切り拓く重要な成果となります。
本研究成果は、2025年4月14日に国際学術誌「Nature Physics」にオンライン掲載されました。

【用語解説】
*1: 粉末X線解析
粉末状の試料にX線を照射し、その回折パターンを解析することで、物質の構造を調べる手法。
*2: ネール温度
反強磁性体が常磁性に転移する温度。
*3: メタ磁性転移
試料に磁場を印加すると、ある磁場で急激に磁化が増大する現象で、反強磁性体でよく見られる。
*4: 磁気ブラッグ反射
結晶内の原子が持つ磁気モーメントが規則正しく配列している場合に発生する。X線や中性子線などが結晶に照射されたとき、結晶内の原子の配置に加えて、原子の磁気モーメントが影響を与えることによって起こる。
【論文情報】
雑誌名:Nature Physics
論文タイトル:Observation of antiferromagnetic order in a quasicrystal
著者:R. Tamura, T. Abe, S. Yoshida, Y. Shimozaki, S. Suzuki, A. Ishikawa, F. Labib, M. Avdeev, K. Kinjo, K. Nawa, T. J.Sato
DOI:10.1038/s41567-025-02858-0
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所
教授 佐藤 卓(さとう たく)
TEL:022-217-5348
E-mail:taku.j.sato.d4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
Email:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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