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完全大気圧下での軟X線光電子分光測定に成功 ――基礎化学の解明から触媒や燃料電池の開発へ――

【本学研究者情報】

〇国際放射光イノベーション?スマート研究センター
兼務:多元物質科学研究所 准教授 山本 達
研究所ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 大気圧下での固/気界面の化学状態を直接分析することができる軟X線光電子分光装置の開発に世界で初めて成功しました。
  • 完全大気圧下での測定は歴史的に不可能とされてきましたが、3 GeV高輝度放射光NanoTerasuの高輝度な軟X線ビームによって実現することができました。
  • 本装置は触媒や燃料電池の機構の解明や材料の開発などに大きく貢献できます。

【概要】

東京大学の松田巌教授(兼:東北大学客員教授)は同大学大学院生和田哲弥氏と堀尾眞史助教らと東北大学山本達准教授と共同で、世界で初めて軟X線(注1)を用いた大気圧下光電子分光測定(注2)にNanoTerasu(注3)にて成功しました。

本来、軟X線と電子は真空中でしか存在できないため、大気圧下での光電子分光測定は不可能でした。しかし、現実に起きている反応や現象の多くは空気中など大気圧下であるため、実際の現象解明には大気圧下での測定が求められていました。そこで本研究では真空パイプから構成された軟X線導入路を用意してガス雰囲気下で軟X線が減衰し切る前に試料に照射できるようにしました。さらに電子分析器を大気圧測定まで耐えられるように改造し、また試料との距離を60μm以下に近づけることで、十分な電子の信号を検出可能にしました。その結果、図1のように1気圧の水素ガス下での軟X線光電子分光測定を実現しました。本装置は大気圧下での固/気界面の化学状態を直接分析することができるため、触媒などの開発に大きく役立つことが期待されます。

本成果は、日本応用物理学会のレター誌「Applied Physics Express」の3月26日付(現地時間)オンライン版に掲載されました。

NanoTerasuに設置された、世界初の大気圧下軟X線光電子分光装置

【用語解説】

(注1)軟X線
X線の中で光エネルギーが小さい(波長が長い)もので、範囲は100 ? 2000 eV (12.4 ? 0.62 nm)です。気体分子の吸収が大きく、一般的に真空条件下で用います。

(注2)光電子分光測定
高いエネルギーの光を固体(表面)に照射すると電子が放出され、「光電効果」と呼ばれます。この電子のエネルギー位置から元素および化学種(酸化数など)を特定することができ、さらに電子の量から各成分を定量的に分析することができます。

(注3)3GeV 高輝度放射光施設NanoTerasu
東北大学青葉山新キャンパス内にある国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)と一般財団法人光科学イノベーションセンター(PhoSIC)を代表機関とする放射光施設です。太陽光の約10 億倍の明るさを持つX 線を生成して物質に照射し、様々な物質の内部構造を詳細に観察できます。

【論文情報】

タイトル:Soft X-ray photoelectron spectroscopy under real ambient pressure conditions(完全大気圧下での軟X線光電子分光測定)
著者:Tetsuya Wada, Masafumi Horio, Yifu Liu, Yu Murano, Haruto Sakurai, Toshihide Sumi, Masashige Miyamoto, Susumu Yamamoto, and Iwao Matsuda*
*責任著者:東京大学物性研究所 教授 松田巌
DOI:10.35848/1882-0786/adbda8

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学国際放射光イノベーション?スマート研究センター
准教授 山本 達
TEL:022-752-2343
Email: susumu*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学国際放射光イノベーション?スマート研究センター
総務係
TEL:022-752-2331
Email:sris-soumu*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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