2025年 | プレスリリース?研究成果
次世代太陽電池用SnS薄膜の最適組成を解明 ─蒸発しやすいSを補う精密な成膜技術で実証─
【本学研究者情報】
〇多元物質科学研究所 講師 鈴木一誓
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 硫化スズ(SnS)薄膜太陽電池の性能を左右するSnS薄膜の電気的性質と膜質に、スズと硫黄の比率(組成(注1))が及ぼす影響を解明しました。
- スズに対して硫黄が不足してもキャリア密度(注2)はほぼ一定値を保ち、硫黄がスズを超えるとキャリア密度が急激に上昇することを発見しました。
- 電気の流れやすさの指標である正孔(電子の空いた孔)の移動度(注3)はスズと硫黄の比率である化学量論組成(注4)の1:1で最大値となりました。
- スズと硫黄の比率を1:1にすることが、太陽電池に適した電気的特性だけでなく、緻密な高品質薄膜の実現に重要であることを明らかにしました。
【概要】
硫化スズ(SnS)は、地球上に豊富に存在し、毒性もないスズと硫黄から構成される半導体として、次世代の薄膜太陽電池や熱電変換素子(注5)への応用が期待されています。しかしSnSを薄膜化する際には、スズと硫黄の比率(組成)が化学式の1:1からわずかにずれることがあります。一般的に、組成のずれは小さい方が望ましいと言われていますが、組成ずれが薄膜にどのような影響を及ぼすかは十分に解明されていませんでした。
東北大学 多元物質科学研究所の鈴木一誓講師と、同大学大学院 環境科学研究科 先進社会環境学専攻の野上大一大学院生らの研究グループは、SnS薄膜の組成を精密に制御する手法を開発し、組成ずれが電気的特性や膜質に大きな影響を与えることを実験的に明らかにしました。また、化学量論組成1:1となる薄膜を実現することが、太陽電池に適した優れた電気的特性と緻密な膜質を実現する鍵であることを発見しました。本成果は次世代のエネルギー変換デバイスにおけるSnSの実用化に向けた重要な知見となります。
本研究成果は、米国物理学協会が発行する材料科学分野の学術誌APL Materials に、2025年3月21日付けで掲載されました。

図1. 本研究で用いた「硫黄プラズマ援用スパッタリング法」の模式図。
(a) 装置の全体像と、(b) 硫黄プラズマ供給装置の内部の様子。
【用語解説】
注1. 組成
化合物を構成する元素種とその量の割合のこと。
注2. キャリア密度
物質中を移動する電荷キャリア(電子や正孔)の数を示す。キャリア密度が高いと電流が流れやすい。
注3. 移動度
キャリアが電場の影響を受けて移動する速さを示す指標である。移動度が高いほど電荷がスムーズに移動できるため一般的にデバイスの性能が向上する。
注4. 化学量論組成
多くの物質では構成元素の原子数の比が単純な整数比となる。たとえば、硫化スズであれば、Sn:S = 1:1である。このような整数比は、化学量論組成(ストイキオメトリ)と呼ばれる。実際に材料を合成する際には、この化学量論組成からの微妙なずれが発生する。
注5. 熱電変換素子
熱エネルギーを直接電気エネルギーに変換する素子。温度差を用いて電力を得ることができる。SnSは環境に優しい熱電材料として期待されている。
【論文情報】
タイトル:Non-stoichiometry in SnS: How it affects thin-film morphology and electrical properties
著者: Taichi Nogami, Issei Suzuki*, Daiki Motai, Hiroshi Tanimura, Tetsu Ichitsubo, Takahisa Omata
*責任著者:東北大学多元物質科学研究所 講師 鈴木一誓
掲載誌:APL Materials
DOI:10.1063/5.0248310
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所
講師 鈴木 一誓(すずき いっせい)
TEL: 022-217-5215
Email: issei.suzuki*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
Email: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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