2025年 | プレスリリース?研究成果
N?O?ガスの作用機序を光るシロイヌナズナで解明 ?プラズマによるオンサイトガス合成技術とのタッグで循環型農業へ?
【本学研究者情報】
〇大学院工学研究科電子工学専攻 助教 佐々木渉太
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 細胞活動で重要なカルシウムイオン(Ca2+)(注1)のバイオセンサー(GCaMP)(注2)遺伝子を組み込んだ「光る」シロイヌナズナを用いて、N2O5(五酸化二窒素)ガス(注3)にさらされること(暴露)で誘導されるCa2+シグナルを可視化することに成功しました。
- N2O5ガスの暴露部位からカルシウムイオン(Ca2+)シグナルが発生し、時間とともに伝搬していくことが確認されました。
- N2O5ガスに直接暴露されていない葉においても防御関連遺伝子の発現がみられたことから、部分的な処理であっても植物病害を抑制できる可能性が見出されました。
【概要】
無水硝酸とも呼ばれるN2O5は、殺菌、治療、医薬品合成、材料合成への活用など、多くの可能性を秘めた窒素化合物です。東北大学大学院工学研究科?非平衡プラズマ学際研究センターの佐々木渉太助教、髙島圭介助教(研究当時)、金子俊郎教授は、これまでの研究で、空気のみを原料としてN2O5を選択的にオンサイト合成するプラズマ装置の開発に成功し、N2O5ガスをさまざまな植物に暴露する実験で、免疫が活性化すること、有用な二次代謝産物(注4)の合成を誘導すること、N2O5ガス自体が気体窒素肥料として機能することなどを明らかにしてきました。ただし、なぜこのような植物応答がN2O5ガスによって引き起こされるのかはよくわかっていませんでした。
今回、金子教授らは、同大大学院生命科学研究科の東谷篤志教授、埼玉大学大学院理工学研究科の豊田正嗣教授とともに、植物はN2O5ガスに暴露されると、Ca2+シグナリング経路が活性化し、その情報を全身に伝える機構を有していることを明らかにしました。これは、先行して見出されたN2O5の様々な有用効果のメカニズムの解明につながる成果です。
本成果は科学誌PLOS ONEに2025年2月6日付けで掲載されました。

図1. 1枚の葉のみにN2O5ガスを暴露した際に生じるCa2+シグナル伝搬。
【用語解説】
注1.カルシウムイオン(Ca2+):細胞内で遊離しているカルシウムイオンは、筋肉の収縮や神経活動をはじめとして、ほぼ全ての細胞活動に関与しています。一般的に、細胞内のCa2+濃度は、細胞外よりも1万倍程度低く保たれており、細胞内Ca2+濃度の変化は、次の生体反応を引き起こすスイッチとして機能したり、情報伝達の役割を担うことが知られています。
注2.バイオセンサー(GCaMP):緑色蛍光タンパク質(GFP)に、Ca2+を結合するドメイン(領域)を融合したタンパク質。細胞内Ca2+と結合すると明るく緑色に光ります。
注3.N2O5(五酸化二窒素)ガス:酸素?窒素原子のみから構成される分子であり、無水硝酸とも呼ばれます。水と反応して硝酸(HNO3)を生じる過程で、非常に反応性が高いニトロニウムイオン(NO2+)を一時的に生じます。熱や水分に弱く保管が困難であることから、入手が難しくこれまでは広く使用されてきませんでした。
【論文情報】
タイトル:Induction of systemic resistance through calcium signaling in Arabidopsis exposed to air plasma-generated dinitrogen pentoxide
著者:Shota Sasaki#,*, Hiroto Iwamoto#, Keisuke Takashima, Masatsugu Toyota, Atsushi Higashitani*, Toshiro Kaneko* #Equally contribution
*責任著者:東北大学 大学院工学研究科 助教 佐々木 渉太
東北大学 大学院工学研究科 教授 金子 俊郎
東北大学 大学院生命科学研究科 教授 東谷 篤志
掲載誌:PLOS ONE
DOI:10.1371/journal.pone.0318757
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学 大学院工学研究科
助教 佐々木 渉太
教授 金子 俊郎
TEL: 022-795-7046
Email: s.sasaki*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学 大学院工学研究科
情報広報室 担当 沼澤 みどり
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Email: eng-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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