2025年 | プレスリリース?研究成果
わずか4時間で寿命下限の世界最高感度更新! 高分散赤外線分光技術によるダークマター探索実験に成功
【発表のポイント】
- 高分解能を持つ赤外線分光器による観測実験が、電子ボルト(eV)領域のダークマター探索に極めて適していることが理論的に提案されている。
- 本研究では、矮小楕円体銀河Leo VおよびTucana IIの中心付近をたった合計4時間弱の観測により、ダークマターが崩壊して光子を放出する場合の寿命に、従来研究を上回る厳しい下限値を与えることに成功した。
- 今後のダークマター探索研究の新たな可能性を実証的に示し、天文観測と素粒子理論の橋渡しをした。
【概要】
ダークマターは宇宙の質量の大部分を占めているにもかかわらず、その正体はいまだ明らかになっていない。東京都立大学大学院理学研究科の殷文准教授(2024年3月まで東北大助教)、東京大学大学院理学系研究科の松永 典之助教ら、京都産業大学の大坪 翔悟研究員ら、国立天文台の谷口大輔学振研究員ら、株式会社フォトクロスの池田優二代表取締役らの共同研究グループは、南米チリ?ラスカンパナス天文台で米国カーネギー天文台などが運用するマゼラン望遠鏡(口径6.5m)に搭載されている近赤外線高分散分光器WINEREDを用いて、約1.8~2.7電子ボルト(eV)の質量領域(電子の質量の約1/200000)でダークマターが崩壊した際に放出する 近赤外線光子の検出実験を世界で初めて実施した。その結果、わずか 4時間弱の観測で、 世界最高感度でダークマターの寿命の下限の推定に成功した。
本成果が2025年2月7日(現地時間)にPhysical Review Letters誌に掲載された。本研究は、これまで技術的に困難とされてきたeVスケールのダークマター探索に新たな道を切り開いた。この成果により、天文学、宇宙物理学、素粒子物理学の交差する未解決問題『ダークマターの正体解明』への大きな一歩を示した。

図 1 高分解能赤外線分光器がダークマター探索で役立つ仕組み。ほとんどの光は分光され暗く見えるが、ダークマター由来の光はその影響を受けないため、検出が容易になる。(? 殷文)
【論文情報】
タイトル:First Result for Dark Matter Search by WINERED
著者: Wen Yin, Taiki Bessho, Yuji Ikeda, Hitomi Kobayashi, Daisuke Taniguchi, Hiroaki Sameshima, Noriyuki Matsunaga, Shogo Otsubo, Yuki Sarugaku, Tomomi Takeuchi, Haruki Kato, Satoshi Hamano, and Hideyo Kawakita
掲載誌:Physical Review Letters
DOI: 10.1103/PhysRevLett.134.051004
問い合わせ先
東北大学大学院理学研究科
広報?アウトリーチ支援室
TEL:022-795-6708
Email:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)