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遺伝性がんのゲノム解析結果を一般住民に返却 個別化ゲノム予防?医療の社会実装に向けた大きな一歩

【本学研究者情報】

〇東北メディカル?メガバンク機構 遺伝情報回付推進室長 教授 大根田 絹子
東北メディカル?メガバンク機構ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 東北メディカル?メガバンク(TMM)計画(注1)で取得した5万人のゲノム情報をもとに、遺伝性がん(遺伝性乳がん卵巣がん症候群:HBOC(注2)とリンチ症候群:LS(注3))のリスク保有者97人にゲノム解析結果を返却しました。
  • がんの予防や早期発見のため78人が医療機関を受診し、6人がHBOCのリスク低減手術を受け、3人にがんが無症状の段階で見つかりました。遺伝性がんのリスクを知ったことにより不安やストレスが増加した人はごくわずかでした。医療費や通院の負担などを理由に19人が医療機関受診を希望しませんでした。
  • 一般住民を対象とした研究でこれだけ大規模にゲノム解析結果の返却を実施したのは日本では初めてであり、個別化予防?医療につながる先駆的な取り組みです。一人ひとりがゲノム解析結果を知り、自身のヘルスケアに活用する未来を実現するための大きな一歩となります。

【概要】

ゲノム情報に基づく個別化予防?医療の実現が求められています。しかし、ゲノム情報の解析結果を一般住民に返却する取り組みは世界的にもほとんど行われてきませんでした。今回、東北大学東北メディカル?メガバンク機構ゲノム予防医学分野の大根田絹子教授らは、TMM計画で解析した約5万人の全ゲノム解析情報(注4)をもとに、遺伝性がんのリスクを保有する97人を対象に、ゲノム解析結果を個別に返却した上で、ゲノム情報を知った一般住民の意識や行動に関する調査を実施しました。返却した人のうち78人が、がんの予防や早期発見のために医療機関を受診しました。ゲノム情報を知ったことによって不安やストレスが増加する傾向は見られませんでした。19人は医療費や通院の負担などを理由に医療機関の受診を希望しませんでした。

本研究では、研究のために取得したゲノム情報を一般住民に返却し、病気の予防や早期発見につなげるプロトコルを構築しました。本研究は、個別化ゲノム予防?医療の社会実装に向けた大きな一歩です。

本成果は科学誌Journal of Human Genetics誌電子版に1月17日付で掲載されました。

図1. ゲノム解析結果返却プロトコルと参加人数
バイオバンクに試料を提供し全ゲノム解析が行われた一般住民(青)のうち、遺伝性がんの病的バリアント保有者に希望調査や対面での説明(紫)により解析結果を返却した。その後参加者の一部は医療機関(黄)で予防や早期発見のための検査を実施している。

【用語解説】

注1. 東北メディカル?メガバンク(TMM)計画:日本最大の一般住民ゲノム?コホート調査を実施しており、次世代医療の実現に貢献するため、個人のゲノム情報に紐づく多様なデータから複合バイオバンクを構築し、長期追跡している。

注2. 遺伝性乳がん卵巣がん症候群(hereditary breast and ovarian cancer : HBOC):BRCA1またはBRCA2遺伝子に病的バリアントを持つことで、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がんなどに罹りやすくなる病態。HBOCの病的バリアント保有者には、リスク低減手術として、がんに罹患していない乳房を予防的に切除する対側リスク低減乳房切除術(Contralateral risk reducing mastectomy; CRRM)や、卵巣?卵管を切除するリスク低減卵巣?卵管切除術(risk reducing salpingo-oophorectomy:RRSO)が行われる場合もある。2020年4月から、乳がんや卵巣がんを発症したHBOCの診療の一部が保険収載された。

注3. リンチ症候群(Lynch Syndrome: LS):ミスマッチ修復遺伝子とよばれる4つの遺伝子(MLH1, MSH2, MSH6, PMS2)のいずれかに病的バリアントを持ち、大腸がんや子宮体がんなどに罹りやすくなる病態。

注4. 全ゲノム解析情報:ゲノムの塩基配列情報を非遺伝子部分も含めて可能な限りすべて解析した情報。

【論文情報】

タイトル:Returning genetic risk information for hereditary cancers to participants in a population-based cohort study in Japan(日本における一般住民コホート参加者を対象とした遺伝性がんの遺伝的リスク返却)
著者:Kinuko Ohneda, Yoichi Suzuki, Yohei Hamanaka, Shu Tadaka, Muneaki Shimada, Junko Hasegawa-Minato, Masanobu Takahashi, Nobuo Fuse, Fuji Nagami, Hiroshi Kawame, Tomoko Kobayashi, Yumi Yamaguchi-Kabata, Kengo Kinoshita, Tomohiro Nakamura, Soichi Ogishima, Kazuki Kumada, Hisaaki Kudo, Shin-ichi Kuriyama, Yoko Izumi, Ritsuko Shimizu, Mikako Tochigi, Tokiwa Motonari, Hideki Tokunaga, Atsuo Kikuchi, Atsushi Masamune, Yoko Aoki, Chikashi Ishioka, Takanori Ishida, Masayuki Yamamoto
*責任著者:東北大学東北メディカル?メガバンク機構 教授 大根田絹子、東北大学東北メディカル?メガバンク機構 教授 山本雅之
掲載誌:Journal of Human Genetics
DOI:10.1038/s10038-024-01314-w

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)

東北大学東北メディカル?メガバンク機構
遺伝情報回付推進室長
教授 大根田絹子(おおねだ きぬこ)
TEL: 022-274-5990
Email: kinuko.ohneda.a6*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学東北メディカル?メガバンク機構
広報戦略室長
教授 長神風二(ながみ ふうじ)
TEL: 022-717-7908
Email: tommo-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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