2025年 | プレスリリース?研究成果
電子スピンで高速?省電力で制御可能な光メモリの性能を実証 ─光情報の長期記憶を活かした高度情報処理に期待─
【本学研究者情報】
〇電気通信研究所 准教授 横田信英
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 面発光レーザ(注1)内部の電子のスピンを歳差運動(注2)させ、出力光の偏光状態を調べました。
- 互いに直交する2つの安定な偏光状態をもつ偏光双安定性(注3)の出現条件を歳差運動の周波数によって制御できることを発見しました。
- 光情報の長期記憶を獲得した新原理のフォトニックコンピューティング(注4)により、高度情報処理の大規模化などが期待されます。
【概要】
高速な光を情報処理に活用するフォトニックコンピューティングにおいて、光情報の長期記憶(光メモリ)が実現できれば、情報処理のさらなる大規模化が実現する可能性があります。そのため、偏光双安定性の高速制御が可能な光メモリの一種である面発光レーザの利用が期待されています。しかし、面発光レーザは特定の駆動条件(電流、温度など)において偏光双安定性が得られるかどうかはレーザの材料や構造に依存し、その最適化が難しいという問題がありました。
東北大学電気通信研究所の横田信英准教授と八坂洋教授、産業技術総合研究所プラットフォームフォトニクス研究センターフォトニクスシステム研究チームの池田和浩研究チーム長と新原理コンピューティング研究センタースピン機能材料チームの揖場聡主任研究員、大分大学理工学部の片山健夫准教授は、面発光レーザ内部の電子スピンの歳差運動周波数を制御することで偏光双安定性の出現条件が制御でき、これを利用した新しい偏光スイッチング動作が可能であることを実証しました。歳差運動の制御に限らず、電子スピンの電気的制御技術は近年発展しており、光メモリにスピンデバイスの技術を融合した新技術の発展が幅広く期待されます。
本成果は、米国物理学協会が発行する学術論文誌 APL Photonics に2025年1月17日にFeatured Article*としてオンライン掲載されました。
*編集委員会により特に重要性が高いと評価された論文
図1. 面発光レーザの偏光双安定性とその制御の概念図。面発光レーザの内部ではスピンと光が選択則を介して相互作用し、その結果が出力光の偏光状態に影響を与える。本研究では、スピンノイズの歳差運動によって相互作用を制御することにより、出力光の偏光状態を制御することに成功した。
【用語解説】
注1. 面発光レーザ:半導体レーザの一種であり、基板に対して垂直方向に光を出射する。レーザ構造の異方性が小さいため偏光双安定性を発現しやすい。
注2. 歳差運動:コマのように自転する物体の回転軸が円を描くように変化する現象。電子のスピンは磁場の方向を軸とした回転を生じる。
注3. 偏光双安定性:半導体レーザから出力される光は、振動の向きが固定された直線偏光となる。2つの異なる直線偏光の向きを安定に保つ性質を偏光双安定性と言う。面発光レーザは向きの決まった直線偏光を出力し、向きを90 度回転した直線偏光にスイッチできる。一度スイッチするとその偏光状態を安定に保つことができ、メモリに活用できる。
注4. フォトニックコンピューティング:通常の計算処理は電気的に行われるが、これを光に置き換えることにより計算処理の高速性や省電力性の向上が期待できる技術。
【論文情報】
タイトル:Polarization bistability of vertical-cavity surface-emitting lasers under Larmor precession of electron spins
著者: Nobuhide Yokota*, Kazuhiro Ikeda, Satoshi Iba, Takeo Katayama, and Hiroshi Yasaka
*責任著者:東北大学電気通信研究所 准教授 横田信英
掲載誌:APL Photonics
DOI:10.1063/5.0234539
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学 電気通信研究所
准教授 横田 信英
TEL: 022-217-5519
Email: nobuhide.yokota.a1*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学 電気通信研究所 総務係
TEL: 022-217-5420
Email: riec-somu*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
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