2024年 | プレスリリース?研究成果
芳香族含有カルボン酸を効率的に合成するためのカルボキシル化反応剤を開発 医薬品候補化合物のライブラリー合成法として期待
【本学研究者情報】
〇大学院薬学研究科 分子変換化学分野
准教授 重野真徳
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 簡便に取り扱えるとともに長期間保存できるカルボキシル化(注1)反応剤を開発しました。生物活性物質(注2)として重要な芳香族カルボン酸(注3)が得られます。
- 芳香族化合物(注4)や芳香族複素環化合物(注5)、トルエン誘導体など多岐の化合物を効率的にカルボキシル化することができます。
- 炭素同位体(13C) (注6)の導入法としても活用することができ、薬物代謝経路や反応機構の解明への応用が期待されます。
【概要】
二酸化炭素(CO2)はその遍在性や安価な価格、低毒性などの観点から魅力的な1炭素資源(注7)とされています。特に近年、芳香族化合物や芳香族複素環化合物に含まれる炭素-水素(C-H)結合を反応部位として、CO2を導入する反応系の開発が進められています。この反応では、芳香族カルボン酸が得られ、これらは生物活性物質として重要な分子構造とされます。しかし、CO2は常温常圧下では気体状態であるため、精密に量り取ることが容易ではなく、これまでのCO2固定化反応(注8)では実験操作に慣れや経験が必要とされていました。
東北大学大学院薬学研究科の下平貫太大学院生、笹本大空助教、重野真徳准教授らの研究グループは、アルキルシリルカルボナートが芳香族化合物の実用的なカルボキシル化反応剤となることを見出しました。この反応剤は、芳香族化合物のC-H結合を活性化する塩基として、また、CO2源としての2つの役割を担います。さらに、本反応剤を用いて、多岐の芳香族含有カルボン酸が合成できることを示しました。本反応剤は医薬品候補化合物のライブラリー合成(注9)や炭素同位体の導入法に応用されることが期待されます。
本成果は2024年12月20日付で、アメリカ化学会の学術雑誌Organic Lettersに掲載されました。
図1. 本研究の基盤となる以前のカルボキシル化反応(a)と本研究のアルキルシリルカルボナート反応剤を用いるカルボキシル化反応(b)
【用語解説】
注1. カルボキシル化
カルボキシル(COOH)基を化合物に導入する反応のこと。
注2. 生物活性物質
人間を含む生物に何らかの影響を与える化学物質のこと。例えば、医薬品や農薬、ビタミンなどが挙げられる。
注3. カルボン酸
1つ以上のカルボキシル(COOH)基を有する化合物の総称。アミノ酸や脂肪酸など生物活性物質に多く見られる化合物である。
注4. 芳香族化合物
芳香族性を示す化合物の総称。主にベンゼン環を有する化合物。
注5. 芳香族複素環化合物
芳香族性を有する有機化合物の中でも、炭素および水素以外のヘテロ元素を環内含む化合物の総称。代表的なヘテロ元素には酸素や窒素、硫黄などが挙げられる。
注6. 同位体
同一の原子番号を持つが、中性子の数が異なる原子のこと。
注7. 1炭素資源
有機反応において、出発物質に1つの炭素からなる炭素原子団を供給する物質のこと。
注8. CO2固定化反応
気体状態のCO2を別の状態や物質に変換する反応のこと。
注9. ライブラリー合成
多数の反応剤や出発物質の組み合わせを利用して、膨大な種類の化合物を合成する手法。
【論文情報】
タイトル:Carboxylations of (hetero)aromatic C-H bonds using an alkyl silyl carbonate reagent
著者:Kanta Shimotai, Ozora Sasamoto, Masanori Shigeno*
*責任著者:東北大学大学院 薬学研究科 准教授 重野真徳
掲載誌:Organic Letters
DOI:10.1021/acs.orglett.4c04388
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科 准教授 重野真徳
TEL: 022-795-5917
Email: masanori.shigeno.e5*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科 総務係
TEL: 022-795-6801
Email: ph-som*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています