2024年 | プレスリリース?研究成果
運動誘発性肺高血圧症の新たな治療の可能性 SGLT2阻害薬により運動時の心内圧の上昇を軽減
【本学研究者情報】
〇大学院医学系研究科循環器内科学分野 教授 安田聡
研究者ウェブサイト
【発表のポイント】
- 運動誘発性肺高血圧症(注1)は、労作時の息切れや運動耐容能の低下につながり、生活に支障を来たす重要な疾患です。しかしながら、今日まで運動誘発性肺高血圧症に対する治療方法は確立されていませんでした。
- 本研究では、SGLT2阻害薬(注2)という心不全治療薬で治療をすることにより、運動時の心内圧(注3)の上昇が軽減し、運動耐容能が改善することを明らかにしました。
- 本発見は、いまだ治療方針の報告がない運動誘発性肺高血圧症の新たな治療戦略につながることが期待されます。
【概要】
運動誘発性肺高血圧症は、運動時に心内圧が急激に上昇し、息切れ?呼吸困難を呈する疾患です。最新の欧州心臓病学会のガイドラインでは本疾患が注目されていますが、治療法は明らかになっていません。また、SGLT2阻害薬は心不全治療薬として確立されていますが、運動時の心内圧への効果は報告されていません。
東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野の安田 聡 教授、矢尾板 信裕 病院講師、佐藤 大樹 助教らの研究グループは、運動誘発性肺高血圧症の基準に該当する心内圧の急激な上昇がみられた症例に対して、半年間SGLT2阻害薬を投与しました。その結果、息切れ?呼吸困難の症状や運動耐容能の改善と、心内圧の上昇が軽減されることを発見しました。 本発見は、いまだ治療方針の報告がない運動誘発性肺高血圧症の新たな治療戦略につながることが期待されます。
本研究は2024年12月15日に心血管研究の専門誌Pulmonary Circulationに掲載されました。
図1. 運動誘発性肺高血圧症の新規治療戦略
基礎疾患を持たない方、心不全や肺高血圧症の治療後の方で、安静時の検査では心内圧が正常範囲でも労作時の息切れを呈する方がいます。運動負荷カテーテル検査により心内圧の上昇が確認でき、運動誘発性肺高血圧症と診断される方がいます。病態には原疾患の治療状況や、さまざまな他疾患が関わっている可能性があります。診断後の治療方針は確立されておらず、本研究では運動誘発性肺高血圧症に対するSGLT2阻害薬の効果を検討しました。
【用語解説】
注1.運動誘発性肺高血圧症:安静時の心臓?肺の圧力は正常ですが、運動時には圧力の増悪がみられる疾患群
注2. SGLT2阻害薬:尿が作られる際の糖再吸収を阻害することで糖排泄を増やし、血糖値を下げる糖尿病治療薬。現在では心不全の治療薬として糖尿病ではない方にも使用され、予後を改善させることが報告されている。
注3. 心内圧:心臓の中には左右の心室と心房があり、肺につながる肺動脈があり、主にカテーテル検査で各部位での圧力を測定することで、診断につながる。過剰な増加は心不全、肺高血圧症に至ることがある。
【論文情報】
タイトル:Impact of Sodium-Glucose Co-transporter-2 Inhibitors on Exercise-Induced Pulmonary Hypertension
著者:佐藤大樹、矢尾板信裕、樋口慧、後岡広太郎、山本沙織、佐藤遥、建部俊介、山田魁人、山田祐資、小丸航平、千葉直樹、更科佑記、森隆一、中田充、林秀華、鈴木秀明、高濱博幸、大田英揮、*安田聡
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野 教授 安田聡
掲載誌:Pulmonary Circulation (in press)
DOI:10.1002/pul2.70026
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科
循環器内科学分野 教授 安田 聡
TEL: 022-717-7153
Email: satoshi.yasuda.c8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科?医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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