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育種学や品種改良技術への応用が可能に 植物受精卵の半球形状を生む細胞壁変形原理を解明 ~顕微鏡による細胞画像から粘弾塑性モデルの再構築に成功~

【本学研究者情報】

〇大学院生命科学研究科 教授 植田美那子
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • シロイヌナズナの受精卵先端が半球状態を維持しながら成長する現象を力学モデルで再現しました.
  • 受精卵半球を維持するためには細胞壁進展性がコサイン型分布であることや法線方向に変位する必要があることがわかりました.
  • 顕微鏡で得られる細胞形状から力学モデルおよび成長様式を特徴づけることが可能になり,育種学や品種改良技術への応用が期待されます.

【概要】

春の七草の一種であるナズナ(ペンペン草の仲間)は茎や根などの体軸(上下軸)をもっており,私たち人間の背骨のように地上の体を支えたり姿勢を整えたりする力学的に重要な役割をもっています.しかしながら,このような植物の体軸が受精後の一細胞である受精卵からどのように形成されるのかは,これまで詳しくわかっていませんでした.先行研究では,受精卵が一方向に異方的に伸長しドーム型の頂端細胞と細長い基部細胞に分裂することが体軸形成にとって極めて重要であることが明らかにされていましたが,この受精卵の異方成長がどのような仕組みで達成されているかは未解明でした.

本研究では,東北大学の植田美那子教授らと秋田県立大学の康子辰博士研究員および津川暁助教らが強力なタッグを組むことで,顕微鏡画像で得られた受精卵細胞形状と伸長速度データを定量的に分析し,受精卵先端が半球状態を維持しながら伸長することを発見しました.さらに,粘弾塑性(1)を考慮した細胞力学モデルを構築することで,この先端半球の維持には細胞壁が特有の変形分布をとることや,表面の法線方向に伸長することが必要であることがわかりました.

これらの知見により,植物科学で得られる細胞画像データから細胞の変形メカニズムや表面力学などの力学情報を再分析することが可能になるため,植物生理学や遺伝学を力学的に捉え直すことを可能にするばかりでなく,育種学や品種改良などで受精後細胞の変形を理解し設計するような実学応用も期待されます.

(A)シロイヌナズナ受精卵のライブイメージングデータ.
(B)細胞先端の楕円近似および曲線座標による定量化の概念図.
(C)受精卵が横半径と縦半径がほぼ等しい半球状であることを確かめた定量結果.

【用語解説】

(1)粘弾塑性
材料が弾性(変形すると元に戻ろうとするバネの性質),粘性(変形の速さに応じて抵抗力が働く性質),塑性(不可逆的に変形し元に戻らない性質)を同時に合わせ持つ物質の性質を表す.

【論文情報】

タイトル:A Viscoelastic-plastic Deformation Model of Hemisphere-like Tip Growth in Arabidopsis Zygotes
著者:Zichen Kang, Tomonobu Nonoyama, Yukitaka Ishimoto, Hikari Matsumoto, Sakumi Nakagawa, Minako Ueda, Satoru Tsugawa
掲載誌:The Journal of Physical Chemistry C
DOI:10.1017/qpb.2024.13

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
教授 植田美那子
TEL:022-795-6713
Email: minako.ueda.e7*tohoku.ac.jp

(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
高橋さやか
TEL: 022-217-6193
Email: lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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