本文へ
ここから本文です

食品に含まれる共役脂肪酸ががん細胞を死滅させるメカニズムを発見 -食品中成分を活用した新規がん予防?治療法の開発に期待-

【本学研究者情報】

〇大学院薬学研究科 衛生化学分野
教授 松沢厚
助教 平田祐介
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 食品に含まれる共役脂肪酸(注1)が、細胞死(注2) の1つである「フェロトーシス(注3)」を引き起こすことでがん細胞を死滅させることを発見しました。
  • がん細胞に取り込まれた共役脂肪酸がミトコンドリアにおける活性酸素(注4)や過酸化脂質(注5)の産生を促進することで、フェロトーシスが引き起こされることを解明しました。
  • 今回の発見は、食品中成分である共役脂肪酸を活用した全く新しいがん予防?治療法の開発?提案に繋がる重要な研究成果です。

【概要】

共役脂肪酸とは乳製品や肉製品に含まれる共役リノール酸(注6)(ルーメン酸など)や、(桐、ゴーヤ、ザクロなど)一部の植物体や種子中に存在する共役リノレン酸(注7)(エレオステアリン酸など)など、食品に含まれる特殊な脂肪酸の総称です。古くから抗腫瘍作用を有することが知られていましたが、その詳細な分子機構については不明な点が多く残されていました。

東北大学大学院薬学研究科の平田祐介助教、山田侑杜博士、田口蒼真大学院生、松沢厚教授らの研究グループは、同研究科の佐藤恵美子准教授、井上飛鳥教授、斎藤芳郎教授、生命科学研究科の田口友彦教授、農学研究科の仲川清隆教授らとの共同研究により、共役脂肪酸が、分子によって制御される細胞死の1つである「フェロトーシス」によってがん細胞を殺傷し死滅させることを発見しました。詳細な解析から、共役脂肪酸は、がん細胞に取り込まれたのちに、ミトコンドリアにおいて活性酸素や過酸化脂質の産生を促進することを見出し、これが引き金となって、最終的にがん細胞でフェロトーシスが引き起こされることを明らかにしました。今回の発見は、食品中成分である共役脂肪酸のがん予防?治療への新たな応用に繋がる重要な研究成果です。

本研究の成果は、12月6日に国際科学雑誌Cell Death and Diseaseにオンライン掲載されました。

図2. 共役脂肪酸のフェロトーシスによるがん細胞殺傷機構
共役脂肪酸は、がん細胞に取り込まれたのちに、ミトコンドリアに特に蓄積しやすく、ミトコンドリア内で活性酸素や過酸化脂質の産生を促進する。過酸化脂質は、ラジカル連鎖反応を介して細胞内を伝播し、細胞膜を含む膜脂質の過酸化反応を促進する。一方、ミトコンドリアで産生された活性酸素や過酸化脂質は、細胞内の過酸化脂質消去において主要な役割を担うGPX4を、シャペロン介在性オートファジーによりタンパク質分解に導く。これらの相乗作用によって、最終的にがん細胞でフェロトーシスが惹起され、細胞死が起きる。

【用語解説】

注1. 共役脂肪酸
炭素?炭素間の二重結合を複数有する不飽和脂肪酸の一種。通常、二重結合の間には単結合の炭素原子が存在するが、複数の二重結合が連続(隣接)して存在する共役構造を持つ脂肪酸の総称として、共役脂肪酸と呼称する。

注2. 分子によって制御される細胞死
多細胞生物において、様々な分子の制御下で引き起こされる細胞死のこと。制御性細胞死。これまではプログラム細胞死と呼ばれていた。約50年前に、アポトーシスと呼ばれる、自発的な非壊死性の細胞死が見つかって以降、非壊死性のパータナトス、そしてネクロプトーシス、ピロトーシス、フェロトーシスなどの壊死性の細胞死が次々と発見され、生体内の様々な分子によって、そのON/OFFのスイッチや、強度、持続時間などが、厳密に制御されていることが分かってきた。

注3. フェロトーシス
2012年にBrent R. Stockwellらによって発見された制御性細胞死の1つ(Cell, 149(5), 1060-1072, 2012)。鉄依存的な過酸化脂質の蓄積に伴って、最終的に、細胞膜の破裂を伴う壊死が引き起こされる。当初、Ras変異を有するがん細胞を選択的に殺傷するための機構として発見された経緯もあり、鉄や活性酸素を特に豊富に含むがん細胞が、一般にフェロトーシスに高い感受性を示すことから、有力な新規がん治療戦略の1つとされ、その臨床応用が期待されている。また、神経変性疾患や虚血性疾患など、非常に多くの種類の疾患の病態発症?増悪に寄与することが報告されており、関連疾患の発症機序の解明、新規治療法開発の観点からも、大変着目されている。

注4. 活性酸素
ミトコンドリア呼吸の副産物として、あるいはNADPHオキシダーゼなどの酵素的な働きによって、細胞内に生じる反応性の高い酸素分子種の総称。細胞内外からの様々なストレスに曝されることで、さらに産生が亢進することが知られている。DNAやタンパク質などを酸化し、機能障害を引き起こすことで、様々な疾患や老化の原因となる。

注5. 過酸化脂質
脂質が過剰な酸化を受けること(脂質過酸化)で生成される酸化脂質のこと。フェロトーシスに関与する過酸化脂質は、その中でも、リン脂質中に含まれるアラキドン酸のような高度不飽和脂肪酸が過酸化されたものであると考えられている。

注6. 共役リノール酸
リノール酸(炭素数18、二重結合数2)のうち、二重結合が共役構造を持った共役脂肪酸のこと。ルーメン酸(C18:2 cis-9, trans-11)やその異性体であるC18:2 trans-10, cis-12などが代表例で、反芻動物中の胃の中の微生物が産生するため、乳製品や肉製品などに多く含まれる。

注7. 共役リノレン酸
リノール酸(炭素数18、二重結合数3)のうち、二重結合が共役構造を持った共役脂肪酸のこと。α-エレオステアリン酸(C18:3 cis-9 trans-11 trans-13)やプニシック酸(C18:3 cis-9 trans-11 cis-13)などが代表例で、桐、ゴーヤ、ザクロなどの一部の植物や種子中に含まれる。

【論文情報】
掲載誌: Cell Death and Disease
タイトル: Conjugated fatty acids drive ferroptosis through chaperone-mediated autophagic degradation of GPX4 by targeting mitochondria
著者: Yusuke Hirata?*, Yuto Yamada?, Soma Taguchi?, Ryota Kojima, Haruka Masumoto, Shinnosuke Kimura, Takuya Niijima, Takashi Toyama, Ryoji Kise, Emiko Sato, Yasunori Uchida, Junya Ito, Kiyotaka Nakagawa, Tomohiko Taguchi, Asuka Inoue, Yoshiro Saito, Takuya Noguchi, and Atsushi Matsuzawa*
(?共同筆頭著者, *責任著者)
DOI:10.1038/s41419-024-07237-w 

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
教授 松沢 厚
TEL: 022-795-6827
Email: atsushi.matsuzawa.c6*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科?薬学部
総務係
TEL: 022-795-6801
Email: ph-som*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

sdgs_logo

sdgs03

東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています

このページの先頭へ