2024年 | プレスリリース?研究成果
腫瘍や炎症?神経活動に関わるA3受容体の薬剤選択のメカニズムを解明
【本学研究者情報】
〇加齢医学研究所モドミクス医学分野 教授 魏范研
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- RNAの代謝産物であるm6Aが結合したアデノシンA3受容体と三量体Gタンパク質Giとの複合体構造の構造解析に成功しました。
- m6A以外にもアデノシンやその修飾体、アゴニストなどの構造解析により、A3受容体の選択性について構造的?機能的に明らかにしました。
- 本研究は修飾アデノシンとA3受容体の関係に示唆を与えるのみならず、アデノシン受容体を標的とした創薬への構造的知見を与えるものです。
【概要】
東京大学大学院理学系研究科の濡木理教授と、東北大学加齢医学研究所の魏范研教授らによる研究グループは、アデノシン(注1)やその修飾体などによって活性化したアデノシンA3受容体と三量体Gタンパク質Gi(注2)とのシグナル伝達複合体の立体構造をクライオ電子顕微鏡(cryo-EM)(注3)による単粒子解析(注4)によって決定しました。
A3受容体は、がん細胞や免疫細胞で多く見られ、新たな薬剤標的として注目されています。特に、修飾アデノシン(注5)であるm6A(注6)という修飾アデノシンがアデノシン受容体の中でもA3受容体を選択的に活性化することが知られていましたが、その詳しい仕組みは分かっていませんでした。
今回の研究では、m6Aに結合したA3受容体と三量体Gタンパク質Giとの複合体構造を決定し、また新たにi6A(注7)という修飾アデノシンがA3受容体を選択的に活性化することを発見しました。また、A3受容体は他の受容体にはない疎水性のポケットを持っており、選択的な薬剤はこのポケットと結合することで効果を発揮することを明らかにしました。
この成果は、A3受容体を標的とした新しい薬の開発に繋がり、がんや炎症の治療に貢献することが期待されます。
A3R-Gi複合体の全体構造
【用語解説】
注1.アデノシン
アデニンとリボースからなるヌクレオシド。RNAを構成する四種類のヌクレオシドの中の一つであることに加え、アデノシン受容体と結合してシグナル伝達物質として働くほか、cAMPやATPなど、別のエネルギー伝達物質やシグナル伝達物質の材料ともなる。
注2.三量体Gタンパク質Gi
Gタンパク質は、細胞内情報伝達に関わるGTP結合タンパク質であり、Ga、Gb、Gg、サブユニットの三量体により構成されている。活性化されたGタンパク質共役受容体と結合したGタンパク質三量体では、GDP-GTP交換反応が起き、GaとGb-Ggの二つに解離する。解離したサブユニットが下流のシグナル伝達因子と結合し活性化することで、細胞にさまざまなシグナル応答が生じる。Gaサブユニットは大きくGs、Gi、Gq/11、G12/13の四種類に分別され、特にGiは、下流で細胞内cAMP濃度を低下させることでさまざまなシグナルを伝える。
注3. クライオ電子顕微鏡
液体窒素(-196℃)冷却下でタンパク質などの分子に対して電子線を照射し、試料の観察を行うための装置。タンパク質や核酸をはじめとする生体高分子の像を多数撮影することで立体構造の決定を行う、単粒子解析法に用いられる。
注4. 単粒子解析
多数の均一な粒子を観察、撮影し、画像処理によって粒子の詳細な構造を得る手法。単一の撮影像よりも分解能を向上させることができるほか、さまざまな方向を向いた粒子を撮影することで、三次元立体構造を把握することが可能となる。
注5. 修飾アデノシン
アデノシンの各部位に化学修飾が施されたアデノシン。アデノシンを含め、修飾ヌクレオシドの役割は近年注目を集めている。
注6. m6A(N6-メチルアデノシン)
アデニンN6位の窒素原子がメチル化された分子。mRNAに存在するm6A修飾がmRNAの局在や安定性、翻訳効率を制御しさまざまな生命現象に関わる。その一方で、修飾を受けたRNAが分解?代謝された後にその産物が細胞外へ分泌されることが近年明らかになり、中でもm6AはアデノシンA3受容体を強力に活性化することを著者らのグループが報告した。
注7. i6A(N6-イソペンテニルアデノシン)
アデニンN6位の窒素原子がイソペンテニル化された分子。哺乳動物では特定のtRNAのアデノシンがtRNA isopentenyltransferase1(TRIT1)という酵素によって修飾されることで生成される。ミトコンドリア病患者の一部ではTRIT1遺伝子変異を有することが知られている。
【論文情報】
タイトル:Structural insights into the agonist selectivity of the adenosine A3 receptor
著者: Hidetaka S. Oshima, Akiko Ogawa, Fumiya K. Sano, Hiroaki Akasaka, Tomoyoshi Kawakami, Aika Iwama, Hiroyuki H. Okamoto, Chisae Nagiri, Fan-Yan Wei*, Wataru Shihoya*, Osamu Nureki* (*共同責任著者)
掲載誌:Nature Communications
DOI:10.1038/s41467-024-53473-1
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学加齢医学研究所
教授 魏范研(うぇい ふぁんいぇん)
TEL:022-727-8569
Email:fanyan.wei.d3*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学加齢医学研究所広報情報室
TEL:022-717-8443
Email:ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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