2024年 | プレスリリース?研究成果
SOD1遺伝子バリアントを持つ家族性筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の特徴が明らかに -遺伝子治療の臨床応用に貢献する成果-
【本学研究者情報】
〇大学院医学系研究科神経内科学分野 教授 青木正志
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 日本人家族性ALS 160家系の原因遺伝子を探索し、SOD1遺伝子 (注1) のバリアント(変異) 26種類を49家系(6%)で同定しました。
- 日本におけるSOD1遺伝子バリアントの種類と割合などの遺伝子背景を明らかにし、多様な表現型 (注 2) の知見をアップデートしました。
- ALSへの遺伝子治療の臨床応用、開発への貢献が期待される研究成果です。
【概要】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は運動ニューロン (注 3) の選択的な細胞死を引き起こす成人発症の神経変性疾患です。国の難病指定であるALSのうち、家族性ALSの原因遺伝子として、1993年にSOD1遺伝子が同定されて以降、ALSの病態解明と治療法の開発が行われてきました。2023年、ALSにおける初めての遺伝子標的治療薬「トフェルセン 」 (注 4) が米国で承認されました。現在、国内での承認が待たれており、遺伝子治療の臨床応用に向けて、ALSの遺伝子背景と表現型の解明が課題となっています。
東北大学大学院医学系研究科神経内科学分野の西山 亜由美医員、青木 正志教授らの研究グループは、同遺伝医療学分野の新堀 哲也准教授、青木 洋子教授らと共同で、東北大学神経内科で収集した家系において大規模な遺伝子解析を行い、日本人家族性ALSにおいて30.6%を占めるSOD1遺伝子バリアント(変異) を明らかにしました。さらに、日本人で頻度の高いバリアントの種類と頻度における人種差を見出しました。今回の研究では、遺伝子背景の解明とともに、多様な表現型を改めて検証し、知見をアップデートしました。ALSの病態解明に貢献すると同時に、将来的な遺伝子治療薬の改良?開発につながることが期待される研究成果です。
本研究成果は、2024年11月1日に米国神経学会誌Neurology Geneticsのオンライン版に掲載されました。
図1. 東北大学神経内科で集積したSOD1遺伝子バリアントを有するALS全49家系
全160家系においてSOD1遺伝子バリアント (26種類)を49家系 56例 (30.6%)に同定し、そのうちの38.8%を占める3つの頻度の高いバリアント (p.His47Arg(H46R)、 p.Leu127Ser(L126S)、 p.Asn87Ser(N86S)) を明らかにしました。
【用語解説】
注1.SOD1遺伝子:スーパーオキシドディスムターゼをコードする遺伝子。第21番染色体上に存在し、全5エクソンからなる遺伝子。
注2. 表現型:遺伝子の情報によってつくられる実際の体の状態、症状のこと。
注3. 運動ニューロン:脳から脊髄に広く存在する神経細胞の一種で、筋肉に命令を伝えることで運動機能を支配している。ALSでは運動ニューロンが変性することで筋肉のやせ (萎縮)や筋力の低下がもたらされます。
注4. トフェルセン:SOD1遺伝子バリアントを有する成人のALSへの初の遺伝的原因を標的とする治療薬。アンチセンスオリゴヌクレオチドで、SOD1タンパク質の生成を抑制するためにSOD1 mRNAに結合するように設計されています。
【論文情報】
タイトル:Updated genetic analysis of Japanese familial ALS patients carrying SOD1 variants revealed phenotypic differences for common variants
著者: Ayumi Nishiyama, Tetsuya Niihori, Naoki Suzuki, Rumiko Izumi, Tetsuya Akiyama, Masaaki Kato, Ryo Funayama, Keiko Nakayama, Hitoshi Warita, Yoko Aoki, Masashi Aoki*
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科?神経内科学分野 教授 青木正志
掲載誌:Neurology Genetics
DOI:10.1212/NXG.0000000000200196
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科神経内科学分野
教授 青木 正志 (あおき まさし)
医員 西山 亜由美(にしやま あゆみ)
TEL: 022-717-7189
Email: aokim*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科?医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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