2024年 | プレスリリース?研究成果
多様な魚の遡上が川の生態系を支えている 回遊魚の「おしっこ」は川の生物の大切な栄養源
【本学研究者情報】
〇生命科学研究科 准教授 宇野裕美
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 琵琶湖に流れ込む川には、春から秋まで年間8か月もの間ウグイ?ニゴイ?ヨシノボリ?アユ?ハス?ビワマスなど多様な種類の回遊魚が順を追って大量に遡上します。
- 安定同位体比分析(注1)などの分析により、回遊魚から排泄される「おしっこ」(実際には魚からの尿そして粘液なども含むと考えられる)が川にリンや窒素などの栄養塩を供給することで川の付着藻類の成長を促し、川にすむ底生生物などの重要な資源となっていることを突き止めました。
- 海や湖とその流入河川などの生態系のつながりの重要性を示すとともに、その間を回遊する動物の存在と多様性が、藻類や昆虫など生態系全体に波及効果をもつことを世界に先駆けて示した研究成果です。
【概要】
海や湖にそそぐ自然のつながりの保たれた川には、海や湖からさまざまな回遊魚が産卵などの為に遡上してきます。これら多様な回遊魚の存在は川の生態系にどのように影響しているのでしょうか?
京都大学生態学研究センターの倉澤央氏(当時大学院生)、総合地球環境学研究所の大西雄二特任助教、東北大学大学院生命科学研究科の宇野裕美准教授らのグループは、琵琶湖にそそぐ川を対象に、綿密な野外調査による魚の遡上実態の解明と魚に由来する栄養塩の化学?安定同位体比分析を行いました。その結果、琵琶湖から遡上する多様な回遊魚が排泄する「おしっこ」が、一次生産者の生育に不可欠なリンや窒素などの栄養塩を河川生態系に供給することで河川の生物群集を支えていること、多様な魚種が季節を追って順に遡上することで年間8か月もの間その効果が持続することを明らかにしました。この成果は自然の生態系のつながりおよび大移動する動物の存在とその多様性が生態系全体に果たす役割の重要性について新たな側面を明らかにしたものであり、自然環境の管理と保全に重要な示唆を与えます。
本成果は科学誌Science Advancesにて、2024年10月25日付で公開されました。
図1. 本研究の概念図。多様な回遊魚の季節をおった遡上が琵琶湖から流入河川に安定的かつ長期的な栄養塩供給を実現し、遡上域の河川の栄養塩濃度を上昇、それらの栄養は河川中の藻類や底生生物に取り込まれた。
【用語解説】
注1.安定同位体比分析:本研究では、河川水中のアンモニウムイオン(NH4+)や底生藻類?水生昆虫の窒素安定同位体比を分析した。窒素(N)には質量数が異なる14Nと15Nの「安定同位体」が存在している。それらの存在比(15N/14N)を安定同位体比と呼ぶ。物質の安定同位体比は、物質が化学反応する際や状態変化する際に変化が生じるため、安定同位体比を分析することでその元素の起源や、経験したプロセスを調査することができる。
【論文情報】
タイトル:Sequential migrations of diverse fish community provide seasonally prolonged and stable nutrient inputs to a river.
著者:京都大学大学院理学研究科 修士課程(当時)倉澤央(筆頭著者)
総合地球環境学研究所 特任助教 大西雄二(筆頭著者?責任著者*)
福島大学 食農学類 生産環境学コース 准教授 福島慶太郎
京都大学生態学研究センター 教授 木庭啓介
東北大学 大学院生命科学研究科 准教授 宇野裕美(責任著者*)
掲載誌:Science Advances
DOI:10.1126/sciadv.adq0945
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
准教授 宇野 裕美
TEL: 070-8535-1832
Email: hiromi.uno.c5*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
高橋 さやか
TEL: 022-217-6193
Email: lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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