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鉄系超伝導体における「第4の超伝導状態」の特異な超伝導特性とその不安定性を解明

【本学研究者情報】

〇大学院理学研究科物理学専攻
准教授 水上雄太(みずかみゆうた)
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 4の超伝導状態が期待されている鉄系超伝導体FeSe1-xSxの磁場侵入長を精密に測定することにより、非常に特異な超伝導特性を明らかにしました。
  • 試料に系統的に欠陥を導入していくと、第4の超伝導状態が徐々に壊されていくことを明らかにしました。
  • 本研究により、超伝導状態の基礎的理解を進展させるとともに、新奇な超伝導状態に関するさらなる理論的?実験的研究を促進することが期待されます。

【概要】

東京大学大学院新領域創成科学研究科の永島拓也大学院生、石原滉大助教、松浦康平大学院生(研究当時、現在東京大学大学院工学系研究科助教)、水上雄太助教(研究当時、現在東北大学大学院理学研究科准教授)、橋本顕一郎准教授、芝内孝禎教授らの研究グループは、仏エコールポリテクニークと共同で、鉄系超伝導体(注1)の一種であるFeSe1-xSxにおける第4の超伝導状態の特異な超伝導特性とその不安定性を明らかにしました。

一般に金属中では、電子系の最低エネルギー状態として波数空間にフェルミ面(注2)が現れます。一方で、超伝導状態ではフェルミ面が不安定になり、このフェルミ面が完全に消失する場合(第1の超伝導体)や点(第2の超伝導体)もしくは線(第3の超伝導体)状の部分のみを残して消失する場合が知られていました。しかし、近年鉄系超伝導体の一種であるFeSe1-xSxでは、超伝導状態においてフェルミ面が面状に残る「第4の超伝導状態」の可能性が指摘されており、大きな注目を集めています。そこで研究グループは、超伝導体の磁気的な性質を反映する磁場侵入長(注3)を精密に測定することにより、FeSe1-xSxにおける超伝導特性の解明を試みました。その結果、得られた磁場侵入長の温度依存性は、フェルミ面が面状に残る理論モデルで定性的に説明ができることがわかりました。さらに、試料に欠陥を系統的に導入していくと、第4の超伝導状態が徐々に壊され、最終的に面状のフェルミ面が消失することを明らかにしました。

本研究結果は、近年提案された第4の超伝導状態における特異な磁気的性質や欠陥に対する不安定性を明らかにしたものであり、超伝導状態の基礎的理解に大きく貢献するとともに、第4の超伝導状態に関するさらなる理論的?実験的研究を促進することが期待されます。

本研究成果は20241010日付け(現地時間)で、米国科学誌『Physical Review Letters』にオンライン掲載されました。

第4の超伝導状態と特異な磁気特性のイメージ図

【用語解説】

(注1)鉄系超伝導体
鉄系超伝導体とは、2008年に東京工業大学の細野秀雄教授(当時)の研究グループによって初めて発見された、鉄原子を含む超伝導物質群を指します。通常、超伝導は磁場によって破壊されることから、磁性元素である鉄との相性が悪いと考えられていたためこの物質群の発見は大きなインパクトをもたらしました。この物質群の超伝導の発現メカニズムは非常に複雑であることや銅酸化物高温超伝導体に次いで高い温度で超伝導を示すことから、超伝導現象を理解する上で重要な物質群となっています。

(注2)フェルミ面
フェルミ面とは、運動量空間における絶対零度での占有状態と非占有状態の境界に対応します。金属では、この境界をまたいで占有された状態から占有されていない状態へほんの少しのエネルギーで電子が移動できるため、高い電気伝導性を示します。金属の物理特性の多くはフェルミ面の形状によって決まっていることから、物性を調べる上で非常に重要な概念であると考えられています。

(注3)磁場侵入長
超伝導体では、弱い磁場を試料に印加するとその磁場は試料内部から排斥されます(マイスナー効果)。このとき、超伝導体試料表面近傍では数十~数千ナノメートル程度のわずかな領域にのみ磁場が侵入しており、この磁場が侵入する長さを「磁場侵入長」と呼びます。磁場侵入長は超伝導電子密度と呼ばれる超伝導電子対を形成している電子の単位体積当たりの数(電子数密度)を反映し、超伝導発現機構と結びついているため超伝導発現機構を理解する上で重要な物理量の一つです。

【論文情報】

タイトル:Lifting of gap nodes by disorder in tetragonal FeSe1-xSx superconductors
at the Interface between Water and the Basal Plane of Single-Crystal Ice Ih
著者: Takuya Nagashima, Kota Ishihara*, Kumpei Imamura, Masayuki Kobayashi, Masaki Roppongi, Kohei Matsuura, Yuta Mizukami, Romain Grasset, Marcin Konczykowski, Kenichiro Hashimoto, and Takasada Shibauchi* (*責任著者)
掲載誌:Physical Review Letters
DOI: 10.1103/PhysRevLett.133.156506

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院理学研究科
物理学専攻
准教授 水上 雄太(みずかみ ゆうた)
TEL:022-795-6476
Email:mizukami*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院理学研究科
広報?アウトリーチ支援室
TEL:022-795-6708
Email:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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