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カキ漁師の知恵が一石三鳥の効果をうむ ~「温湯処理」で生産量増加+品質向上+海域環境保全 ~

【本学研究者情報】

〇大学院工学研究科 土木工学専攻
准教授 坂巻隆史
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 毎年8~9月に三陸沿岸などの一部のカキ養殖漁場で付着生物除去のために行われている「温湯処理(注1)」が、カキの生産量増加?品質向上?海底の環境保全の効果を生むことを科学的に実証しました。
  • 温湯処理は、餌となる植物プランクトンなどの有機物摂取率を増大させるとともに、高付加価値成分も増大させることが判明しました。また、付着生物の排泄物や遺骸の海底での蓄積も防ぎ、海域環境保全にも寄与していることがわかりました。
  • 漁業者の経験に基づく温湯処理は、先端技術に依らずとも、生態系内の物質の流れと生産活動を調和させ、生産性向上や環境負荷軽減などをもたらす好例といえます。

【概要】

カキ養殖では、人間が餌を与えることなく、海域の栄養塩やそれを基に生産される植物プランクトンなどの有機物を餌としてカキを育てています。

東北大学大学院工学研究科の坂巻隆史准教授(東北大学?海洋研究開発機構変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC)兼務)と畠山勇二大学院生(研究当時)らは、宮城県本吉郡南三陸町に位置する志津川湾内のカキ養殖漁場で実施した実験により、カキ養殖漁業者がムラサキイガイ等の付着生物対策として行っている「温湯処理」が、カキの成育改善のみならず、品質向上や海底の汚濁負荷の軽減といった複数の効果をもたらしていることを実証しました。

漁業者の経験に基づき行われてきた温湯処理は、付着生物が栄養塩や有機物を餌として奪い浪費するのを抑制し、それをカキの生産に転換する技術です。この成果は、先端技術に依らずとも、自然界の物質動態に目を向け、栄養塩?有機物を有効に使うことで、食料生産効率の向上や環境負荷の軽減といった利益が得られることを示す好例といえます。

本研究成果は、2024年9月3日付けで科学誌Journal of Cleaner Productionにて公開されました。

図1 本研究の成果の概要

【用語解説】

注1. 温湯処理:養殖カキを船上の湯釜で短時間熱して付着生物を除去し、再び海に戻してカキを成長させる処理。55~60度程度に熱した海水を用いて行われる。カキは、イガイなどの付着生物等に比べて、殻が厚く密閉度も高いため、熱への耐性が比較的高く、この処理が可能となっている。漁業者が経験的に編み出した技術である。

【論文情報】

タイトル:Dual benefits of biofouling reduction in non-fed aquaculture: On-site heat treatment enhances oyster production and mitigates local environmental impacts
著者:Yuji Hatakeyama, Megumu Fujibayashi, Chikako Maruo, Osamu Nishimura, Takashi Sakamaki*
*責任著者:東北大学大学院工学研究科 准教授 坂巻隆史
掲載誌:Journal of Cleaner Production, 2024, 472, 143502.
DOI:10.1016/j.jclepro.2024.143502

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院工学研究科 准教授 坂巻 隆史
TEL: 022-795-7472
Email: takashi.sakamaki.a5*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学工学研究科?工学部 情報広報室 沼澤 みどり
TEL: 022-795-5898
Email: eng-pr*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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