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磁場下で電荷を持たない新粒子を観測 ――熱測定により、電荷中性の新粒子の量子化現象を発見――

【本学研究者情報】

金属材料研究所 准教授 木俣基
研究者紹介ページ

【発表のポイント】

  • 絶縁体であるYbB12の磁場下熱測定により、新粒子「電荷中性のフェルミ粒子」を観測した。
  • これまで存在は提案されていたものの、実在が明確でなかった「電荷中性の複合フェルミ粒子」が、磁場下で量子化したことを示唆している。
  • 新粒子の探索は、物性研究のみならず素粒子物理とも関わる研究題目であり、今回の発見はさまざまな学術領域へのインパクトを有する成果。

【概要】

東京大学物性研究所の楊卓(ツォウ?ヤン)特任研究員と小濱芳允准教授、フランス原子力庁(CEA)のChristophe Marcenat(クリストフ?マーセナー)教授、コーネル大学のDebanjan Chowdhury(デバンジャン?チョードゥリー)准教授らを中心とした研究グループは、茨城大学の伊賀文俊教授の育成した純良単結晶を用い、東北大学、ネール研究所、フランス国立強磁場研究所との共同研究により、近藤絶縁体(注1)であるYbB12の磁場下の比熱が、9 T(テスラ)以上の磁場領域において連続する二重ピーク構造を有することを発見しました(図1)。

発見された二重ピーク構造は、温度に比例してピーク位置が広がる振る舞いを示すなど、グラファイトで観測されるピーク構造と高い類似性を示していました。グラファイトの二重ピーク構造は、電荷を運ぶフェルミ粒子(注2)である電子の円運動に伴う量子化現象(注3)であると証明されています(関連情報)。このことから、自由に動く電子が存在しない絶縁体YbB12において、類似の量子化現象を観測したことは、YbB12中に電子と似た性質を有するが電荷を持たない中性のフェルミ粒子が存在することを示しています。

今回観測された電荷中性のフェルミ粒子は、絶縁体での量子振動現象(注4)の起源と目されており、今後、絶縁体における中性フェルミ粒子の理解が飛躍的に進むことが期待されます。

本成果は英国科学誌の Nature Communications において、2024 年 9 月 12 日にオンライン掲載されました。

1YbB12()およびグラファイト()の比熱の磁場変化
導体のグラファイトと絶縁体のYbB12で類似の二重ピーク構造を示している。

【用語解説】

注1.近藤絶縁体 磁性を有する金属では,磁性を担う電子と金属内を自由に動き回る電子が相互作用し、電気伝導現象の起源となるバンド構造が温度変化することが知られています。このような磁性金属において、低温領域で自由に動き回る電子が存在しないバンド構造を持つ物質を近藤絶縁体と呼びます。

注2.フェルミ粒子 ディラック定数の半整数倍の角運動量を持つ粒子をフェルミ粒子、整数倍の角運動量を持つ粒子をボース粒子と呼びます。金属において自由に動き回る電子はフェルミ粒子としてふるまい、一方で絶縁体では、2つのフェルミ粒子が結合することで現れるエキシトンと呼ばれる中性ボース粒子が存在することが知られています。

注3. 量子化現象 古典力学では連続量である物理現象が、量子力学で説明されるように飛び飛びの値を示すこと。

注4.量子振動現象 金属における自由に動く電子は荷電粒子であるため、磁場下で円運動を示します。磁場下ではこの円運動が量子化し、飛び飛びの(離散的)なエネルギーを持つランダウ準位と呼ばれる状態を形成します。このランダウ準位のエネルギーが磁場変化することにより、電気抵抗や磁化、比熱などの物性量が磁場の関数で振動する現象を量子振動と呼びます。

【論文情報】

タイトル:Evidence for large thermodynamic signatures of in-gap fermionic quasiparticle states in a Kondo insulator
著者: Zhuo Yang, Christophe Marcenat*, Sunghoon Kim, Shusaku Imajo, Motoi Kimata, Toshihiro Nomura, Albin Muer, Duncan K. Maude, Fumitoshi Iga, Thierry Klein, Debanjan Chowdhury*, Yoshimitsu Kohama*
掲載誌:Nature Communications
DOI:10.1038/s41467-024-52017-x

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学金属材料研究所 
准教授 木俣 基(きまた もとい)
TEL:022- 215-2018
Email:motoi.kimata.b4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学金属材料研究所
情報企画室広報班
TEL:022-215-2144
Email:press.imr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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