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起きているマーモセットが匂いをかいだときの脳の活動をMRIで観察できる装置の開発 ~疾患モデルマーモセットの早期の症状の発見に期待~

【本学研究者情報】

〇加齢医学研究所 教授 山家智之
研究室ウェブサイト

〇流体科学研究所 准教授 岡島淳之介
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 装置は非磁性のため、MRI に影響なく、MRI の外から匂いをかがせるタイミングをコントロール可能。
  • マーモセットへの麻酔薬の投薬や実験処置をすることなく実験を実施可能。
  • 嗅覚障害はアルツハイマー病やパーキンソン病などと関連するため、開発した装置はこれらの疾患モデルマーモセットの研究に役立つ。

【概要】

公益財団法人実中研マーモセット医学生物学研究部の圦本晃海主任、関布美子主任、佐々木えりか部長、旭川医科大学の井上雄介准教授、東北大学の岡島淳之介准教授、公立小松大学の山田昭博准教授らの研究グループは、コモンマーモセット(以下マーモセット)が匂いを嗅いだときの脳の活動をMRI*1で観察するための装置を開発しました。

アルツハイマー病やパーキンソン病などの病気では認知機能が低下する前から嗅覚が傷害されることが知られています。そのため、嗅覚機能の評価はこれらの病気の初期のバイオマーカー*2になると考えられています。これらの疾患のモデル動物としても霊長類の実験動物であるマーモセットは利用されています。マーモセットは体が小さいため、高磁場のMRI装置を用いて高解像度で脳を調査することができるメリットがある一方で、MRI装置の内部は狭く、MRI装置内で様々な実験を行う事は困難でした。また、嗅覚は同じ匂いを嗅ぎ続けると匂いを感じなくなる「嗅覚適応」が起こります。そのため、匂い刺激の提示は短時間に限定して行う必要がありましたが、狭いMRI装置の中では短時間で明瞭な匂い刺激をすることが難しく、嗅覚刺激時の脳の活動はあまり研究されていませんでした。

研究グループの開発した匂い提示システムは、嗅覚刺激物質の提示用と吸引用の2本のチューブと提示チューブ内のバルーンバルブから構成されます。提示用チューブの出口の直前にバルーンバルブを設置し、MRIの外からバルーンの動きを制御可能にしました。これにより、30秒間の刺激を5分間隔で5回繰り返すなど、自由で強い匂いの刺激が可能になりました。嗅覚刺激システムは模擬システム(図1)およびマーモセットの機能的MRI実験(fMRI*3で検証され、匂いがMRI内部に滞留していないことが示されました。さらに、fMRIの信号解析の結果、嗅覚に関連する8つの領域で、嗅覚刺激後30秒以内に信号値が増加することが示されました(2)。これらの領域にはアルツハイマー病やパーキンソン病に関連する領域が含まれていたため、今回開発した嗅覚刺激fMRIシステムと、様々な疾患モデル動物を持つマーモセットの特性を組み合わせることで、霊長類における嗅覚機能障害と認知症の関係を明らかにすることができると期待します。

本研究成果は、202481日公開のScientific reports誌にオンライン掲載されました。

図1 MRI内で嗅覚刺激を行ったときの匂い源の流れを模擬環境によって可視化した結果
(左)吸引用のチューブを使用した例、MRI内部にニオイの対流がおきなかった。(右)吸引用のチューブを使用しなかった例、MRI内部にニオイの滞留がおきてしまう。

【用語解説】

*1MRI...Magnetic Resonance Imaging、磁気共鳴画像によって生物を傷つけることなく生体内部の情報を観察することが可能にする手法。磁力の高いものほど解像度が高く、今回の実験では7テスラのMRI装置を使用した(ヒト医療用は1.5-3テスラ)。反面、磁力のために、金属や電子機器をMRI内部で使用することは難しい。

*2バイオマーカー...病気の診断基準となったり、治療の効果を判定したりするための検査項目や生体内の物質を指す。

*3機能的MRI...MRIを利用して、脳の血液の動きを視覚化する手法の一つ。刺激に対する反応を脳の特定の領域への血液の増減で判断するため、脳機能を間接的に観察することができる。他の脳機能検査手法と比較して、非侵襲的であり、脳の全体の活動を捉えることが可能である。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

東北大学流体科学研究所
広報戦略室
TEL:022-217-5873
Email:ifs-koho*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)(*を@に置き換えてください)

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