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完全水和と大量の酸素空孔により世界最高クラスのプロトン伝導度を示す新六方ペロブスカイト関連酸化物を創製?発見 -中温で高性能な燃料電池を低コストで製造可能に-

【本学研究者情報】

〇金属材料研究所 准教授 南部雄亮
研究室ウェブサイト
金属材料研究所 助教 池田陽一
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 六方ペロブスカイト関連酸化物の新物質群を創製し、Ba5Er2Al2SnO13が世界最高クラスのプロトン伝導度と高い安定性を示すことを発見。
  • Ba5Er2Al2SnO13の高いプロトン伝導度は、完全水和と大量の酸素空孔による高プロトン濃度と八面体層における高速プロトン移動が原因であることを解明。
  • 低コストで製造できる高性能燃料電池の開発につながると期待。

【概要】

東京工業大学 理学院 化学系の八島正知教授、松崎航平大学院生(研究当時)、齊藤馨大学院生は、中低温で世界最高クラスのプロトン(H+、水素イオン)伝導度(用語1)を示す新物質Ba5Er2Al2SnO13(用語2)を創製?発見した。さらに東北大学 金属材料研究所の南部雄亮准教授、池田陽一助教と共同で中性子回折(用語3)データを測定し、結晶構造を明らかにした。また第一原理分子動力学シミュレーション(用語4)を行い、高いプロトン伝導度の原因を明らかにした。

現在実用化されている固体酸化物形燃料電池(SOFC)は動作温度が高いため、低コスト化と用途拡大のために、中温(300℃付近)で高いプロトン伝導度を示す材料が求められている。従来の候補材料であるペロブスカイト型プロトン伝導体(用語5)では、高い伝導度を実現するために化学置換(用語6)が必要である。一方、六方ペロブスカイト関連酸化物(用語7)は近年、化学置換なしで比較的高いプロトン伝導度を示す新材料として注目されている。しかし、これらの材料は、水の取り込み率(用語8)が100%ではなく、伝導度をさらに向上させる余地があった。

今回の研究では、六方ペロブスカイト関連酸化物の新物質群Ba5R2Al2SnO13 (R = Gd, Dy, Ho, Y, Er, Tm, Yb)を創製?発見した。中でも、Ba5Er2Al2SnO13は世界最高クラスのプロトン伝導度、高い安定性と完全水和(100%の水の取り込み率)を示すことが分かった。結晶構造解析やシミュレーションの結果、酸素空孔(用語9)が大量に存在するBaO層で完全水和が起こるためプロトン濃度が高いこと、[ErO6-ZrO6-ErO6]八面体層においてプロトンが高速移動することが、高いプロトン伝導度の原因であることが分かった。

本研究成果は2024625日(米国時間)に米国化学会の学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。

1:Ba5Er2Al2SnO13の高いプロトン伝導度とその原因。 (a)Ba5Er2Al2SnO13のプロトン伝導度のアレニウスプロットと(b)Ba5Er2Al2SnO13の高い酸素空孔量と高い水の取り込み率および高いプロトン濃度。(c)第一原理分子動力学シミュレーションにより得られたBa5Er2Al2SnO13のプロトンの軌跡。[ErO6-ZrO6-ErO6]八面体層においてプロトンが高速移動することを示している。(?著者ら、2024

【用語解説】

(1)プロトン(H+、水素イオン)伝導度:プロトンが伝導することによる電気伝導度。

(2)Ba5Er2Al2SnO13:バリウム、エルビウム、アルミニウム、スズおよび酸素から構成される酸化物。本研究で創製?発見した新物質である。六方ペロブスカイト関連酸化物と呼ばれる物質群の一つである。この物質群はプロトン伝導体あるいは酸化物イオン伝導体として注目されており、六方ペロブスカイト関連酸化物のイオン伝導は新しい研究分野である。

(3)中性子回折:中性子による回折。重元素と、酸素などの軽元素の両方を含む物質では、軽元素の中性子散乱コントラストがX線散乱コントラストと比べて相対的に高いことが多い。そのため、X線回折ではなく中性子回折データを用いた構造解析によって、軽元素の原子の原子座標、占有率と原子変位パラメータを正確に決めることができる。

(4)第一原理分子動力学シミュレーション:実験データなど経験パラメータを用いずに、計算対象となる原子の種類と数と初期配置を用いて、量子力学に基づいて電子状態を計算することにより、原子間に働く力を見積もり、物質における原子の運動や物質の性質を調べるシミュレーション。

(5)プロトン伝導体:外部電場を印加したときにプロトンが伝導する物質。プロトン伝導体には、純プロトン伝導体やプロトン-電子混合伝導体などがある。

(6)化学置換:化合物の原子の一部を別の元素の原子で置換すること。

(7) 鉱物ペロブスカイトCaTiO3と同じ、あるいは類似した結晶構造を持ち、一般式ABX3で表される化合物をABX3ペロブスカイト型化合物と総称する(ABa2+La3+などの比較的大きな陽イオン、Bは遷移金属イオンなどの比較的小さな陽イオン、Xは陰イオンを示す)。ABX3ペロブスカイト型化合物は立方最密充填したAX3層とBイオンから構成されるが、六方ペロブスカイト型化合物は六方最密充填したAX3層とBイオンからなる。六方ペロブスカイト関連化合物は、六方最密充填したAX3層および立方最密充填したAX3層がさまざまな比で積層した構造を持つ。六方ペロブスカイト関連化合物のうち、陰イオンとして酸化物イオンだけを含むものを六方ペロブスカイト関連酸化物という。

(8)水の取り込み率:酸素空孔量に対する、水和した水の量の割合。

(9) 酸素空孔:結晶中の酸素が存在しうる席(サイト)で原子が欠けている所を酸素空孔と呼ぶ。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学金属材料研究所
准教授 南部 雄亮(なんぶ ゆうすけ)
TEL:022-215-2327
Email:nambu*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学金属材料研究所
情報企画室広報班
TEL:022-215-2144
Email:press.imr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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