2024年 | プレスリリース?研究成果
新たな酸素感知機構を発見 酸素によるビタミンB6活性調節はマクロファージの炎症応答を制御する
【本学研究者情報】
〇大学院医学系研究科医化学分野 教授 本橋ほづみ
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 低酸素状態が長期に続くと、炎症が悪化することを明らかにしました。
- 多くの酵素の補酵素として働くビタミンB6が、酸素感受性ビタミン(注1)として炎症細胞の機能を制御することを明らかにしました。
- ? 酵素PNPO(注2)が酸素濃度に依存して、不活性型ビタミンB6を活性型ビタミンB6(ピリドキサールリン酸:PLP(注3))に変換することを見出し、これをPNPO-PLP制御系と命名しました。
- PNPO-PLP制御系は、従来から知られている低酸素に対する応答機構 (PHD-HIF制御系(注4)) とは異なる経路で働くことを明らかにしました。
- PNPO-PLP制御系の理解はがんや循環器疾患、呼吸器疾患など慢性的な低酸素を伴う病態の診断?治療への応用につながることが期待されます。
【概要】
虚血などにより引き起こされる急激な低酸素に対する応答の分子機構PHD-HIF制御系は、2019年のノーベル生理?医学賞の対象となったこともあり、広く知られています。その一方で、持続する低酸素を感知する分子機構については未解明のままでした。
東北大学大学院医学系研究科医化学分野?加齢医学研究所遺伝子発現制御分野の関根弘樹准教授、本橋ほづみ教授の研究グループは、慢性的な低酸素では活性型ビタミンB6(PLP)が減少し、炎症が悪化すること、そして、PLPの生成に必須の酵素PNPOが慢性低酸素のセンサーとして炎症を制御することをモデルマウスによる実験で解明しました。これらの分子機構を解明した本研究成果は、慢性的な低酸素状態にあるがん、循環器疾患、呼吸器疾患などに対する診断?予防?治療への応用が期待されます。
本研究成果は、2024年5月31日にNature Metabolism誌に掲載されました。
図2. PNPO-PLP経路。酸素濃度が高い環境では、PNPOの作用によりPLPの産生が促進されている。それによりPLPを必要とする超硫黄分子産生も促進されている。酸素濃度の低下が持続すると、PNPOの働きが抑制されて、PLPが徐々に減少し、超硫黄分子の量も減少する。マクロファージの中では、これにより、激しい炎症応答が長く続く。
【用語解説】
注1.酸素感受性ビタミン:酸素濃度に応じて体内での有効量が変化するビタミンのこと。ビタミンB6が最初の例といえる。
注2. 酵素PNPO:ピリドキシンリン酸オキシダーゼのこと。酸素を使って、ピリドキシンリン酸をピリドキサールリン酸に変換する。
注3. 活性型ビタミンB6(PLP):ピリドキサールリン酸(Pyridoxal 5'-phosphate: PLP)のこと。食物中のピリドキシンは、体内に取り込まれるとリン酸化を受けて、ピリドキシンリン酸になる。ついで、酵素PNPOの働きにより、ピリドキシンリン酸はピリドキサールリン酸に変換される。様々な酵素の補酵素として働くのは、ピリドキサールリン酸である。
注4. 応答機構(PHD-HIF制御系):HIFは、HIFαとHIFβの2量体からなる転写因子で、低酸素状態に適応するために必要な遺伝子を活性化させる。酸素濃度が高い時は、PHDの働きによりHIFαは分解されているが、酸素濃度が低下すると分解が停止して、HIFが転写制御因子として働く。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科医化学分野
准教授 関根弘樹
TEL:022-717-8088
Email: hiroki.sekine.c2*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学大学院医学系研究科医化学分野
教授 本橋ほづみ
TEL:022-717-8084
Email: hozumi.motohashi.a7*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科?医学部広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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