2024年 | プレスリリース?研究成果
スズ添加が生体材料用チタン合金をしなやかにする仕組みを明らかに ─合金設計のカクテル効果に乾杯─
【本学研究者情報】
〇金属材料研究所 准教授 岡本範彦
金属材料研究所 教授 市坪哲
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 近年本学発で開発され実用化された生体インプラント材用チタン(Ti)合金に少量の錫(すず)(Sn)を添加すると、なぜ硬くて脆い欠点を解決できるかの理由を明らかにしました。
- β(ベータ)型Ti合金(注1)には、硬くて脆いω(オメガ)相が出現しやすい傾向がありますが、Sn元素単独ではω相を抑制する効果はほとんどありません。しかし、ニオブ(Nb)やバナジウム(V)等のβ安定化元素と共に添加するとω相の出現を完全に抑えることができます。本研究ではその機構を明らかにしました。
- 近年研究が盛んなハイエントロピー材料(注2)においてよく見られるカクテル効果(注3)を如実に発現している好例であり、合金設計においては多体(多元素)間相互作用が極めて重要であることを示しています。
【概要】
生体インプラント材料として開発されたβ型Ti合金(Ti-Nb-Sn合金:TNS合金)には、有害なω相を完全に抑制するために少量のSnが添加されています。しかし、純チタンに対するSn添加効果からはω相の抑制は単純には予想できず、Sn添加によるω相抑制効果の発現機構は不明な点が残っていました。
東北大学金属材料研究所の岡本範彦 准教授と市坪哲 教授らは、Ti-V系のモデル合金を対象として、Sn添加が相変態挙動と相安定性に与える影響を実験および理論の両側面から系統的に調査することによって、Ti元素―β安定化元素(V)―Sn元素間の多体相互作用およびSn原子のアンカー効果が相乗的に働き、ω相の出現をほぼ完全に抑え込むことができていることを明らかにしました。これにより生体材料に限らず合金設計において多体的な相互作用を考慮する必要が重要であることを示したと言えます。
本研究成果は2024 年4 月29 日付(現地時間)で材料科学分野の専門誌Acta Materialia にオンライン公開されました。
図1. Ti-21%V合金母相内に整合析出した無拡散型等温ω相の原子分解能走査透過電子顕微鏡像。ランダム固溶体であっても統計的にβ安定化元素(V)が少ない局所領域が存在し、室温下でも③無拡散型等温ω変態が進行してしまう。
【用語解説】
注1. β型Ti合金:純チタンは、室温において最密六方(HCP)構造のα相であるが、885℃以上においては体心立方(BCC)構造のβ相に同素変態する。Nb、V、Cr、Moなどのβ安定化元素を添加し、β安定な高温領域から急冷して得られる準安定相がβ型Ti合金と呼ばれる。
注2. ハイエントロピー材料:狭義には「5種類以上の構成元素から成る等原子分率単相固溶体合金」。広義には「多元系状態図中央付近の組成を持つ等原子分率から外れた高濃度固溶体合金や析出物を含む多相合金」を指す。ハイエントロピー合金には、従来合金には見られない特異で優れた材料特性を示すものが多い。
注3. カクテル効果:多種の飲み物をバランス良く混ぜ合わせると、時に想像以上に美味しいカクテルに仕上がるのと同様に、多種の成分元素をバランス良く混ぜ合わせてハイエントロピー化すると予想以上に優れた特性が得られる効果のこと。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学金属材料研究所 構造制御機能材料学研究部門
准教授 岡本 範彦
TEL:022-215-2728
Email:nlokamoto*tohoku.ac.jp
教授 市坪 哲
Email:tichi*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学金属材料研究所 情報企画室広報班
TEL:022-215-2144 FAX:022-215-2482
Email:press.imr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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