2024年 | プレスリリース?研究成果
カモノハシ由来の改変型受容体を用いたバソプレシン測定法の開発 細胞センサー法による簡便かつ迅速な血中の抗利尿ホルモンの測定
【本学研究者情報】
〇大学院薬学研究科 分子細胞生化学分野
教授 井上飛鳥
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 多飲や多尿の症状に関与する血中ホルモン、バソプレシンに対して、カモノハシ由来のバソプレシン受容体が高感度に応答することを見出しました。
- カモノハシ由来の受容体から、バソプレシンの応答性を維持しつつ、治療薬には応答しない改変型受容体を作出しました。
- 改変型受容体とcAMPバイオセンサー(注1)を発現させた培養細胞を用いた血中バソプレシンの測定法(細胞センサー法)を構築しました。
- この測定法は既存の測定法である放射免疫測定法(RIA法)(注2)と良好な相関性を示し、さらに測定工程と測定時間を大幅に削減できました。
【概要】
バソプレシン(別名アルギニン-バソプレシン、略称AVP)(注3)は、9アミノ酸からなる環状のペプチドホルモンで、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)(注4)である2型バソプレシン受容体(V2R)(注5)を介し、細胞内のサイクリックAMP(cAMP)(注6)濃度を上昇させることで、様々な生理現象を制御しています。血漿中バソプレシン濃度の測定は、多飲や多尿の症状を示す中枢性尿崩症(注7)の診断に有用であり、現在は主に放射免疫測定法(RIA法)によって測定されています。RIA法によるAVPの測定は手順が煩雑で、測定には約3日を要するものであり、より簡便な測定法が望まれてきました。
東北大学大学院薬学研究科の土居耕介大学院生(社会人博士課程、ヤマサ醤油株式会社研究員)と井上飛鳥教授らのグループは、血漿中AVP濃度の測定に適した改変型V2Rを作出し、cAMPバイオセンサーと組み合わせることで細胞センサー法による新たな血漿AVP測定法を開発しました。
細胞センサー法は測定時間が短く操作も簡便であるため、RIA法に換わる新たな血漿中AVP濃度の測定法として今後活用されることが期待されます。
本研究成果は、2024年4月24日にScientific Reportsに掲載されました。
図1. 細胞センサー法による血漿中AVP濃度測定の原理
V2RとcAMPバイオセンサーを発現させた細胞に、発光基質のルシフェリンを細胞に取り込ませる。この細胞に血漿を添加すると、血漿中のAVPが細胞表面のV2Rに結合し、細胞内のcAMP濃度が上昇する。cAMPバイオセンサーの発光量の変化として測定することで、間接的に血漿中AVP濃度を測定することができる。発光量が高いほど、血漿中に含まれるAVP濃度が高いことを表している。
【用語解説】
注1. cAMPバイオセンサー
cAMPが結合すると酵素活性を発揮する改変ルシフェラーゼ。細胞内cAMP濃度が上昇すると活性型となり、発光物質(ルシフェリン)から光が放出される化学反応を触媒する。本研究では、プロメガ社が開発したGloSensor-22Fと呼ばれるcAMPバイオセンサーを利用した。
注2. 放射免疫測定法(RIA法)
放射性同位元素を利用して、微量な生体成分の量を測定する方法。
注3. バソプレシン(AVP)
抗利尿ホルモンとも呼ばれるペプチドホルモン。腎臓での水の再吸収を促進させることにより、利尿を妨げる働きを持つ。
注4. Gタンパク質共役型受容体(GPCR)
細胞膜表面に存在する受容体タンパク質であり、細胞膜を7回貫通する特徴的な構造を持つ。細胞外に存在する特定のホルモンと結合することで細胞内に情報伝達を導く。すなわち、細胞外の情報を細胞内へ伝達する際に最も重要な機能を果たす。
注5. 2型バソプレシン受容体(V2R)
AVPを認識するGPCRの1種。腎臓の近位尿細管細胞に発現しており、バソプレシンに結合すると受容体機能がオンとなり、細胞内の三量体Gsタンパク質を介して、アデニル酸シクラーゼの酵素活性を増強させ、cAMPの産生を誘導する(図1参照)。
注6. サイクリックAMP(cAMP)
環状ヌクレオチドの1種であり、細胞内情報伝達物質(セカンドメッセンジャー)として働く。
注7. 中枢性尿崩症
バソプレシンが一部もしくはすべて欠乏することにより薄い尿が過度に作られる疾患であり、多飲?多尿などの症状を示す。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
教授 井上飛鳥
TEL:022-795-6861
Email: iaska*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
総務係
TEL: 022-795-6801
Email: ph-som*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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