2024年 | プレスリリース?研究成果
同位体モデルと精密観測によりメタンの「足あと」を辿ることが可能に ?メタンの放出量削減には農業およびごみ埋立における対策も重要?
【本学研究者情報】
〇大学院理学研究科地球物理学専攻
大気海洋変動観測研究センター 教授
教授 森本 真司(もりもと しんじ)
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- メタン放出の削減は短期的な温暖化の緩和に向けて非常に重要であり、近年活発化しつつあるメタン放出量の削減に向けた取組に資することを目的に本研究では部門別メタン放出量推定の精緻化に取り組んだ。
- メタン(CH4)の放出源はそれぞれ特徴的な同位体比を持つことから、メタン濃度に加えてメタン同位体比を大気化学輸送モデル(※1)に新たに導入し、過去30年間の大気中のメタン濃度の変動の要因となった主要な放出部門の特定を行った。
- 化石燃料由来のメタン漏出は1990年代から2000年代初頭にかけて減少したものの、その後は顕著な変動がなかったと推定された。これは、石油および天然ガス、シェールガス採掘に伴う漏出の増加を指摘する既存の推定結果とは大きく異なる。
- 1990年代から2010年代にかけて微生物起源のメタン放出が顕著に増加した。とりわけ、廃棄物埋立および農業?畜産業の寄与が75%を占めることがわかった。
【概要】
国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 大和 裕幸、以下「JAMSTEC」という。)北極環境変動総合研究センターのナヴィーン?チャンドラ ポストドクトラル研究員および地球表層システム研究センターのプラビール?パトラ上席研究員は、東北大学、気象庁気象研究所、国際応用システム分析研究所、国立環境研究所、国立極地研究所、コロラド大学、ユトレヒト大学の研究者と共同で、大気中メタン濃度の長期および短期的な変化に対して化石燃料および微生物起源のメタン放出がそれぞれどのように影響したかについて、放出インベントリ(※2)や高精度のメタン濃度および安定炭素同位体比の大気観測データと全球大気化学輸送モデルとを組み合わせて解析する手法を新たに開発しました。
本手法を用いて、過去30年間にわたる大気中のメタン濃度と安定炭素同位体比の変化を解析した結果、特に1990年代から2000年代初頭に化石燃料起源のメタン放出が顕著に減少し、その後はほぼ一定であったことが明らかになりました。さらに1990年代から2010年代にかけて、微生物起源のメタン放出が顕著に増加しており、その大部分は廃棄物埋立と畜産によるものであることがわかりました。また、湿地からのメタン放出は年々の変動には大きく寄与していますが、全放出量の増加に占める割合は比較的小さいこともわかりました。
この結果は、1990年代から2010年代にかけて石油?天然ガス関連でのメタン放出量が増加した、あるいは、米国でのシェールガス採掘に伴うメタン放出量の大きな増加があったとする従来の報告とは異なるものです。これまでのメタン放出量の総量および時間変化をより正確に把握するためには、化石燃料インベントリの排出係数や統計情報をさらに精査していく必要があると考えられます。またこれらの研究成果によって、過去の放出トレンドがより良く理解され、将来におけるより効果的な温暖化の緩和策立案に資する情報が提供されることで、国際的なメタン放出量削減の目標達成を支援できると期待されます。
本成果は「Communications Earth & Environment」誌に4月17日付け(日本時間)で公開されました。なお、本研究は文部科学省の「北極域研究加速プロジェクト(ArCS-Ⅱ)」(JPMXD1420318865)の支援を受けて実施されたものです。
図 1. 本研究の概念図。
安定炭素同位体比は、分子中の炭素同位体の存在量について標準試料の値との差異を相対的に表したもので、δ13C(デルタ13シー)と表されます。メタン放出源は、それぞれ特徴的な安定炭素同位体比を持っているため、観測された大気中濃度と同位体比、および大気中での化学反応における同位体比の変化量と放出量のバランスをとることにより、メタンの総量と各放出源の寄与を推定することが可能になります。
【用語解説】
※1. 大気化学輸送モデル:
大気中の化学反応過程や風などによる輸送過程を考慮し、大気中の様々な物質の分布とその時間変化を、大型計算機を用いて計算する数値モデル。過去の物質分布の変動要因を説明するためだけでなく、さまざまな化学物質の放出規制が将来の大気環境およびその気候に及ぼす影響を評価するためなどにも利用される。
※2. インベントリ:
一定期間内に特定の物質がどの排出源?吸収源からどの程度排出もしくは吸収されたかを示す一覧表のこと。温室効果ガスについて世界全体や各国における排出量を把握するために作成されている。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院理学研究科
附属大気海洋変動観測研究センター
教授 森本 真司(もりもと しんじ)
電話:022-795-5780
Email:mon*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院理学研究科
広報?アウトリーチ支援室
電話:022?795?6708
Email:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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