2024年 | プレスリリース?研究成果
ナノサイズのパラボラアンテナで光強度を1万倍増強 太陽光を増幅して化学エネルギー製造反応の実現へ
【本学研究者情報】
〇多元物質科学研究所 准教授 押切友也
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 可視光を集光可能なナノサイズのパラボラ(おわん)型光共振器(注1)を設計し、その集光原理を明らかにしました。
- 金属反射面と半導体から構成されるパラボラ型光共振器と金属ナノ粒子を組み合わせることで、入射光強度を局所空間で4桁(10,000倍)増強可能なことを示しました。
- 太陽光などの日常に存在する弱い光を集光することで、これまで困難とされてきた光化学?人工光合成反応への適用が期待されます。
【概要】
持続可能社会の実現のためには、エネルギー問題の解決が不可欠です。その方法論の一つとして、太陽光エネルギーを化学資源に変換する人工光合成(注2)の実用化が待たれています。しかし、太陽光が単位時間あたりに単位面積を通過する光子(注3)の数であるエネルギー密度(光子束密度(注3))は低く、複雑な反応の実現は困難であるとされてきました。
東北大学多元物質科学研究所の押切友也准教授と中川勝教授の研究グループは、一般的な放送衛星(BS)からの受信用アンテナの100万分の一という極めて微少なサイズのパラボラ型の金属反射面と半導体から構成される光ナノ共振器を開発し、可視光を捕集して金属ナノ粒子に集めることで光強度を4桁(10,000倍)増強できることを、電磁界シミュレーション(注4)を用いて明らかにしました。
局所的に光の強度を増大させると、そこで生成する電子と正孔の数も増大します。その結果、従来は困難とされてきた窒素の還元によるアンモニアの製造や、二酸化炭素の還元による炭素化合物の製造といった、多電子反応を推進する新たな光化学反応場として開発した光ナノ共振器の活用が期待されます。
本成果は、科学誌The Journal of Physical Chemistry: C に 3月14日付で、オンライン掲載されました。
図1. 一般的なBS受信用パラボラ型アンテナ(左)と、本研究で用いたナノサイズのパラボラ型光共振器(右)。1ナノメートルは10億分の1メートル。
【用語解説】
注1.光共振器
光の共振により干渉が生じ、特定の波長の光を一定時間、一定の空間に光を閉じ込めることが可能な装置。本研究で用いた、金属反射膜と半導体から構成されるパラボラ型光共振器と、金属ナノ粒子が示すプラズモンは、どちらも光共振器の一種と言える。
注2.人工光合成
植物の光合成の仕組みをまねるところから始まった、人工的に太陽光エネルギーを化学エネルギーに変換させる反応。ここでは、i)太陽光中の可視光を光エネルギー源として用いる、ii)水を電子源として用い、水の酸化に基づいて酸素を生成する、iii)エネルギー蓄積反応により、始状態よりも高エネルギー物質を生成する、という条件を満たすものを指す。
注3.光子、光子束密度
光子は物質の最小単位である素粒子の一つで、光(電磁波)を粒子と考える場合の名称。光子束密度は単位時間あたりに単位面積を通過する光子の数。光量子束密度ともいう。典型的な太陽光の光子束密度は波長400 nmで1× 1015 光子? cm-2?s-1 である。
注4.電磁界シミュレーション
4つの電界?磁界(電場?磁場ともいう)についての基礎方程式を数値的に解くことで、電界?磁界分布の物理構造の相互作用を解析するシミュレーション。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 光機能材料化学研究分野
准教授 押切 友也(おしきり ともや)
電話:022-217-5671
Email:tomoya.oshikiri.c1*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
電話:022-217-5198
Email:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
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