2024年 | プレスリリース?研究成果
堅固で低温でも充放電可能な岩塩型構造の正極材料の提案 資源豊富なマグネシウムを使用する蓄電池の実現に貢献
【本学研究者情報】
〇金属材料研究所 助教 河口智也
金属材料研究所 教授 市坪哲
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- マグネシウム(Mg)が移動しにくかった岩塩型構造を改良し、低温でもMgを挿入?脱離しやすいマグネシウム蓄電池(注1)に用いる酸化物の正極材料としての作動を実証しました。
- 原子が密に配置した岩塩型構造は、劣化した酸化物正極材料の「成れの果て」の構造として、Mgの移動が困難であると考えられていましたが、多種の金属元素を混合した組成を設計することで、Mgの移動を促す空間(カチオン空孔)を安定かつ大量に含む結晶構造を実現できます。
- 安価?安全?高容量を実現する次々世代蓄電池として、マグネシウム蓄電池の実現が期待されます。
【概要】
資源として豊富なマグネシウム(Mg)を用いるマグネシウム蓄電池(Rechargeable Magnesium Battery: RMB)は、安価で安全?高容量な次々世代蓄電池として期待されています。RMBの実現には、Mgを円滑に挿入?脱離できる正極材料が必要ですが、Mgは固体中を移動しにくいことが高性能な正極材料の開発を阻んでいました。例えば、これまでに提案されてきたスピネル型構造(注2)の正極材料では、Mgの移動を促進するために150 ℃まで加熱する必要がありました。またMgを挿入することで、スピネル型構造からMgの移動がより困難な岩塩型構造(注3)に変化し、実質的に利用可能な容量が目減りした結果、電極が劣化することが問題でした。
東北大学金属材料研究所の河口智也 助教と市坪哲 教授らは、Mg以外に6種類の金属元素を混合することで、Mgの移動を促す空間を安定かつ大量に含む岩塩型構造の新たな正極材料を開発しました。岩塩型構造はMgの挿入?脱離が困難とされていましたが、90 ℃とこれまでよりも低い温度で挿入?脱離が実現できることを実証しました。広範囲にわたり容易に入手可能なMgを用いた蓄電池が実現すれば、資源を巡る国際的競争の緩和など、持続可能な社会の実現への貢献が期待されます。本成果は2024年3月15日10:00(英国時間)に、エネルギーに関する専門誌Journal of Materials Chemistry Aにオンラインで公開されました。
図1. マグネシウム蓄電池の概念図。リチウムイオン電池と同様に、Mgが正極と負極間を電解液を介して移動することで、蓄電池として作動する。従来型のリチウムイオン電池と大きく異なるのは、リチウムイオン電池では黒鉛が使用されていた負極材料に、容量が大きいマグネシウム金属を用いる点である。
【用語解説】
注1.マグネシウム蓄電池:負極に金属マグネシウム、正極に酸化物や硫化物を用いて繰り返し放電と充電ができる二次電池(蓄電池)。放電時はMg金属負極から電解液に溶解したマグネシウムイオンが、正極材料に挿入されることで作動します。マグネシウム電池は一度しか使用できない一次電池であるのに対して、マグネシウム蓄電池は充電することで、繰り返し使用できます。
注2.スピネル型構造:鉱物などでもみられる結晶構造の一種で、スピネル型構造の酸化物は一般にM3O4の組成式で表されます。この構造では、酸素が構成する面心立方格子の中で、カチオンが四面体位置の一部と、八面体位置の一部に一定の規則に従い占有します。酸素の数に対してカチオンの数は4分の3と少ないため、間隙が多くカチオンの移動に有利な構造です。実際、このことに由来して、初期のマグネシウム蓄電池の酸化物正極材料で、Mgの可逆的な挿入?脱離が確認されたのはスピネル型構造を有する材料でした。
注3.岩塩型構造:食塩(NaCl)に由来する結晶構造で、岩塩型構造の酸化物は一般にMOの組成式で表されます。この結晶構造では、原則的には酸素の面心立方格子内の八面体位置全てにカチオンが占有します。その結果、スピネル型構造とは異なり、酸素の数とカチオンの数が同数であるため、カチオンが動く隙間がほとんどない「密な」構造です。本研究では、カチオンの占有位置に意図的に空孔を導入することで、この結晶構造を有する正極材料の動作を実現しました。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学金属材料研究所 構造制御機能材料学研究部門
助教 河口 智也
TEL:022-215-2372
Email:tomoya.kawaguchi.b3*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
教授 市坪 哲
Email:tichi*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学金属材料研究所 情報企画室広報班
TEL:022-215-2144 FAX:022-215-2482
Email:press.imr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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