2024年 | プレスリリース?研究成果
ガラス越しのレーザー照射でナノ加工を実現 空気との界面での光の全反射によって加工分解能が飛躍的に向上
【本学研究者情報】
〇多元物質科学研究所 准教授 小澤祐市
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 材料と空気の界面での光の反射?屈折の効果を詳細に検討することで、レーザー微細加工における加工分解能を飛躍的に向上できる条件を発見しました。
- ガラスの裏面にベクトルビームと呼ばれるレーザー光を照射して裏面に集光させると、裏面にはレーザー波長の1/16程度となるナノメートルスケールの微小な穴が形成されました。
- 半導体産業を始めとしたレーザー微細加工の応用分野でのさらなる微細化?高精度化に向けた新たな加工方法を提案します。
【概要】
レーザー光による穴あけ、切断などのレーザー加工技術は、自動車や半導体産業、医療器具などの製造過程において重要な役割を果たしています。近年は、小型部品や精密機器に対する加工精度や加工分解能の向上が強く求められており、これを達成するレーザー加工技術の開発が喫緊の課題となっています。
東北大学 多元物質科学研究所の津留志音 大学院生(同 大学院工学研究科)、小澤祐市 准教授、上杉祐貴 助教、佐藤俊一 教授のグループは、ベクトルビーム(注1)と呼ばれる特殊なレーザー光をガラスの裏面に集光する条件において、ガラス界面での全反射(注2)の効果を使うことで界面近傍に極めて微小かつ高強度の集光点を形成できることを明らかにしました。このような条件でレーザー加工を行うと、使用した近赤外光の波長1040ナノメートルの1/16程度に相当する直径67ナノメートルの非常に小さな加工穴が得られることを実証しました。本結果は、集光したレーザー光を用いた材料の直接加工でのさらなる微細化?高精度化へ向けた新たな技術基盤となることが期待されます。
本成果は、2024年3月1日(米国時間)付で光科学分野の専門誌Optics Lettersに掲載されました。
図1. (a)放射状の偏光分布を持つリング状ベクトルビームのガラス裏面への集光の模式図。(b) ベクトルビーム(波長1040 ナノメートル)に対してリングマスクの外径?内径比(レンズ直径に対する比率)を変えながら開口数1.4の油浸対物レンズでガラス裏面に集光した場合の界面でのスポットサイズを各条件で計算した結果。界面で全反射となる臨界角の条件(矢印)で最小サイズが得られる。
【用語解説】
注1. ベクトルビーム
光は電磁波であり、電場(磁場)は時間的に振動する性質を持つが、その振動方向がそろっている状態を偏光と呼ぶ。偏光方向がビーム断面において分布を持つビームをベクトルビームと呼ぶ。特に、半径方向に放射状に偏光したビーム(径偏光とも呼ぶ)は、その軸対称に起因した様々な性質を生み出すことができ、近年注目されている。
注2. 全反射
屈折率が大きい媒質から小さい媒質に光が入射する際に、大きな入射角で入射光が全て反射される現象。水中から水面を見た際に、鏡のように見える場合は全反射が起こっている。透過側媒質での屈折角が90度となる入射角を臨界角と呼び、ガラスと空気での界面では入射角が40度程度で生ずる。本研究では、この臨界角の条件でベクトルビームを集光することが重要であることが明らかになった。
詳細(プレスリリース本文)※3月12日に訂正版へ差替え
※5頁【論文情報】のタイトルを訂正いたしました。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
准教授 小澤 祐市
TEL: 022-217-5146
Email: y.kozawa*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
Email: press.tagen*grp.tohoku.ac(*を@に置き換えてください)
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