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ヌタウナギが明らかにする脊椎動物のゲノム進化 -脊椎動物進化の大イベント「全ゲノム重複」の時期を特定-

【本学研究者情報】

〇生命科学研究科 助教 上坂将弘
研究室ウェブサイト

【概要】

理化学研究所(理研)開拓研究本部倉谷形態進化研究室のフアン?パスクアル?アナヤ客員研究員、生命機能科学研究センター形態進化研究チームの上坂将弘客員研究員(東北大学大学院生命科学研究科助教)、倉谷滋チームリーダー(開拓研究本部倉谷形態進化研究室主任研究員)ら、7カ国40人以上から成る国際共同研究グループは、顎(あご)のない脊椎動物である円口類[1]の一種、ヌタウナギ[2]のゲノムを初めて解読し、脊椎動物の進化で生じた2回の全ゲノム重複[3]のタイミングを突き止めました。

本研究成果から、われわれヒトを含む脊椎動物がどのように進化してきたのか、その理解がさらに深まることが期待できます。

現生の脊椎動物は、ヒトなど顎を持つ顎口類(がっこうるい)と、ヌタウナギなど顎を持たない円口類に大別されます。両者はいずれも、祖先種のゲノム全体が重複し遺伝子が倍加する「全ゲノム重複」を複数回経て進化したと考えられています。

今回、国際共同研究グループは、日本近海に生息するヌタウナギのゲノムを詳細に決定し、脊椎動物のゲノム進化をより正確に解析しました。その結果、最初の全ゲノム重複が約5億3千万年前の初期カンブリア紀に、2回目の重複が、顎口類が円口類と分岐した後の約4億9千万年前に顎口類の共通祖先で起きたことが示されました。また、円口類では約5億年前にゲノムの3倍化が生じたことも明らかになりました。さらに、顎口類と円口類で起きたゲノム重複による進化への影響を調べたところ、顎口類ではゲノム重複が形態の多様性をもたらした可能性があるのに対し、円口類では、顎口類のような著しい形態の多様化は見られませんでした。これは、全ゲノム重複の形態進化への影響が予想以上に複雑であることを示唆する重要な知見です。

本研究は、科学雑誌『Nature Ecology & Evolution』オンライン版(1月12日付)に掲載されました。

ヌタウナギ(左)と脊椎動物進化における全ゲノム重複のタイミング(右)

【用語解説】

[1] 円口類
現在生存している顎のない脊椎動物であるヌタウナギ類、ヤツメウナギ類の総称。特にヤツメウナギの口器が吸盤状になっているため「円口類(Cyclostomata)」と命名された。

[2] ヌタウナギ
円口類に属する顎のない脊椎動物の一群。細長い体型のため「ウナギ」と呼ばれるが、真骨魚ウナギ目の仲間ではない。脊椎骨が退化しているため、かつては脊椎動物の前段階の動物と見なされていた。ほとんどの種が深海に生息するため、生態や個体発生に謎が多いが、理研形態進化研究グループは、日本産の浅海性ヌタウナギ(Eptatretus burgeri)から世界で唯一、実験室内での胚の取得に成功している。眼は退化しており、粘液腺から粘液を放出し、捕食や防御に用いる。

[3] 全ゲノム重複
生物が持つ全遺伝情報であるゲノムが、そのまま倍化する現象。ゲノムにコードされている遺伝子も全て倍化し、新しい機能を持った遺伝子が生じる余地が生まれるため、生物進化の大きな駆動力になると考えられている。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
助教 上坂将弘
TEL: 022-795-6677
Email: masahiro.uesaka.d5*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
高橋さやか
TEL: 022-217-6193
Email: lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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