2024年 | プレスリリース?研究成果
キラルな高圧氷と水の界面にキラル液晶らしき水を発見 ―水と鏡のミステリアスな関係―
【本学研究者情報】
〇多元物質科学研究所 助教 新家寛正
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- キラリティ(注1)を持つ高圧氷III(注2)と水の界面に現れる未知の水にキラル秩序を発見しました。
- 未知の水がキラリティを持つ液晶(注3)状態を取る可能性を示すダイナミクスを捉えることに成功しました。
- 未知の水に"homoimmiscible water"という英語名と"同素不混和水"(注4)という日本語名を命名しました。
- 生命におけるキラリティと水の関係性に新たな視点を提起する成果です。
【概要】
水は人類を含む生物にとって極めて身近で重要であり、多くの自然現象を支配する奇妙な性質を示す液体でもあります。またキラリティという、右手と左手の関係のような鏡合わせの構造同士が異なる性質は、自然界に普遍的に存在し、生命の起源とも関わる重要な性質です。
東北大学多元物質科学研究所の新家寛正助教、北海道大学低温科学研究所の木村勇気教授、鳥取大学工学部機械物理系学科の灘浩樹教授と東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻/附属先進科学研究機構の羽馬哲也准教授を中心とする研究グループは、これまでの研究で様々な氷と水との界面にできる通常の水と混ざり合わない低密度および高密度な未知の水や、液晶らしき未知の水を発見しています(文末の過去のプレスリリース参照)。今回、結晶構造にキラリティを持つ高圧氷IIIと水の界面に液晶らしき未知の水が現れる際に生じる波模様にキラリティがあることを発見しました。これにより、氷IIIと水の界面に現れる未知の水は、キラリティを持つ液晶である可能性を世界で初めて示しました。本成果は、水とキラリティが関わる広範な科学領域に分野を問わず貢献します。
本成果は、物理化学分野の専門誌The Journal of Physical Chemistry Letters に1月11日(米国太平洋標準時間)付でオンライン掲載されました。
図1. 水/氷III界面における同素不混和水のスピノーダル様の生成ダイナミクスの微分干渉光学顕微鏡その場観察像。
A:加圧により成長する氷III単結晶と波模様を呈しながら界面に形成する同素不混和水。
B:図Aの拡大像。同素不混和水が両連続的な波模様を形成していることがわかる。
C:図Bの2次元高速フーリエ変換像。特定方向に伸長した渦状のパターンが生成されていることがわかる。
D : 同素不混和水の模式図。
【用語解説】
注1. キラリティ
鏡合わせの関係にある2つの構造が異なる性質のことを指す。キラリティがあることをキラルといい、キラルな構造の代表例には人間の手の形がある。右手の形を鏡に映すと左手の形になり、これら鏡像体の形は異なるため、手の形にはキラリティがある。一方で、例えば、立方体を鏡に映した構造は立方体であり、立方体の鏡像体同士は同じ構造を示すため、立方体にはキラリティがないことになる。キラリティがないことをアキラルという。人間の手の形の他に、キラリティがある構造の例として、右巻きと左巻きが存在するらせん構造が挙げられる。
注2.高圧氷III
私たちが普段目にする氷は氷Ihと呼ばれ、六角柱状の水分子の並びを基本構造とした六方晶系という結晶構造に分類される。その一方で、水を加圧することで結晶化する高圧氷も存在する。高圧氷は氷Ihとは結晶構造が異なる。中には0℃以上の温度で結晶化する高圧氷も存在する。本研究で着目した氷IIIは高圧氷の一種で正方晶系という結晶構造に分類される、正方形を底面とした直方体の形を基本格子とした結晶である。さらに、氷IIIを構成する水分子はらせん状に配列されているため、氷IIIの結晶構造にはキラリティがある。
注3. 液晶
結晶と液体の中間にある物質の状態で、ガラスとは異なり緩やかな規則性を持っている状態を指す。すなわち、結晶の持つ周期性や物性の異方性と、液体の持つ流動性を併せ持つ物質の状態である。
注4. 同素不混和水
本研究で命名した、水と氷(高圧氷)の界面においてバルクの水と分離し生成する未知の水の総称。科学用語の"同素体"と"液体不混和"を基にした名称である。同素体とは、グラファイトとダイヤモンドのように、同じ原子で構成されていながらも、原子の並び方の違いによって異なる性質を示す物質群を指す用語である。一方で、液体不混和とは、水と油のように液体同士が混ざり合わない現象を指す用語である。液体不混和は異なる元素で構成される液体同士で一般的にみられるが、水と未知の水は同じ水であるため、同素体の液体不混和と見なすことができる。そのため、未知の水を同素不混和水と命名した。
詳細(プレスリリース本文)※2024年1月12日に訂正版へ差替え
※以下のとおり訂正いたしました。
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修正前:1月10日18時(米国太平洋標準時間)付でオンライン掲載されました。
修正後:1月11日(米国太平洋標準時間)付でオンライン掲載されました。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 光機能材料化学研究分野
助教 新家 寛正 (にいのみ ひろまさ)
電話:022-217-5671
E-mail:hiromasa.niinomi.b2*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
電話:022-217-5198
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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