2023年 | プレスリリース?研究成果
リュウグウの岩石試料が始原的な隕石より黒いわけ 地球に飛来した隕石は大気と反応し「上書き保存」されて明るく変化した
【本学研究者情報】
〇大学院理学研究科地学専攻
客員研究者 天野 香菜(あまの かな)
大学院理学研究科地学専攻
教授 中村 智樹(なかむら ともき)
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 小惑星探査機「はやぶさ2」(注1)が小惑星リュウグウ(注2)から回収した試料は地球大気と反応することが知られており、本成果では、試料の持つ宇宙の情報が地球の情報で「上書き」されないよう、試料を大気にさらさず反射スペクトル(注3)を測定することに成功しました。
- リュウグウの岩石試料(以下、リュウグウ試料)は、リュウグウと同種の小惑星から地球に飛来した始原的(注4)な隕石よりも圧倒的に黒いことがわかっていました。この原因を探るため、本成果では隕石を加熱?還元する実験を行い、隕石が地球大気に含まれる水や酸素と反応したことで宇宙にあった状態から反射スペクトルが大きく変化し明るくなったことを示しました。
- 今後、隕石の地球上での変質による反射スペクトルの変化を考慮することで、観測による小惑星構成物質の特定の精度を上げることができます。
【概要】
小惑星回収試料や隕石の反射スペクトルは、観測で得られる小惑星の反射スペクトルから小惑星の構成物質を特定するための手がかりとなります。
東北大学大学院理学研究科地学専攻の天野香菜大学院生(現、客員研究者)、中村智樹教授、国立研究開発法人 産業技術総合研究所の松岡萌研究員、東京大学大学院理学系研究科附属宇宙惑星科学機構?地球惑星科学専攻の橘省吾教授らの研究グループは、小惑星探査機はやぶさ2が小惑星リュウグウから回収した試料を地球大気と反応させないように工夫して反射スペクトルを測定しました。リュウグウ試料、リュウグウと同種の小惑星から飛来した隕石、および隕石を実験的に加熱した試料を比較し、隕石が地球大気の水や酸素と反応したことでその反射スペクトルが宇宙にあった状態よりも明るく変化したことを示しました。本成果を踏まえ、隕石の地上での変質によって反射スペクトルがどのように変化しうるかを考慮することで、観測によって小惑星の構成物質を特定する精度の向上が期待されます。
本成果は2023年12月7日に米国科学振興協会(AAAS)が発行する学術誌Science Advancesに掲載されました。
図1. リュウグウ試料とオルゲイユ隕石(CIタイプ)の写真。リュウグウ試料はオルゲイユ隕石に比べて暗い物質が大部分を占めている(左?JAXA、右?著者撮影)。
【用語解説】
注1 小惑星探査機「はやぶさ2」:
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が運用する小惑星探査機。地球の水や生命の起源の探求を目的とし、小惑星リュウグウの近傍観測と試料回収を行った。
注2 小惑星リュウグウ:
太陽から遠い低温領域で形成された天体に由来を持ち、含水鉱物や有機物を含む小惑星。直径900メートルで大気を持たない。
注3 反射スペクトル:
物質の表面に入射した光が反射される割合を波長ごとに分けて測ったデータのこと。小惑星の観測では太陽光がその光源となる。
注4 始原的:
太陽系の形成初期から化学組成が大きく変化していない状態。母天体で強い加熱や溶融を経験していないことを指す。
*「はやぶさ2初期分析チーム」の【石の物質分析チーム】
「はやぶさ2初期分析チーム」につきましては、
?「はやぶさ2」初期分析チーム
2021年6月より試料の分析開始(https://www.
?リュウグウはイヴナ型炭素質隕石でできている(https:/
?炭素質小惑星リュウグウの形成と進化:
?小惑星リュウグウ試料の希ガスおよび窒素同位体組成―
?「はやぶさ2」
?日焼けで隠された水に富む小惑星リュウグウの素顔(https
?
?小惑星リュウグウ試料中の黒い固体有機物(https://
?炭素質小惑星(162173)
?小惑星リュウグウでみつかった窒化した鉄の鉱物―
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院理学研究科 地学専攻
客員研究者 天野 香菜(あまの かな)
Email: amakana*dc.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学大学院理学研究科 地学専攻
教授 中村 智樹(なかむら ともき)
Tel: 022-795-6651
Email: tomoki.nakamura.a8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院理学研究科
広報?アウトリーチ支援室
TEL: 022-795-6708
Email: sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)